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明けましておめでとうございます!

今年もよろしくお願いします!


*前話あらすじ*

傷心を癒したいがために、聖の優しさに縋って一夜を共にした葵は、翌朝聖から好きだと告白された。

康平と別れたばかりでまだ次の恋は考えられないと葵は話すが、それでも諦めないと聖は宣言する。

 結局その日、葵が自宅アパートへ帰ったのは夕方になってからだった。聖は朝食を用意すると言ってくれていたが、起きたのはすでに昼近くだったからだ。

 少し遅いブランチを食べ終えると、聖は車を出してアパートまで送ってくれた。最初は申し訳ないと固辞しようとしたものの、前夜の雪がまだまだ残っていたから正直なところ大変助かった。


「本当に帰っちゃうの? せっかくだし、夕食も食べてからにすればいいのに」

「もう充分ご馳走になりましたから。どうもありがとうございました」

「また余所余所しくなってる。友達から始めるのも難しいな。でも、僕は諦めないからね」


 ニッコリ笑って去って行った聖は、どうやら本気で葵を狙っているらしい。先ほど別れたばかりだというのに、夜には早速聖からメッセージが届いた。

 子犬が嬉しそうに尻尾を振るスタンプ付きで届いた「楽しかったね、また近いうちに一緒に飲もう」という誘い文句に葵はやんわりと断りの返事を入れたが、全く引くつもりはないようだ。

 その日以降、毎日おはようとおやすみのメッセージが届けられ、どうやら聖は思った以上にマメな人らしいと驚いた。


 聖からはまた会いたいとも言われたけれど、葵は残り数日となった年内の仕事を片付けるのに忙しい。その上、聖の古民家カフェは年末年始はお休みだ。年始は東京の実家に帰りカフェ経営について報告すると、家族と前々から約束していたそうだ。

 思い入れのある曽祖父母の家を残すためとはいえ、高給取りの外資系企業を退職しての開業だから、家族も心配しているのだろうと葵は思う。


 葵自身、年越しは市郊外にある実家で過ごす予定だ。両親からはそろそろ康平と結婚しないのかと聞かれていた事もあり、別れた事を伝えるのを思うと気が重いがいつかは言わなければならない。

 お互いに気まずい帰省になりそうだと、メッセージを通して励まし合う。


 休みを利用して、聖は店に手を入れるつもりらしいとも聞いた。葵の拙いアドバイスを参考にすると言われたから、どう変わるのか少し気になる。年が明けたら一度見に行ってもいいかもしれない。

 そう伝えると、それなら尚のこと頑張ると返事が来たから葵は思わず笑ってしまった。聖との他愛無いメッセージのやり取りは、何だか心地よく感じられる。康平とは雲泥の差だ。


 康平は必要な事以外、滅多に連絡をくれなかったし、こちらからメッセージを送っても無視される事が多かった。男性とはそういうものかと思っていたけれど、それは偏見だったのかもしれない。

 考えてみれば葵がきちんと付き合ったのは康平が初めてだった。一応高校時代にも彼氏はいたけれどそれは子どものままごとのような関係で、登下校を一緒にする程度の軽い付き合いしかなかった。

 経験が少なすぎて、視野も狭かったのだろう。康平に振られたのは良い機会なのかもと、葵は少しずつ前向きに思えるようになった。


 そうして御用納めの日に、転勤してしまう相良の送別会も終えると、翌日には葵は実家に帰った。

 葵の実家は、市中心部から車で四十分ほど行った場所にある住宅地の一軒家だ。葵は自分の車を持っていないから、電車とバスを乗り継いで向かう。


 久しぶりに顔を合わせた両親とまだ大学生の弟からは、案の定「あんなに長く付き合っていたのに別れたのか」「もう結婚出来ないんじゃないか」などと言われ、最後には「見合いでもセッティングしようか」なんて言われるからウンザリしてしまった。

 まだ葵は二十六歳で、行き遅れというにはまだ早い。クリスマスイブに別れたばかりなのだから、もう少し待ってほしいと思う。家族みんな焦り過ぎだ。


 けれどなぜそうまで言われるのかも分かってしまった。隣に住む葵と同い年で幼馴染の璃子(りこ)が婚約者を連れて帰省していたのだ。


「リコ! 高木さんと半年後に結婚するって本当なの⁉︎」

「うん、本当だよ。ごめんね、連絡してなくて」

「私の知らないうちにお嫁に行くなんて。一番にお祝いしたかったのに。私たち親友じゃなかったの?」

「もちろんアオが一番の友達だよ! 愛してる!」


 帰省した翌日、早速葵は璃子を訪ねた。一年ぶりに会った彼女は幸せそうで、冗談混じりに拗ねてみせると璃子は昔のようにギュッと抱きついてきた。

 璃子は一人っ子で、お婿さんをもらうんだと小さい頃から張り切っていた。葵の弟の初恋の人でもあるが、残念ながら弟にチャンスはなかった。


 両親との相性も見たいからと、璃子は恋人が出来るたびに実家に挨拶に連れてきていて、その都度葵も何故か顔を合わせている。

 当然、晴れて婚約者となった高木(たかぎ)将臣(まさおみ)とも顔見知りで、彼は「相変わらず仲がいいね」なんて笑いながら「二人でごゆっくり」と席を外してくれた。良い人だ。


