30.夫婦の再会(2)
「のわりには、のんびりしているように見えますけどね」
そこでティメルはくるりと背を向けた。
「あ、そうそう、私の部下から連絡がありました」
「なに?」
ティメルは振り返りもせずに言葉を続ける。
「どうやら、隣国サライトは港に大量の船を集めているとか。それに協力しているのが、島国のバクスタという噂です」
それだけ言い終えると、ティメルは扉をパタンと閉めて出て行った。
船。気になるところだ。海上の方まで飛竜を飛ばす必要があるかもしれない。そう考えながら、最後の一枚の急ぎの書類に押印を終えた。
柱時計に目を向けると、日付はとっくに変わっている時間帯。この時間であれば、彼女もぐっすりと夢の世界に行っていることだろう。
小さく息を吐くと、デーセオは逸る気持ちを押し込めて、寝室へと向かった。
一目、顔を見るだけだ。と、そう自分に言い聞かせて。
寝室の扉を開けると、廊下の柔らかい光がその隙間から部屋へと入り込む。それを遮るかのように、扉を閉めると、また奥の扉から寝室へと向かう。
目が慣れてきたからか、暗闇でもどこに何があるかはわかる。そっと寝台に近づき、彼女の顔を見下ろすように寝台に腰をおろす。
――少し、ふっくらとしたか?
あの日、肌を合わせた夜と比べると、肉付きが良くなったような気もする。頬が以前よりも丸くなったように見える。よくわからないのは、この部屋が薄暗いから。だから、それを確かめたくて、その頬に手を寄せそれに触れた。
「旦那様?」
声をかけられその手を引こうとしたが、それができなかったのは先にレーニスに手を重ねられてしまったから。愛おしそうにその手を頬にすり寄せると。
「お帰りなさいませ、遅くまで大変ですね」
「いや、気にするな。それより、起きなくていいから、寝ていろ」
身体を起こそうとする彼女を制した。
「仕事でこちらに来る必要があったからな。あちらに戻る前にお前の顔を見たくなった」
デーセオの本音が零れた。レーニスの顔が見たかった。だけど、見られたくなかった。また矛盾する想いが込み上げてくる。それでもその気持ちを和らげてくれるのは、この暗闇でぼんやりとしか目の前の人物を認識できないような状況だからだろう。
「今日は、こちらで休まれるのですか?」
「あ、ああ、そうだな」
本当は彼女の顔を見たら、すぐに向こうへ戻ろうとしていた。だが、こうやって見つかってしまった以上、この時間に戻っては不審がられてしまう。
「あの、旦那様……」
彼女の表情はよく見えない。だけど、その声を聞くだけでも気持ちが昂ってしまう自分がいるのが不思議だった。
「失礼だとは思うのですが」
「何だろうか。遠慮せずに口にしろ」
もしかして彼女の方からのお誘いだろうかとか、そんな都合のいいことを考えていた。一目その顔を見るだけのつもりだったのに、このように彼女に触れて、このように言葉を交わしてしまったら、それだけで済むはずもない。そのことにこの新妻は気付いているのだろうか。
「あの、本当に失礼なことを口にするのですが、本当に申し訳ないのですが」
重なっている手にレーニスが力を込めたことに、デーセオは気付いた。
「もしかして、呪われていらっしゃいますか?」




