ジャラジャラ
とある日、夢を見た。
夢の内容では、時刻は夕方から夜中の十時ごろの間。
月明かりが無く、妙に薄暗いネオンの光が印象的な場所だった。
そこで冴えない少年と黒髪の美少女が会話をしていた。
夢は少年の主観で進んでいく。
目の前にいたのは、色白な肌をしており、この世の何よりも美しいと感じる程の美貌をもっていた絶世の少女だった。
濡羽色の髪に、同じく漆黒のセーラー服。
その恰好には何も疑問を抱かなかったが、ただただ穢れなく、美しいと感じていた。
そんな二人の関係性は奇妙な事に掃除のバイト仲間だ。
もう一人、中年のおじさんもいるが、その人がバイトのリーダーをしている。
少年は、休憩時間に少女と二人きりで会話をする事が、何よりも生き甲斐に感じていた。
自分のような存在が彼女と会話できることを、一人の人間として扱ってくれることが何よりも嬉しかった。
掃除をしている時にすれ違う時も、彼女の横顔を見るだけで幸せになれた。
彼女が微笑んでくれた時は、天にも昇る気持ちで頑張れた。
そんなある日、リーダーと少女がどこかに掃除に行った。
少年は一人寂しいと感じながらも、細長いパイプのようなモノに入って、二人が右後方の死角へ向かうのを見送った。
掃除に専念しようと手元を映し、ふと、左を見た時、黒い何かが迫ってきた。
ただ黙って見つめていると、急に頭に取りつかれ、視界が黒い何かに覆われる。
一瞬、それが少女だと感じ喜んだ瞬間、
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ!!!!
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ!!!!
ジャラジャラジャラジャラジャラジャラ!!!!
という鈴の音のような耳障りな音が頭に響いた。
同時に、土管から出ていた上半身と背中が、何かに撫でられる感覚。
――怖い怖い怖い!!? ――気持ち悪い!?
――助けて!!!?
――逃げたい!!? ――逃げられない!!
声にならない幾つもの思いが言葉に出来ず、吞まれていく。
身体中を揉まれる恐怖と生理的嫌悪感。
それはまるで、無数の手でまさぐられたような異質な感覚だった。
時間が無限のように感じ、五秒なのか、十秒なのか、それとも五分だったのか。
時間間隔が分からなくなり、触覚が消失した瞬間、そこで目が覚めた。
夢から覚めた時、私は鳥肌と恐怖を覚えた。
体と足が痛くて震えたのだ。
先ほどまでの感覚が鮮明に感じられたのもあったが、目を開けたらそこに何かがいるのではないかと考えて、目を閉じたまま意識があったからだ。
大抵の場合、覚醒と同時に目が開くはずなのに、この時は頑として目を開けられず、そのまま時間が経過する。
そうしていると、別の想像が頭に浮かんだ。
四匹の愛犬が飼い主である自分に飛び掛かって戯れるイメージだ。
ぶつかってくる衝撃がとてもリアルで微笑ましい光景だったが、ふと何故か四匹目が気になった。
犬だと思っていたそれは、三つ編みを尻尾に見立てた女性の生首だった。
それを意識した瞬間、悪魔の形相に豹変する。
愛犬と一緒にじゃれる様に右脚に絡みついてくると、駆けあがるように登って来た。
驚きと恐怖に愛犬諸共振り払ってしまうが、全て煙のように消え去った。
暗闇となった世界で呆然と立っていると、またもや、死角外から女性の顔が向かってくる。
反射的にそれを振り払い、出現し、また振り払う。
幾度か続けたのち、自分の心が堪えられずに思考を真っ白に染めた。
暗闇の世界が白く変わり、何もいなくなった世界に真正面からまた生首が現れた。
それを渾身の一撃で一刀両断すると、今度は出現しなくなり、そうして夢から覚めた。
おかしな夢を二度続けて観測し、私は瞼を開くことにひどい抵抗感を覚えた。
この現実の外には何かがいるかもしれないと考えたのだ。
意識が向いた方と反対側に女性の生首がやってくると思い、左に顔を向ければベッドの外で顔を凝視してくる何かが浮かんだ。
それから五分が経ち、十分が経ち、ニ十分を過ぎた後、目を開けた。
現実の世界はいつもと変りなく、何も無かった。
スマートフォンを見ると、午前三時半過ぎ。
そして眠れない頭で考えた。
――これを物語として書こう、と。
同時に、私は祈る。
今日の夜、あなたたちが安寧に眠れることを――。
だから気を付けて欲しい。
鈴の音のような音、何かに触られる感触、 そして女の生首には。
……それにしても、なぜあの黒いモノは僕に助けを求めて来たんだろう?