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4 異世界人の心震わせし国の名は「ニホン」


 代わりの女優を見つけ出しても、ナールナル王太子のメンタルはズタボロのままだったが、婚約破棄観覧ツアーが出来なくなっては国家財政の根幹に関わると「ンパカンパカ」国王に泣き付かれ、ギリギリの精神状態でこなしてきたのである。


「もう、婚約破棄劇やめたい。『真実の愛』がほしい。『真実の愛』を捜しに行きたい」

 膝を抱えたまま、そう繰り返すナールナル王太子を見て、フィッシュハーブ男爵令嬢役の女優も言う。

「あーもー、あたしも婚約破棄劇やめちまおうかな。かったるいし」


「わー」

 そこへ下腹部を押さえたまま駆け込んできたのは「ンパカンパカ」国王である。苦労人の国王はお腹が弱いところがあり、さっきまでトイレにいたのだ。

「ナールナル。おまえはいずれこの国の王になる身だぞっ! 国全体のことも考えてくれ。それに女優()だって、この婚約破棄劇なくなったら失業だろう?」


「あら陛下。あたくし申し上げませんでしたっけ? チキューの芸能プロダクションから移籍のお誘いが来てますのよ」


 きゅるるる

 女優の衝撃的な言葉に「ンパカンパカ」国王の下腹部は音を立てた。だが、めげてばかりもいられない。責任感が強い王であった。

「ラフレシア。君からも何とか言ってくれー」


「いえ、陛下。あたしも図らずも婚約破棄の当事者になっちゃったんで、仕方なくやってますが、婚約破棄劇はどうも芸風が合わないと言うか、キャラじゃないと言うか、もっと笑いを取りたいと言うか」


 ぎゅるるる

「ンパカンパカ」国王の下腹部は更に大きな音を立てた。しかし、王は漢だった。


「ンパカンパカ」国王はおもむろに土下座すると、こう叫んだ。

「頼むっ! 今度のツアー客は『ニホン』からなんだっ! 最高の上客なんだよっ!」


「『ニホン』?」

 キラーン 

 ラフレシアの目が光った。

「あそこさあ、『オヒネリ』って文化があって、舞台に紙に包んだお金投げてくれるんだよね。そのお金もらっちゃっていい?」


 「ンパカンパカ」国王は顔を上げ、

「ああ、いいとも。後の二人もそれでやってくれないか?」


「うーん。まあ、いいか」

 フィッシュハーブ男爵令嬢役の女優も言った。もっともそれは「ニホン」の芸能プロダクションからも移籍の声がかかっていて、あわよくばダンスパーティーでコネを作れるのではないかという計算が裏にあってのことだが。


「二人はこう言ってくれた。ナールナルもやってくれないか?」

 「ンパカンパカ」国王の声にナールナル王太子は静かに頷いた。


「やります……」


 「ンパカンパカ」国王は安堵した。先のことは分からないが、とにかく今回は何とかなりそうだ。ぎゅるるると鳴っていた下腹部の音はきゅるるるに戻った。いずれにしてもトイレには行かねばなるまいが。


 だが、国王は知るよしもなかった。ナールナル王太子の胸のうちを。

「『ニホン』にはセーラー服を身にまとった『ヤマトナデシコ』がいるという。心の清らかな彼女たちが相手ならきっと『真実の愛』があるに違いない」


 その知識は「ニホン」のとある「コミック」から得たものだった。


 ◇◇◇


「ほあああ」

 (みき)は異世界「ンパカンパカ」の駅を降り立った。


 遠くに見える森の向こうにある石造りの城。まさしくリアルファンタジーワールドである。


「異世界『ンパカンパカ』の婚約破棄観覧ツアーへようこそ」


 そんな(みき)たちを出迎えてくれたのは、真っ白な駿馬にまたがり、陽光に煌めく銀色のプレートアーマーを身にまとった騎士である。但し、顔だけはバッチリ見えるようにするため兜はかぶっていない。その姿は若き獅子のたてがみを思わせる肩まである金髪と八月の晴れ渡った空のような碧眼の美青年。


 そして、彼は20kgあるプレートアーマーをものともせず、軽い身のこなしで、馬から飛び降りた。


「キャアアアア」

 ツアー参加者の女性たちから黄色い悲鳴が上がる。


「かっ、かっこいいっ!」

「これだから異世界ツアーはやめられないわっ!」

「ねえねえ、お兄さんは騎士団長なんでしょっ?」


 口々に騎士を褒めそやす女性陣。


 やがて、そのうちの一人が意を決したかのように大きながま口財布から一万円札の束を取り出すと足早に騎士に近づき、その束をプレートアーマーの継ぎ目に突っ込んだ。


 そんな彼女に騎士はニッコリと微笑みかけてから、跪くと彼女の右手を取るとその甲に接吻した。

「ありがとうございます。美しいマダーム。我が名は騎士団長アーノルド。以後、お見知りおきのほどを」


「キャアアアア」

 黄色い悲鳴のヴォリュームは三倍に上がった。


 手の甲に接吻された女性はその場にへたり込み、他の女性陣は次々と万札を突っ込みに行き、アーノルドは一人一人の右手の甲に丁寧に接吻していった。


 (みき)はと言えば、宝くじで当たった一千万円は全てツアー代金で支払ってしまったし、母・希林(きりん)からもらったお小遣いはお土産に使わなければならない。第一、万札の束などは持っていなかった。


 そして、(みき)は騎士団長にはまるっきり関心がない。

「あー、この噂に聞くホストクラブみたいなショー、早く終わんないかな。あたしは婚約破棄劇を見たいのに-」

 (みき)は大あくびをした。

次回第五話「邂逅せし二つの魂は新たな物語を紡ぎ出しはしようwww」。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「移動企画」から参りました。 ノリがよく、とても面白いです( *´艸`) 木造お父さんも希林お母さんもぶっ飛んでますね笑 リアルで異世界に行けるなんて羨ましいです〜!!
2021/10/29 19:20 退会済み
管理
[良い点] 万札! 円の力は異世界でも通用する! さすが日本円!
[一言] >いずれにしてもトイレには行かねばなるまいが。 wwww
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