#3「憧れと理由」
コルセア様に出会った次の日の午後。
その日は、学校もバイトも休みの日だったので、いつも通り夕食や昼食の作り置きをしておこうとして頭を悩ませていた。
部屋の窓からは程よく光が入ってきていて、少ない睡眠時間でもしっかりと目が開いてくれるほど明るかった。
場所は自室に付属されてるキッチン。いつもは冷蔵庫の中に貯蔵してある物やコンビニから買って帰ってくるのだが、一人暮らしでなら日持ちするものを作り置きした方が自由な時間が多いのでいつもはそうやって作っている。
今日も時間が空いたのでバイトの経験も生かしてパスタの作り置きをしている最中だった。
のだが……。
キッチンに備え付けられているカウンターの上に広げられた、小分けする作業の最中に手を止めて残っているパスタの山と保存容器を交互に見る。
「作りすぎたな……」
そう、普段は和食やら中華やらなので、作らないものに挑戦して作ってしまったため備え置きにしては量を作りすぎてしまっていたのだ。
作るという行為が楽しくて自分自身があまり食べるタイプでないのを忘れていただけなのだが、日持ちするとはいえ保存容器にも保存期間にも限りはある。
いつもは千歳さんにもお裾分けをするので、作りすぎても問題はなかったのだが……。
料理に埃が被らないようにしておいてから千歳さんにメッセージを送ることにした。
「えっと『千歳さん、パスタを作りすぎてしまったんですが、良かったらどうですか』っと」
メッセージを送り終えて、携帯をキッチンのスペースの上に置いた。そのままソースも作り置きするかどうかを考えていると思っていたよりもずっと早く携帯が震える。
慌てて置いてしまった携帯を手に取ると『ごめんね』と文字が見えた。
『ごめんね、才三くん。メッセージは嬉しかったんだけど、もうお昼食べちゃった』
「ああ、ちょっと遅かったか。『いえいえ、余ってしまっただけだったので、なんとかします』」
『それなら、僕はもう食べちゃったけど、コルセアちゃんにも聞いてみたら?』
突然、千歳さんからそんなメッセージが返ってきて頭を抱えた。なんと返信していいか分からず、壁に背中を預けて考える。
本当に彼女に声をかけても大丈夫なのだろうか。
そう思ってしまったからだ。
そもそも彼女は俺にとって憧れにも近い存在だ。
これが普通の隣人ならば悩まずに持っていくだけでよかったのだが、相手は配信者で俺は彼女のファンだ。
彼女に直接会える状況だけでもタブーに近いのに、隣人として彼女に接しても良いものか……。
そう悩みそうになって――、
「いや、そうだな」
心情通り出来るだけ平等に接することを決めた。
そうと決まればこのまま、まごついているのはあまり良くない。
千歳さんに感謝のメッセージを返し、簡単なソースを作り置きをして俺は残っていた保存容器に普段より少し多めにパスタを詰めた。