18.竜騎士との結婚(2)
暗闇とは人を大胆にさせるらしい。この闇の中であれば、この醜い顔を彼女に見られる心配もないだろう、とそう思っていた。
彼女の寝顔をもう少し見ていたいと思った。だが、外が明るくなりつつある。そうなる前に、デーセオは彼女の前から立ち去りたかった。なぜかわからないが、この顔を見られたくないのだ。そっと寝台から抜け出したデーセオは、身支度を整えると、そっと部屋から立ち去った。
レーニスが目を覚ますと、既に彼の姿は無かった。彼の抜け殻に触れると、まだ少し温かかった。自分がもう少し早く目を覚ませば、夫となった彼と話をする時間がもてたかもしれないのに、とさえ思う。それに今日から、この辺境領地の北側にある砦の見張りに行くと言っていたような気がする。隣国とのいざこざもあり、そちらの方へ足を伸ばす必要がある、ということを。
少し重く感じる身体ではあるが、レーニスはゆっくりと寝台よりおりるとサンドラを呼んだ。この領主の妻となった以上、みすぼらしい恰好はできない。
「おはようございます、奥様」
サンドラが数人の侍女を従えてやってきた。
「おはよう。着替えを頼めるかしら。できれば動きやすいものを」
デーセオが急いで準備してくれたという数あるドレスの中から、直しが終わってレーニスに似合いそうなそれをサンドラは選んでくれた。
「サンドラ、その、旦那様はもう、お出になられたのかしら」
レーニスの言葉を耳にしたサンドラの手が止まる。
「ええ。朝食を終えましたらすぐに」
「お見送りもできずに、申し訳ないことをしました」
「いいえ。そのようなことはありません」
サンドラが口にすると、なぜか他の侍女たちも一斉に頷いた。
そう言ってもらえるだけでもレーニスの心は救われた。
「今日の予定は?」
レーニスはサンドラにそれを確認した。この領主の妻となってしまった以上、やるべきこと、学ぶべきことはたくさんある。
「はい」
サンドラの言葉に耳を傾けながら、なぜかレーニスはデーセオのことを考えていた。
この国では十六歳で成人を迎える。そして、レーニスは十五歳の時に聖女候補となった。両親と共に神殿を訪れ、これから成人を迎えるレーニスに祝福の祈りを捧げてもらおうとしたとき、その聖女様がレーニスの力に気付いた。だから聖女候補となる者は十五歳前後が多い。成人の祝福の祈りを捧げるために神殿を訪れたときに、その力がわかるというのが一般的だからだ。
レーニスの両親は、レーニスが聖女候補となることをあまり喜びはしなかった。名誉あることであるにも関わらず、家族は一緒に暮らした方がいいと思っていた両親は、レーニスと離れて暮らすことを心から寂しがっていたからだ。
それでも民たちのためになるのであれば、とレーニスは聖女候補として神殿で生活することを選んだ。だが、そこでの生活は民たちのために、というよりは金のためにというもので、レーニスが思っていたそれとは少し異なる部分があった。それでもレーニスは、民たちのために、貧しい者たちにも平等に祈りを捧げていた。自分が聖女になったら、全ての民たちに平等に祈りを捧げられるようにしたい、そう思っていた。
だが、突然、聖女様から突き付けられた一言。
聖女候補として不適格――。
勝手に聖女候補にされ、勝手に不適格の烙印を押され。それでもレーニスが気になっていたのは、彼女が祈りを捧げていたお金の無い民たちのこと。力を失ってしまったレーニスは、もう彼らに祈りを捧げ、その生活を豊かにする手伝いができない。
ならば、今いるここの領民の生活を、少しでもよくしていきたいとそう思っていた。
自称エロ親父のデーセオかもしれないが、自分の顔が醜いと言ってその顔を晒すようなことはしない。それでも、彼の優しさが伝わってきた。少しでもデーセオの役に立ちたいと、レーニスはそう思っていた。




