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#11「こいを愛する鬼はこいする竜に微笑んだ」


「それで? 結局、恵殿はキョーカ殿をどうしたのだ?」



 翌日のアパート二階の廊下。

 カンカンと音を鳴らす手すりに寄りかかりながら、ぼうっとしていると、突然隣に来たオーバーサイズルックのコルセア様からそんな風に声をかけられた。

 問いかけられた意味が分からず面を食らってしまう。


「えっと、どうした。とは?」

「だ、男女が夜中に外に出て! 何もせずに帰ってくるわけがないだろう!! しかも濡れてないってことはどこかで雨宿りなど!! ふ、不潔な!!」

「えぇ……」

「昨日はついついパソコンの事でいっぱいいっぱいで忘れてたけど、余の友とどこへ行っていたのだ、恵殿!! ま、まさか朝帰りなどとは思わなかった!」

「ちょちょっとコルセア様! まずは落ち着いて! そもそも朝帰りじゃなかったし、パソコンの相談をしにもどっただろ!」

「うるさいうるさい! 恵殿の裏切り者! 変態!」

「コルセア様にまで!?」


 このまま女神の吐息……もとい、ブレスで氷漬けにでもされるんじゃないかって勢いで、何を怒っているのだろうか。ご自分の服のすそを掴んでガーっと怒鳴られてしまう。

 半分ギャグみたいなタイミングと勢いだったため軽く致命傷で済んだが、いつもの調子でこれを言われていたら絶命していたかもしれない。

 ……いやまあ、それがご褒美の人間もいるかもしれないが。

 混乱しながらも冷静に彼女を見る。

 彼女のために作られたであろう服のすそが引っ張られ、隙間から覗く尻尾がピンとあがり、膜の張った翼も命いっぱい広がった姿はどこかこう、煽情的にも見えるし、正直萌えポイントではある。

 普段は大人っぽい行動や気遣いから覗く彼女の子供っぽさというギャップも相まって、最高の絵だ。

 無意識でプリントスクリーンのショートカットを指が押していたらしく、慌てて自分の指を抑えた。


「ちょちょちょ、待ってって! ちゃんとコルセア様にも戻ってくるって言っただろ!」

「う、うるさい! 分かってるけど、いい加減引っ込みがつかなくなっただけだ!」

「それはそれで嬉しいけど、それなら引っ込んでくれませんかね!?」

「大体、恵殿が早く戻ってこないと嫉妬すると事前に言ってあっただろ! なのにあんなに待たせるなんて! 不潔にもほどがある!」

「嘘でしょ!? 丘上の展望公園からここまでだいぶ早く戻ったよな、俺!? しかも後半意味わからないし!」


「うるさいぞ。サイゾーにコルセアまで……。なにを公然とイチャイチャしてるんだ、お前たち」


 突然聞こえてきた声に驚き、階段の方を振り返ると、呆れた顔で額の角を器用に避けてヘッドホンを付けた長月さんが、パーカーのポケットに手を突っ込んでそこに立っていた。

 心外だ、一ファンとして公然とイチャイチャなんてしてない……ないよな。

 頭の中でうかぶハテナとなんと返したらいいのかを吟味している間に隣から「ち、ちが!!」と大声が返っていた。


「よよよ、余はキョーカ殿が心配で!? そう、心配だったのだ! 親友のキョーカ殿があられもないことをされてるのではないかと!!」


 わたわたと長月さんに返答をしているコルセア様を見て、思わずその反応だと誤解を与えるのではないかと遠い目になる。

 しかし、二人の初対面を考えると何も言えなくなるのも事実である。


 ――なんで俺、このアパートの初対面の人と物理的に下になって誤解されること多いんだろうな……。


 今更ながらに遠い目をしてしまっていると、呆れていた長月さんと目が合う。苦笑を返すとジト目をされたかと思うと「ふん」と顔を反らされてしまう。

 やはり、まだ嫌われているらしい。

 まあ、あれだけ格好つけてダサい姿を見せたのだから当然と言えば当然か。

 この誤解はいつになったら解けるのだろうと遠い目をしつつ、何か用だったらしい長月さんに話を振ることにした。


「えと、長月さん。何か用だった?」

「はあ? お前に用なんかあるわけないだろ、変態」

「さいですか……え、えぐぅ……」


 覚悟はしていたが、面と向かって言われるとへこむものはある。

 しょんぼりしていると「コルセア!」と長月さんが声を上げ横を通り過ぎる。

 通り過ぎるシャンプーの香りに顔を上げると、通り過ぎた長月さんはなんということか、そのままコルセア様の腕に抱き着いて俺にどや顔を決めてきた。

 な、なんて羨ましい!!

 目の前で宝をかっさらわれた盗賊よろしく腕を伸ばすと、長月さんが俺を見てべーと舌を見せる。


「べーだ。そんな顔しても、応援はするけど渡さないからな、サイゾー。それと、コルセアにも」


 途中「さ、さいぞー? 渡さないということは、キョーカ殿まさか……」というコルセア様の動揺した声も聞こえたが……まあ、きっと気のせいだろう。

 コルセア様が下の名前で呼ぶことをためらう人ではないだろうから。

 うんうんと頷き、仲睦まじくする二人を見守っていると「それじゃあ、私は仕事があるから」とまた横を通り過ぎようとする。

 今度はぶつからないようにしようと慌てて手すりに寄ると、ふとシャンプーの香りが横で止まり、


「ありがとう、まだ……だぞ……たろう」


 と、コルセア様に聞こえない……どころか俺にも聞こえない音量でささやかれた。

 驚いて長月さんを見ると、下から八重歯の除く笑顔を見せられて思わずドキッとしてして、聞き取れなくなってしまった。


「な、長月さん。いまなんて……?」

「ふふっ、なんでもなーい」


 おどけるように笑われ、そのまま通り過ぎていく長月さんを見送る。

 その背中はどこか嬉しそうに見えて……。


「まあ、いいか」



 俺は俺でコルセア様のお叱りをしかと受け止めるために。コルセア様に振り返るのだった。




 ここで文庫本でいう2冊目にあたる話、長月鏡華編は終了です。ここまで読んでくださり、ありがとうございます。

 これから先もまだまだ話は続きますが、続きがいつになるかは正直分かりません。ですが、待てるよ! という心の広い方はとりあえず下の※印の部分まで読んでいただけると嬉しいです。


※ブクマや評価、コメントをしていただけると「あ、これ続き書くと読んでもらえるんだ」と続きを書く指標になりますのでどうぞよろしくお願いします。

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