第1話 ★タマ【白猫のタマ】
第一話 タマ【白猫のタマ】
えっとねー、あ、自己紹介?
いいよー。
わたしの名前はー、タマ。
ごく普通の霊媒系猫耳少女だよー!
ボケかツッコミがで言えばー、担当はボケー。
戸籍上は9歳の女の子なのー。
小学生4年生だよー! いえい!
最近の学校でのブームは、お昼休みにクラスみんなでドッジボール!
「い、いくよ、タマ、ちゃん!」
じゃんけんで分かれたわたしの三つ子の妹、黒猫のクロちゃんが大きく振りかぶってボールを投げた。
宙を舞う猫耳と漆黒の黒髪が光を反射してキラキラと軌跡を描く。
小学生離れしたその速球に面食らったものの、流石はわたしの妹だねー。
これくらいはやってもらわなくっちゃー!
「きゃー!」
なんて言いながら、私はそのボールを胸の中央でドフっとキャッチだよー!
視界の横で、自前の銀色の髪の毛がふわふわと揺れる。
その速球は見ものだけどー、エイミングが素直すぎるんだよねー
「タマ!こっち!!」
と、手を挙げているのは、外野のトキメキくん。
刈り上げで短髪。
運動能力抜群でクラスみんなのヒーローだよー!
「はーい!」
外野正面じゃなくて側面でボールを要求していることで、その意図を読んだわたしはすかさず速球パスするよー。
「よっと!」
「あうっ!」
軟式野球のスポーツ少年団に通っているトキメキ君は、持ち前の球威を生かして、目の前にいる太っちょのマサアキくんにボールがヒット
若干上がったボールにすかさず反応したのは
「にゃー! 取った、取ったよ! セーフだよね!!」
私たち三姉弟の末っ子。
ティモちゃんだよー。
無邪気に喜ぶ猫耳の男の子。
茶色とオレンジの虎模様なのー。
マサアキくんに当たったボールを地面に落ちる前にキャッチしたから、ルールではアウトでは無いため、ティモちゃんは喜んでたよー。
「ティモちゃん、すぐに投げないと!」
「そーだった!!」
ティモちゃんに注意したのはー、クラスのアイドル。リズムちゃん。茶髪のツインテールがとってもキュートなのー
「てーい!!」
ぶんっ! と、乱暴に投げられたボールはそれなりの球威を持って、わたしの隣の男の子、名前、なんだっけー?
「あでーっ!」
坊主頭に緑色の帽子で細目の彼に当たった。
その瞬間。
ーーきーんこーんかーんこーん♪
「「「 にげろーー!!! 」」」
チャイムがなったと同時に。
ドッジボールに参加していた全員が校舎に駆け出した。
「ちょまっ!!」
テンテンと転がるボールを捕まえた細目の彼。
振り返った頃には遥か遠くに逃げるクラスメイト。
「片付けお前だからな!」
と、煽るトキメキくん。
そう、お昼休み終了を告げるチャイムがなってしまえば、ボールを体育倉庫に片付ける役目を負うのは、最後にボールを触っていた人。
つまり細目の人だよー!
「片付けは、お前だー!」
大きく振りかぶって、
ぶんとボールを投げる細目の彼。
「おおっと、あたらねーよ!」
「くっそー!!」
足下目掛けて飛んで行ったそのボールを、トキメキくんはひょいとジャンプしてかわした。
ドッジボールと違って、誰も拾いにいかないボールを追いかける細目くん。
その間に、みんなは校舎の中に入り込み、校舎に入りさえすれば、ボールを持った人は校舎には入れない謎のバリアが発生してしまうのだー!