「リコのせいで私は大変なんだから。うちの親ったら、結婚はまだなのかなんて催促してくるんだよ」

「ごめんごめん。でも……それだとあの噂ってやっぱり本当なんだね?」

「噂?」

「先輩と別れたんだよね? アオ」


 璃子と葵は同じ大学でサークルも一緒だったから、康平の事も知っている。けれど、まさかもう仲間内で噂が回ってるのかと葵は顔をしかめた。


「そうだけど……何で知ってるの? 別れたの先週なんだけど」

「え? 先週?」

「うん、クリスマスイブに」


 雪の中、エンストして立ち往生していた時に電話で振られたのだと話すと、璃子は唖然として頭を抱えた。


「うわっ、酷い……マジでクズ男だわ。ていうか、アオは本気で気づいてなかったんだね?」

「何が?」

「こう言ったらなんだけどさ……。ずっと二股かけられてたらしいよ」

「は?」


 元は仲の良かった後輩安田(やすだ)から聞いた話なのだと前置きした上で、璃子は話してくれた。

 康平は卒業後も葵に会いに何かとサークルに顔を出していたが、就活のために葵が引退してからもそれは続いていたという。そこで安田と同級の小島(こじま)愛美(まなみ)という女の子と康平は親密になっていたんだとか。


「卒業してからはどうなったか分からなくて、でも葵はずっと先輩と付き合っていたじゃない? だからもし二股だったとしても、もう終わってるんだと思ってたの」


 ハッキリ二股だと分かっていたわけではないから、璃子は小島の事を葵に話さなかった。卒業後は就職して忙しくなり、けれど葵からは交際が順調だと聞いていたから噂について深追いしなかったらしい。


「でもさ、この前たまたまヤスちゃんに会った時に、小島が先輩からプロポーズされるかもってはしゃいでいたって聞いてさ。アオに会ったら聞いてみようと思っていたのよ」


 小島と友人だという安田は、むしろ康平がまだ葵と付き合ってると聞いて驚いていたらしい。それを聞いたのが一ヶ月前だったから、璃子は葵の失恋話を聞く覚悟を決めて帰省していたのだと話した。

 葵は信じられない思いで聞いていたけれど、思い返してふと気付いてしまった。


「そういえば、あの時康平と歩いていたのって小島さんだったのかも」

「え、見たの?」

「うん……」


 サークルは人数が多かったのもありメンバー全員を覚えているわけではないが、イブの夜に康平と腕を組んでいた女性は何となく思い出せる小島と似ていたように思う。

 だとすれば、本命は小島で葵が二股の相手だったのだろうか。だからあっさり振られてしまったのかもしれない。むしろ康平は、葵を捨てるきっかけを探していたのではないだろうか。


「アオ、大丈夫?」

「うーん……まあちょっと、ショックかな」


 葵がサークルを引退した頃からなら、五年も二股をかけられていた事になる。なぜ全く気付かなかったのかと、乾いた笑いが漏れた。

 けれどその時、不意にスマホが鳴った。


「あれ? アオかな?」

「うん、私だ。ごめん」


 アプリの通知音に開いてみれば、聖からのメッセージだった。これから東京へ帰るという連絡で、気をつけて帰ってねと葵は手早く返す。

 葵がすでに実家へ帰ってる事は伝えていたから諦めたらしいが、出来るなら少しでも顔を見てから帰りたかったとか、お土産を楽しみにしていてとか、そんなメッセージがスタンプ付きで送られてきて、自然と葵の頬が緩んだ。


「……アオ、それ誰からなの?」

「え? なんで?」

「だってさ、先週先輩に振られたんだよね? その割にはそんなに落ち込んで見えないし、今は笑ってるし、復活早すぎない?」

「……そうかな?」

「そうだよ!」


 確かに言われてみれば、振られた時はあんなに泣くほど悲しかったのに今はそうでもない。二股はさすがにショックだったけれど、それは奪われた悲しみというよりは、浮気されるほど軽く思われていた事や気付けなかった悔しさの方が大きいように思う。

 それもこれも全部聖がいたからだろう。この一週間、小まめに連絡をくれたから、康平について考えて落ち込む時間はほとんどなかった。今だって彼のメッセージで笑ってしまったのだ。どれだけ聖に救われているのだろうか。


 するとまた通知音が鳴って、葵が画面を開くとすかさず璃子が覗き見てきた。


「ちょっと、何このイケメン!」

「えっ、勝手に見ないでよ!」


 なぜこのタイミングなのか。聖からは「新幹線来たから、行ってくるね。年明けまで会えなくても僕の顔を忘れないでね」との言葉と共に自撮り写真が送られてきていた。


「まさかアオまで二股してたの⁉︎」

「違う、そうじゃないの! 聖はこの前助けてくれた人で!」


 さすがに一夜を共にしたとまでは言わなかったけれど、イブの日に二度も助けてもらってから何かと気にかけてくれているのだと葵は話す。

 けれど目敏い璃子は、それだけじゃないだろうと追及してきた。


「親切で顔を忘れるななんて写真送らないでしょ。これはどう見ても言い寄られているよね?」

「ええと……うん」

「その喫茶店、今度連れて行ってよ」

「ええ⁉︎ でも三日までお休みだよ? 仕事あるでしょ?」

「実は私ね、もう仕事辞めたんだ」

「うそ⁉︎」

「嘘じゃないよ。結婚が決まってすぐからマサくんには先に父の会社に入ってもらってて、私も十二月で退職したの。この家をリフォームするまでは市内に住むから、その間に転職先も探すつもり。だから時間ならあるんだ。会わせてくれるよね?」


 璃子は「二股するような相手じゃないか、今度こそきちんと見極めてあげる!」とやる気だ。

 どうやらずいぶん幼馴染を心配させてしまったらしいと分かって、まだ自分はそういう気にはなれないと宥めつつも葵は頷くしかなかった。

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