5 邂逅せし二つの魂は新たな物語を紡ぎ出しはしようwww
「さあさ、みなさま、そろそろ王城に参りましょう。私についてきてくださいね」
アーノルドに導かれ、ぞろぞろと王城に向かう一行。
「ふうっ、やっと王城に行ける」
幹がそう思ったのも束の間、いよいよ王城に入る手前、景気の良い声が次々聞こえてきた。
「へいっ、らっしゃーいっ! らっしゃーいっ!」
「お土産に異世界まんじゅういかがっすかあー」
「異世界名物婚約破棄こけしっ! ここでしか売ってないよー!」
王宮に入る道の両側にずらりと並ぶお土産を売る露店の数々。
「元祖異世界まんじゅう」「本家異世界まんじゅう」「異世界名物婚約破棄最中」「異世界根性キーホルダー」「異世界通行手形木札」「異世界魔法のボールペン」「異世界名物婚約破棄こけし」エトセトラエトセトラ
さすがのマダームたちもざわつき、二の足を踏んだ。
「何だかよおーく見覚えのあるような……」
「近場の温泉街でも同じようなもの売ってたような……」
「むしろ異世界感ぶち壊しのような……」
だが、そこはアーノルドが素早いフォローを入れた。
マダームたちの視線の先に回り込み、またも跪くと、口上を述べ始めたのだ。
「どうされました? マダーム。憂い顔は美しいあなたたちには似合いませんよ。ここで売られているもの、どうかにこやかな表情でお買いになる、そんなマダームたちで私はいてほしいのです」
「こうかはてきめんだ」った。
マダームたちは競うようにお土産の買い漁りを始めた。
やはり、一歩引いていた幹だが、お土産については買ってこいと母・希林に言われている。何か買って帰らなければいけない。
しかし、凄まじい勢いで買いまくっているマダームの中に飛び込む度胸もなく……
「うん。これでいいや」
幹が手に取ったのは、他の人たちが目もくれなかった「異世界」の焼き印入りの木刀だった。単にそこの売り場が一番空いていたからだが。
◇◇◇
「えー、みなさま、本日は遠いところから婚約破棄観覧ツアーにご参加いただき、まことにありがとうございます。私が『ンパカンパカ』国王です」
ちくしょー、話が長いな。
そうとも思ったが、もうちょっとでいよいよ婚約破棄劇が始まる。幹は自分にそう言い聞かせた。
そして、その時は来た。
どじゃーん じゃんじゃんじゃん じゃあ~ん
荘厳な音楽と共に分厚い幕が上がり、そこにはまさしく相違ない婚約破棄の場が現れたのだっ!
「うんうん」
両手を握りしめ、何度も頷く幹。
「来たんだ。遂にここに来たんだ」
握りこぶしに更に力が入った。
◇◇◇
「ラフレシア・アルノルディイッ! 僕はおまえとの婚約を破棄するッ!」
素晴らしい……
幹は感動に打ち震えた。画面越しとは迫力が全然違う。
「そ、そんなナールナル王太子殿下。それは一体?」
うんうん。いいっ。生で見るラフレシアも最高。
「とぼけるなっ! おまえがこのフィッシュハーブ男爵令嬢にした仕打ちは天が知る、地が知る、僕が知る。悪を倒せと僕を呼ぶ」
うーん。このおバカっぷりがなんともはや。これ以上のおバカはないっ!
「仕打ち? それは一体、何のことでしょうって、きゃあっ!」
そこまで盛るかと突っ込みたくなるような筋肉つけたスキンヘッドのオヤジ二人に無理矢理外へ引きずり出される!
この筋肉の無駄使いがまた。
「王太子殿下嬉しい……」
ナールナルにすり寄るフィッシュハーブ男爵令嬢役の女優。
それを右腕で抱え、周囲を見回すナールナル。
「はあっはっはっはっ。これぞ『真実の愛』っ! 家格で決まるような『偽りの愛』とはこの場限りでおさらばだー。僕はこれから『真実の愛』に生きるっ!」
(あ……)
幹は思った。
(おバカ王太子と目が合った……)
「しっ、しっ、しっ、しっ、しっ、しっ、真実の……、『真実の愛』にっ……」
ざわっ
急にどもり始めたナールナルに観客席はざわめく。
「ぼっ、ぼっ、ぼっ、僕は-っ!」
そのセリフと共にナールナルはすがりつくフィッシュハーブ男爵令嬢役の女優を放り投げると観客席に向かって突進した。
「『真実の愛』がほしいだけなんだーっ!」
と叫びながら。
◇◇◇
(えっ?)
幹は当惑した。何でおバカ王太子が自分に向かって来るのだろう?
ナールナルは幹の前で息を切らせながら立ち止まると跪いた。
「はじめまして。可憐な『ヤマトナデシコ』」
幹は状況がまるで掴めなかったが、挨拶された以上、挨拶するのが礼儀というものだと思い直した。
「はあ、はじめまして」
ざわっ ざわっ ざわっ
観客は更にざわめく。ナールナル王太子とセーラー服の少女の邂逅。こっ、これはサプライズ?
みな、席から立ち、二人に向けてスマホを構える。もちろん動画を撮るためだ。
ラフレシアとフィッシュハーブ男爵令嬢役の女優は壇上から呆然とナールナルの奇行を見ている。
ぎゅるるる
「ンパカンパカ」国王の下腹部はいきなり最上級の音をたてた。
「『ヤマトナデシコ』。僕は『真実の愛』がほしいのです」
「はあ。存じております。いつも言ってますものね」
幹を口説きにかかっているナールナルには周囲の状況はまるで目に入らないらしい。
次回最終第六話「思い入れと言う名の高速エネルギーをもって衝突した二つの魂がどこに飛んでいくかなんて分かりようがない」。