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13.竜騎士の居城(1)

 ティメルが言っていた通り、あのフォッセ家の屋敷からフルヘルト領までは馬車で三日かかった。途中、フェルゼン領、ホラント領にある宿で一泊した。長旅であるにも関わらず、身体にも精神的にも負担が少なかったのは恐らくこのティメルという男のせいだろう。


「もうすぐ、着きますよ」


 馬車の不規則な動きで、うつらうつらと夢と現実の世界を行ったり来たりしていた時に、ティメルに声をかけられたレーニスははっと顔をあげた。


「あの、外を見てもいいですか?」


 はしゃぐ彼女に穏やかな笑みを浮かべたティメルは「どうぞ」と言う。

 カーテンをそっと手で避け、そこから外を見る。

 何も無い。

 いや、広々とした土地は見える。だが、建物が見えない。


「何も無いでしょう?」


 レーニスの心を読んだかのように、ティメルが言った。


「街まではまだ距離がありますからね。街が見えてきたら、お城はすぐそこです」


 辺境の竜騎士と呼ばれるだけあって、フルヘルト領も国境の辺境にある。飛竜の生育にも適している場所とも言われているようだが。


 フルヘルト領のメランド城は、何代か前の国王の娘の名がつけられている。それは、何代か前の城主が彼女と結婚し、その彼女がこの地で飛竜の繁殖を行い始めたことから、その名が付けられているのだ。


 レーニスが馬車から降りると、その趣深い城の様子に息を飲む。歴史を感じる古さだ。だからといって朽ちているわけではない。城壁に絡みついている蔦も、意味があってそこに絡みついているのだろう。


 レーニスはティメルの後を次いで、城内へと足を運ぶ。中は手入れが行き届いていて、この城で働いている者たちの仕事ぶりがよくわかる。


「お待ちしておりました、レーニス様。旦那様がお待ちです」

 侍女に案内され、レーニスはデーセオが待っているという彼の執務室へと案内された。


「旦那様、レーニス様をお連れしました」


「入れ」


 その言葉に従いレーニスはこの屋敷の主の部屋へと入る。会うのは恐らく初めて。買ってくれたのか助けてくれたのか。よくわからない主。

 その主は室内であるにも関わらずフードをかぶっていて、レーニスのいるここからでは彼の表情がよく読み取れない。それに少し長ったらしい前髪もその表情を覆っている。つまり、意図的に顔を隠そうとしていることをなんとなく感じた。


「お初にお目にかかります。レーニス・フォッセです」

 レーニスは令嬢としての教育を受けていない。できるのは聖女としての挨拶だ。もしかして、非常識だったかという焦りもあったが、表情を隠しているその男は何も言わないし、表情を隠しているため彼の様子を読み取ることもできない。レーニスには一筋の変な汗が背中を伝うような感覚があった。


「遠いところ、よく来てくれた。急がせて悪いが、挙式は三日後だ」


「はい」


「詳しい話はそこのサンドラから聞いてくれ。もう、戻ってもいいぞ」


 サンドラというのは、恐らくレーニスをここまで案内してくれた先ほどの侍女だろう。


「はい、失礼します」


 レーニスは事務的に挨拶をすると、デーセオの執務室を後にした。その扉をパタンと閉めた時に、ふぅ、と軽く息を吐く。緊張した、というのが本音。

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