今回のお片付けは細目の彼に決定だねー。
体育倉庫にボールを持っていく彼に同情するよー。
★
「ほーん、そげんことあったんや」
家に帰って、わたしたちの育ての親であるおっちゃんに今日の学校での出来事を話すよー。
おっちゃんはねー、本名岡田修。
わたしはおっちゃんって呼んでるのー。
今高校3年生でー。地元の農協にコネ就職が決まってて受験勉強とかはやってないんだってー。
みんなおっちゃんのこと、おっちゃんって呼んでるから、自然とわたしもおっちゃんって呼ぶようになってたんだよねー
「それでね! 結局えっと、名前なんだっけ、あの子が片付けることになったんだよ!」
ティモちゃんがカレーを食べながらおっちゃんに報告。
褐色の肌に黒縁メガネ。
太めの眉にダークブラウンの瞳。
わたしのお兄ちゃんでもある、おっちゃん。
わたしの大好きな人だよー。
「懐かしーな。おっちゃんも小学生の頃クラスで集まってドッヂしとったわ。あれ? ヂだっけ、ジだっけ?」
カレーを嚥下したおっちゃんが懐かしそうに振り返る。
「修さんは、ドッジボール、つよかったの?」
クロちゃんが遠慮がちにおっちゃんに聞くとー
「んー、おっちゃんクラスでも身体が小さかった方やし運動能力ゴミやったからね。動体視力には自信があるつもりやったけど、子供ん頃に思っとっただけの幻想やったし、身体が小さかったぶんあたりにくかっただけのザコやで」
そんな答えが帰ってきたのー。
「小六の頃やったかな。うちのクラスでドッジボールの大会に出ようってことになって、必死になって練習していた記憶がある」
「へー、大会とかあるんだー。結果はー?」
「初戦勝ち、2回戦負けのごく平凡な結果…だったかな。ごめん、ちょっと記憶が曖昧や。5年前やし、おっちゃん試合に出たことないベンチやったし」
わたしの質問にスプーンで下唇をペシペシと叩きながら過去を思い出すおっちゃん。
「じゃあ、にーちゃんの頃に試合に出た人はどんな人だったの?」
「んー? 運動能力の高い子やったね。ほら、ティモ坊のクラスにおるトキメキ君? あの子のお兄ちゃんのキラメキとか、リズムちゃんだっけ? あの子のお姉さんのドラムとか。あの頃はあのメンバーで全国行けるんちゃうか?とかおもてたんやけど、全然そんなことなかったんよね。全国的にそう言う子らが自信を持って出るのが大会なわけで、おっちゃんみたいな運動音痴がベンチに入れる程度の弱小ってのもあるやんな」
「ふーん、別にわたしはおっちゃんが運動音痴だとは思わないけどなー」
「買い被りやって。おっちゃんが体力ついたのは高校から部活でミントンやり始めたからで、それまでは、なんちゅーか、ガリガリのもやしよ。小中学生のころはかけっこでもビリしか取ったことがないクソガキやで」
わたしのセリフに苦笑しながら頭を撫でてくれる。
この手、好きー。
「じゃあさ、今のにーちゃんたちと、僕たちが勝負したら、いい勝負になるのかな!?」
わくわくしながらティモちゃんが身を乗り出して聞いてくるよー。
「んぁー、どうやろね。ティモ坊とクロちゃー、シロちゃーがいたらおっちゃんも勝負にならんよ。澄海もおったら負ける自信しかない。」
「いやー、澄海くんは反則だよー。あんなの宇宙人だよー?」
「まあ、宇宙人やしなぁ」
そうなのだー。
澄海くん、とはー、クラスメイトであり妖怪退治の同僚でもあるー。
上段澄海くん。
白髪赤目でジト目の基本は無口な男の子。
1/4ほど宇宙人の血を引いている宇宙人なのー。
情報量多すぎー!!
「まあ、そげん事ありえへんけどな。おっちゃんとキラメキが一緒にドッジボールとか、どげん罰ゲームやねん」
おっちゃんが嫌いなタイプ=声がでかいだけのリーダー
なるほどねー。おっちゃんは基本的に陰キャでー、陽キャなトキメキくんのお兄さんはおっちゃんのことを嫌っていて、そんなお兄さんをおっちゃんは嫌っているってことだねー
小学校中学校ではいじめられていたんだってー。
子供の頃ならまだしも、今更一緒にドッジボールなんて奇跡はありえない話だよねー
ありえた。