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20.竜騎士の葛藤(2)

「部隊長。飛竜の準備が整いました」


 デーセオはこのクレイデル王国の騎士団の竜騎士部隊の部隊長も務めている。そして竜騎士たちは彼の領地を拠点としている。フルヘルト領は広大で豊かな土地に恵まれているため、飛竜の生息にとって都合がいいのだ。また、国境を守る砦として竜騎士たちもそれの一部を担っている。


「そういうことだ、ティメル。俺は北の砦に行ってくる」


 まるでティメルからも逃げるかのようにデーセオはそう言葉を残すと、部下と共に愛馬ではなく愛飛竜の元へと向かった。


「ティメル殿」

 一人の竜騎士がティメルを呼んだ。

「飛竜の様子がおかしいので、様子を見てもらえないでしょうか」


 魔術師ティメルの仕事は多岐にわたる。竜騎士ではないのに、この竜騎士部隊に所属しているのは、その彼の力が万能だからだ。具合のよくない飛竜を診ては、それの原因を探り、そして必要な薬や魔法を与える。他に、魔法というもので火を操ったり水を操ったりすることもできるのだが、それは主に魔獣討伐時に使用する。人からの信頼も厚い。それに人を使うことにも長け、調査能力も優れているのだが、人の上に立つということは好きではない。だからあのデーセオの部下で彼のサポートをしながら、彼をいじるというこの立場であることが、丁度よかった。つまり、ティメル自身にとっても彼に死なれては困るということ。

 そのために連れてきたレーニスという元聖女にはもう少し頑張ってもらう必要がありそうだ。


「どの飛竜だ?」


「この子です」


 飛竜舎でぐったりとしている飛竜がいた。怠そうに寝そべっている飛竜。ただ休んでいるというその状態とは程遠い。


「鱗の色が変わっていないか?」

 ティメルの指摘に竜騎士も目を凝らす。そう言われると、この飛竜はもともと青い鱗で覆われているはずなのに、その色が少し薄くなっているようにも見える。

「いつからこのような調子であるのか、わかるか?」


 昨日はデーセオの結婚式で、この領地の全てが浮かれていた。自分もその浮かれていた人間の一人なのだから、それは認める。だが、飛竜たちは普段と変わらずここにいた。飛竜舎の番たちも、昨日の祝いムードの中、交代でその任務についていたはずだが。

 隣国の仕業か、とティメルは一瞬考えた。浮かれた隙をついて、この飛竜舎に忍び込んだのか、と。

 いや、それはない。隣国が攻め入ってくるのであれば、あの北の砦を突破してくる必要がある。集団でなくても暗殺者のような個人であったとしても、あの砦を超えずに来ることは不可能だ。北の砦からは不審者の情報は上がってきていない。

 となると。

 病気、だろうか。だが、優秀な魔術師であるティメルでさえ、その原因に心当たりは無かった。

 となると、心当たりがもう一人。こういった病の症状に詳しいような人間がいる。


「悪いが、一度、屋敷に戻らせてもらう」


「ティメル殿?」

 竜騎士は不思議そうにティメルを見てきた。


「ああ、すまない。この症状は私も初めて目にした。だから、よくわからない、というのが正直な意見だ。有識者に相談したいので、一度、屋敷に戻る」


「有識者、とは?」

 竜騎士にとって、この魔術師ティメルよりも知識に長けているような人物に心当たりは無い。


「部隊長の奥様、だ」


「あ。そういえば、部隊長。昨日、結婚されたばかりじゃないですか。なぜ、ここにいらっしゃるんですかね。それに、飛竜に乗って、あっちの方に飛んで行っちゃいましたよ。新婚なのに? 何やってるんですかね。しかも奥様、可愛らしい方でしたよね。本当に相手があの部隊長でいいのか、っていうくらい」

 恐らく、この竜騎士も我慢していたのだろう。ティメルの言葉によって箍が外れたかのように次から次へと言葉が出てきた。


「まあ、そう言うな。あの年まで浮いた噂一つ無くやってきた部隊長だ。あのような若くて可愛らしい奥方をもらって、どうしたらいいかわからないらしい」

 もらった、というよりは金で買ったというのが正解だが、それはデーセオとティメルのみが知る真実。

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