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幕間『小さなお祝い』


「それじゃあ、改めましてー! コルセアちゃんの配信活動復活を記念してー?」


「「かんぱーい!!」」


 コルセア様の復活祭――もとい、配信復活記念の会場として、客間を貸し出してくれた千歳さんの合図に合わせ、目の前に置かれていたコップを高くつき合わせ、冷たい夜風が入ってくる夜中にもかかわらずそう叫んだ。


 乾杯特有のコップとコップがぶつかった音がガラス戸越しに見える和風の庭に響き渡り、俺と千歳さんは満足したかのように料理た用意されているちゃぶ台に腰を下ろした。


「あ、あはは……大家殿に恵殿、二人とも大袈裟だぞ、余だってそこまでされると逆に恥ずかしいのだが……」


 俺の傍らで座っていたコルセア様はそんな風に控えめに笑う。

 青々しい両手でコップを持っているさまは相も変わらず愛らしいお姿だ。

 ……今日はテンションが高いかもしれない。


 そんな彼女の目の前には、いつもは置かれているミカンの入った器の代わりに、彼女の好きだと言っていたものと俺が持ち込んだ料理が所狭しと並べられている。


「で、でも、良いのか? 余の……その、勝手に落ち込んで復活しただけなのに、これほどの料理を擁してもらっても……」

「いやいや、コルセア様が配信活動に戻ってくれただけで、これぐらいの価値はありますよ、ねえ、千歳さん!」


 さっそく主役であるコルセア様よりも早く料理に手を付けようとしていた千歳さんに話を振ると「うんうん」と深く頷き、自分で用意していた焼き魚を箸で持ち上げていた。


「せっかくコルセアちゃんがやる気になってくれたんだもん、僕たちが褒めてあげないとだめでしょ」

「そんな、私事なのに、大家殿にそこまでしてもらうわけには……」

「にゃはは、固いこと言わない言わない。今回の主催は僕なんだから、断られると僕が困っちゃうんだよ?」


「そう、なのか?」

「そうそう! それにほら、せっかくコルセア様の好きな物とかを千歳さんと集めたり作ったんだから、せっかくなら、楽しまないと損じゃないですかね」


 冷凍のハンバーグに千歳さんの焼き魚、コルセア様が喜んでくれた俺お手製のソースがかかったパスタにキッシュ等々、それだけに飽き足らず、締めのデザートか、はたまたコルセア様か千歳さんが好きなのか、寒い時期のおかげで外に放り出されても汗をかいていないアイス。その横にはベイクドポテトアイスも――ベイクドポテトアイス!?


 自分で紹介しておいて意味が分からなかったが、千歳さんがどこからか用意したそのアイスの包装には間違いなくベイクドポテトアイスとプリントされているし、なんならコルセア様もこれ以上ないほどにそのアイスに釘付けだった。


