19.竜騎士の葛藤(1)
「それで、新妻から逃げ出してきた、ということですか?」
デーセオの話を聞いていたティメルは盛大にため息をついた。呪いを解くためにという裏心満載で妻としてここに連れてきた元聖女候補であるが、その妻と一夜を共にしたことがきっかけで、余計に彼女と一緒にいることができなくなったと、優秀な魔術師に打ち明けていたデーセオである。
「しかも、その言い訳が北側の砦の見張りがあるから、ですか。あんな場所、飛竜で行けばすぐそこじゃないですか」
デーセオが逃げてきた場所は飛竜舎だ。ここには、デーセオの部下たちの竜騎士の飛竜たちが、主によって世話をされている場所。そしてこの飛竜舎の隣に、竜騎士たちの宿舎もあるのだが、領主であるようなデーセオは普段はここで寝泊まりなどしない。
はずなのに。
当分、ここで暮らすとか言い出すデーセオ。ティメルが理由を尋ねたら、昨日の式の後のこととデーセオ自身の本心をぽつぽつと言葉にし始めた、というわけだ。
「こじらせている片思いではないのに、何をやっているんですか」
「何って。やることをやっただけだ」
「やることをやって、そして新妻から逃げてきた、と。情けない。これならレーニス様を養子にされた方がまだマシだったのでは?」
「いや、養子ならば。彼女の嫁ぎ先を決める必要があると言ったのはお前だろう。禿エロ親父のようなところに嫁ぐようなことになったらどうするんだ」
「その結果、エロ親父に嫁いだというわけですよ」
ティメルの言っているエロ親父がデーセオであることを自覚していないわけではないが。
「デーセオ様。若くて可愛らしい妻を手に入れて浮かれているのはわかりますが。何のためにレーニス様を妻としたのか、もう一度お考え下さい」
「それは、俺の呪いを解いてもらうため、だな」
「それで。その呪いが解けなかったら?」
「俺は死ぬな」
「そうなったら、レーニス様はどうなりますか?」
「若くして未亡人……」
「そこまでは理解していらっしゃるのですね。まあ、デーセオ様がお亡くなりになられた後は、我々で奥様の面倒をみますから、安心してあの世に逝ってください」
「冷たいな、お前……」
「でしたら。その呪いを解いて、長生きしようとしてください」
「それには、彼女に力を取り戻してもらう必要があるだろう」
「お忘れになったのですか。もう一つ、解呪の方法があることを」
ティメルに指摘され、デーセオは思い出す。
解呪の方法、それは聖女による聖なる力による解呪か、呪いをかけた魔術師を殺す。
「あっちの魔術師を殺す、か」
「デーセオ様にはそのくらいの勢いがあった方がいいのかもしれませんね。今頃、あなた様に呪いをかけた魔術師も、いつ殺しにくるのかと、ガタガタと震えあがっているかもしれませんよ」
ティメルはふふっと笑った。
「ただ。レーニス様を、あのようなクズの屋敷からこちらに連れ出すことをご決断なされたことだけは褒めてさしあげます。今頃、レーニス様もあなた様の奥方としての教育を熱心に受けていることでしょうね。サンドラが鍛え甲斐があると喜んでいましたから。それに、あなた様がレーニス様を娶られて喜んでいるのは、我々だけではありませんよ。民たちだって、やっと旦那様がご結婚なされたと、今朝方まで騒いでおられたのですから」
どうやら外堀はすっかり固められてしまったようだ。そうなると、この呪いを解いて彼女と共に作る家庭をというものに思いを馳せてしまう。




