23.不器用な竜騎士(1)
ティメルが驚いたのは、あの北の砦にまで逃げていたデーセオが、夕方にはこの飛竜舎に戻ってきたことだった。
「早いお戻りですね」
と、わざとそう声をかけると、デーセオは顔を歪ませる。
「新婚なのだから、さっさと帰れとあいつらから追い出された」
ティメルは吹き出しそうになった。本当にこの上官の部下は優秀な者たちばかりだ。
「でしたら、屋敷に戻られた方がいいのではないですか?」
ティメルが言うと、デーセオはじろりと視線を向けてくる。
「今日からここに泊まる」
こことはすなわち竜騎士のための宿舎のこと。
「ああ、そうだ」
上着の一番上のボタンを緩めながら、デーセオは思い出したように口を開く。
「北の砦の様子だが、まあ、相変わらずだ。だがな、隣国の動きがいつもと違うように感じた」
ティメルも、ぴくりと眉尻を反応させる。隣国の動き、それは気になるところだ。
「あまり近づくこともできなかったが、どうやら、向こうの砦にいる騎士たちの数が減っているように見えた」
砦の騎士の数が減る。それは即ち、他の場所に人を回しているということで。
「気になりますね」
「だろう? 行ってきた甲斐はあったということだ」
そうやって新妻から逃げている行為を正当化させている。
「ところで。レーニス様は、デーセオ様にお会いしたがっておりましたよ」
ティメルの言葉に、デーセオはピクリと眉尻を動かした。
「会ったのか?」
ティメルがレーニスと会って話をしたことを咎めるような口調だ。
「ええ。飛竜のことで少し相談にのってもらいましたので」
「飛竜? 飛竜に何かあったのか」
「ええ。そちらも報告せねばと思っていたところです」
デーセオは竜騎士用の騎士服の上着を脱ぎながらティメルの報告を聞いていた。
「なるほどな」
着替え終わったデーセオは、使用人を呼びつけるとお茶を淹れるように指示をする。この人は本当に帰らないつもりだな、とティメルは察する。
「まあ、昨日は特別といったら特別だからな」
そう思っているなら、帰れよと言いたいティメル。
「デーセオ様。なぜ、屋敷にお戻りにならないのですか?」
表現を変えて、やんわりと尋ねてみることにした。するとデーセオがものすごい形相で睨んできた。
「何度も聞くな。この顔を彼女の前に晒すわけにはいかないだろ」
やはりそれが理由なのか、とティメルは思ったのだが、恐らくレーニスはそのようなことを気にするような女性ではないだろうとも思っていた。どうしてティメルがそう感じたのかはわからない。なんとなく、としか。
「ですが、レーニス様はデーセオ様にお会いしたそうでしたよ。お話、された方がいいのではないでしょうか?」
「顔を晒さずに、か?」
呪われた当初は、その顔を晒すことに抵抗の無かったデーセオが、なぜかレーニスという女性を手に入れてから頑なに拒んでいる。気にするなと言っても、恐らくもっと気にするだろう。
「まあ、デーセオ様がお気になされるのであれば、いつものようにフードでもかぶってお会いすればよろしいではないですか」
「会ったら、会うだけでは済まない自信がある」
何の自信だよ、とティメルは盛大に心の中でツッコミを入れたいところだが、この年まで浮ついた話もなく、あのような年の離れた可愛らしい嫁を手に入れたのであれば、男の本能というものが疼くのだろう。
「ですが。レーニス様が可哀そうですよ。お金を払って買ったのであれば、きちんとお世話をしましょう」
ティメルはわざとそう言った。他の誰よりも高い金を払って手に入れた彼女なのだ。他の者に奪われたくないために。
「それは、サンドラたちに頼んである。問題は無い」
いやいや、問題だらけです、というティメルの心の声は届かない。そろそろ心の声を、声を大にして伝えた方がいいだろうか。
「でしたら、一つだけ確認をさせてください」
「なんだ」
「デーセオ様は、レーニス様を愛していらっしゃるのですか?」




