第3話 ★クロ【強襲! チームハーフエルフ!!】
第3話 クロ【強襲! チームハーフエルフ!!】
えと、自己紹介、今、ですか?
私はクロです。タマちゃんの妹で、ティモちゃんのお姉ちゃんになります。
タマちゃんはオッドアイでいたずら大好きな困ったお姉ちゃんで
ティモちゃんは甘え上手な可愛い弟です。
修さんのことも大好き、です。
一緒に霊媒師としての修行を、澄海くんと行ってます。
霊媒師としての修行は大変ですが、今は、世界がもっと大変なことになってます。
異世界の人が地球を侵略してきて、ドッジボール対決で勝利しないと街をまもれないみたい。
しかも12歳よりも大人の人は参加しちゃだめなんだって。
大人に頼れない。なのに、いつ自分のところに侵略に来るのかわからないのに、怯えて過ごさないといけないんです。
「じゃあ、次の問題を………クロ」
「へぁ! は、はい!」
先生に指名されて、慌てて教科書の例題を解く。
1/3+1/6は、ええっと、2/6+1/6で3/6だから
「に、にぶんのいち、です………」
「正解だ。よく出来ました。」
今は、算数の授業中です。
世間が生徒たちを自宅待機させよう、と言ってきておりますが、異世界からの侵略者も、直接見たことがないからか、どこか対岸の火事。
自分には関係ないだろう、というなんとも呑気な校風だ。
はあ、算数、修さんに聞いて予習しといてよかった。
おかげでなんとか答えられる。
ゴリ松先生に褒められて、ちょっぴり嬉しい。
そんな時ーー
ピクンと私の耳が異質な音を捉えた。
「あの、………」
「うん? どうした、クロ。もう座ってもいいぞ」
「いえ、その、校庭から、来てます」
同じように尻尾を立てて、耳を校庭に向けていたタマちゃんとティモちゃん。
謎の感覚で既に捉えていた澄海くんも、頬杖を突きながら窓の外を眺めていた。
「ついにこの時が来たねー。」
「この学校に異世界からの侵略者!!」
「こ、こわいよ」
「………」
最近は、なんだか町が物騒です。
異世界からの侵略者が来てから、世界中で治安が悪くなり、学校でのドッジボールに負けたら、みんな、連れ去られちゃう。
なのに、学校は休校にはならないんです。
政府が一斉に休校にしよう、というつもりなのか、自治体が自主的にですでに一斉休校をきめいている学校もあるんだって。
自主的に休学している人もいるけれど、勉強が止まるのは嫌だなぁ。
でも、全国に1万9000件ある小学校で、自分の学校が選ばれるとは、みんな思っていない。
自分はインフルエンザにかからないだろう、コロナにかからないだろう、関係ないはず。
そう思い込んでいるからこそ、自分が当事者になったときの衝撃が計り知れないの。
人として生活するようになり、こういった人間の呑気さを目の当たりにすると、お腹が空いて死にそうだったあの頃を思い出す。
そして、今日は、私たちの学校に、侵略者が来ました。
校庭の空間に亀裂が入り、ミシミシと不気味な音を立てて空間が割れると、そこからひとりふたりと人が歩いてくる。
「いやあ! 帰りたい!!うちに返して!! 」
「うぇええええん!!」
「しにたくないよぉおおお!!!!」
一瞬でクラスどころか、他の学年でも阿鼻叫喚となる。
「なるほど。………パニックを起こさないように!! みんなはこの教室から出るなよ!! 先生達が対応するから、騒がないで、いい子で待っていなさい!!」
ゴリ松先生は泣きじゃくる生徒の声にも負けない声をはりあげて、教室から出て行きました。
「はいー、どちらかというと事件ですー。いまー、うちの学校に異世界からの侵略者が来ましたー。住所はー」
と、同時に、タマちゃんはスマホから冷静に警察へ電話を始めました。
「はい、はーい。今はせんせーが対応しているところですー。えー? 待機ー? 普通は避難が優先じゃないのー? おかしーよ、そんなのー!」
どうやら警察も迂闊に介入が出来ないらしい。
「もー、待つのはわかりました。すぐにきてくださいねー!」
電話を切って、窓際に寄るタマちゃん。
生徒達を助けるために軍を投入しても、侵略中だったり侵略済みだったりするエリアは謎のバリアが発生して大人が侵入できなくなってしまうって。
子供はうちから外に、大人は外からうちに、出入りが出来なくなってしまう。
これは、侵略を受けた学校が、ドッジボールで勝利しないと解かれることはない。
「私たちはハーフエルフ族。明日の試合を申し込みに参りました。」
亀裂の奥から人が全員が集まった時、リーダーっぽい大人の後ろにいるのは100人を超えていました。
ざわざわと騒がしい教室、校舎なのに、リーダーさんのよく通る声が教室にまで聞こえてきました。
言い聞かせるように、普通の声が、校庭からここまで聞こえるってことは、あれが魔法、なのかな。
冷静なタマちゃんは、寄ってきたティモちゃんを膝の上に座らせて一緒に窓の外を眺め、私は窓枠で腕を枕に顎を乗せて外を眺めていた澄海くんの肩に手を置いて身を乗り出す。
前屈みになった時に私の髪が澄海くんの顔に当たり、鬱陶しそうに払われた。
授業なんてやっている場合ではないよ。
私達は彼らの会話に耳を澄ませる。
「ここにいる彼らが、明日の対戦相手となる。皆、12歳、魔法も使えます。明日の13時に、対戦を行います。メンバーを準備しておいてください。」
ハーフエルフのリーダーが示したのは、今回の対戦相手。
私たちよりも少しだけ身長が高い、かな? 遠目じゃ見にくいけれど、小学4年生と小学6年生では体格に大きな差があるはず。
ユニフォーム? を着ているのは、15人くらい、かな?
「そんな勝手に決められても困ります! 断じて受け入れられません!」
「であれば、無条件でこの地域が植民地となるだけです。」
「ですが、子供達を戦わせるなんて!」
どうやら、揉めているみたい。
先生としては子供を戦わせられない。
なぜなら、まだ子供だから。
重大な責任を負うのは、大人でいいから。
負けたら学校のみんなが攫われる。
そんなだいそれた責任を子供に押し付けるのをよしとするはずがない。
「勘違いしないでください。私たちはあくまでも平和的に侵略を行なっている。その気になれば魔法で貴方を焼くことだって出来る! でも、したくないんだ。」
「な、そ、それは………」
「それに、子供達を戦わせるのは私たちにとっても本意ではない! 出来ることなら、この手で……!」
ハーフエルフの大人の拳は震えていた。
「明日の13時。試合の開始です。お忘れないよう、お願いいたします。」
そうして、彼らはもといた空間の裂け目に帰っていった。
彼らの目的は、顔見せ?
兎にも角にも、今日の授業はとりやめ、明日の対抗戦で出場する選手をきめなくてはならない。
殆どが6年生になるのかな。
体格が大きいほどいいし。
「ど、どうなっちゃうんだろう………!」