「う、うむ……せっかく大家殿と恵殿が用意してくれたんだものな!」


 これ以上ないほどに目を輝かせていた。

 本音を言えば、俺の用意した物よりも興味を引いていて拳に爪の跡が残ってしまいそうだ。

 ただ、最近、仲良くなれたおかげか、コルセア様の口調も配信で聞くようなのじゃ口調じゃなく、より身近な口調になってくれたし、コルセア様が喜んでいるからヨシとしよう。

 悔しいが。

 今度からコルセア様にお土産を持っていくときはあやかろう。


「えっと、千歳さんはもう食べてるから……コルセア様、どれがいいですか?」

「め、恵殿、そこまでしなくても良いのだぞ?」

「いやいやいや、ここは俺が」

「いやいやいや」


 お互いに手を振りあい、コルセア様の冷たさが扇で扇がれたかのように降りかかった。

 ちょっと焦って、冷たさの調節が甘くなっているらしく、真夏ならクーラー要らずだ。

 残念ながら、今は真冬だが。


 脇から見ていた千歳さんが「にゃはは、コント見たい」と笑っていたが、今は千歳さんにかまっている場合ではない。


 今回の主役はコルセア様なのだ、何としてでもここは引いてもらわねばならない。


「コルセア様、見てください」

「む?」

「そういうと思って今回盛り付け用の物は人間用のしか持ってきていません!」

「そ、それは見たらわかる! だが余だって人間の道具の練習はしているぞ!」


「さすがです」

「だろう!」

「でも、今回の料理はコルセア様のために用意したから、こぼされたりするとちょっと悲しいなってお互いになったり、ね……?」


 ちょっとずるいし傷つけてしまうかもしれないが、大人しい性格の人がここまで食い下がろうとするのを止めるのは、相手の痛いところをつくしかない。


 十分間を開け熟考したのか、とても苦い顔で「むう……それなら、まあ……分かった」と大人しく両手を足と足の間にさしこんだ。


 推してる手前、そう言ったあざとい行為はかわいくてしょうがないのでやめてほしい。

 惚れてしまう。


「でしょう? ということで、ほら、なにが良いですか?」

「ん……。じゃあ、そこの恵殿のパスタを先に取ってくれるか?」

「あれ、アイスじゃなくていいの?」


 てっきりベイクドポテトアイスに目を奪われてたから、それだと思っていたんだけど……。

 不思議に思いながらも言われた通りパスタを盛り付け用のトングを使って取り分けていると、コルセア様はクスクスと笑われてしまう。


 トングを持ったままコルセア様を見ると、こんな時にも柔らかく八重歯の見えるほほえみを向けられていた。


「うむ。今日のパスタが恵殿のなら先がよい。余はそう決めておる」

「はあ? なるほど……?」


 内心では俺のを選んでくれたとガッツポーズをしそうになったが、隣人としての演技を続けるためにあくまで冷静にはぐらかしながらパスタを取り分ける。

 言葉ににやつきが混ざってしまったためか、途中千歳さんが「意気地なしだねえ」と俺だけに聞こえる声で囁いた。


「何がどう意気地なしなんですか?」


 言おうと思ったが、地雷の気配がしたので用意されていた紅茶で言葉を飲み込んだ。


「はい、コルセア様。どうぞ。あ、この中に苦手な物はないですよね?」

「あはは、気にしすぎだ。余の母上でもそこまで心配症ではなかったぞ?」

「え、そ、そうですかね……」


 盛り付け終わったパスタをコルセア様の前に置き、近くの棚にあった割り箸とパスタの大皿にかけてあったフォークをコルセア様の皿にたてかけて首を傾げる。


 ううむ、個人的にはまだ大雑把に対応しているつもりだったのだが、やりすぎだっただろうか。

 とりあえず、二人にこれ以上気を遣わせないために適当に自分の皿に取り分ける。


「ふうん、にゃるほどなあ。んぐ、むぐ……ん、ところで才三君」

「はい、なんですか?」

「二人は、どこまで行ったのかな? かなあ?」


「は!? あ、な、どどど!?」

「にゃはは、そこまでわかりやすい動揺しなくてもいいのに」


「だ、だいたいそんな不埒な事本人を目の前にして話せるわけないじゃないですか!」

「不埒って……それに大丈夫だよ、ほら」


 言われてコルセア様を見ると、と下を向いてぷっくりとした頬を見せながら俺の作ったパスタをゆっくりゆっくりとフォークに巻き付けていた。

 小さい子供を見ているようで微笑ましさと推しのそんな姿で心臓が鼓動をやめそうになる。

 そうではない、止まれ……いや止まるな俺の心臓。


「可愛いですね」

「にゃはは、推しばかだー。そうじゃなくて、今なら心からの本音を言っても聞こえないってことだよ、恵才三君」


 妙な言い回しとフルネームを呼ばれ、悪戯で何かされていると察した。


「……もしかして、また何かしてますか?」

「にゃはは、人の本音を聞くのが趣味だからね。その為なら秘術は何のそのってね」

「千歳さん、悪いですけど、そんな人には言えません。プライベートですよ?」


「ふっふっふっ、いい心がけだね。僕の敷地内に入ってるというのに」

「だからこそじゃないですかね」

「へえ、僕が悪いことをするって思わないの?」


「今更かなって」

「……にゃはは、そうだね。でも、こうやって切り取ってるんだから、少しくらい本音を言ったって――」


「むう、恵殿に許可を取らずこっちの境界に入れるのは感心しないぞ、大家殿」


 突然、脇からコルセア様の声が聞こえたかと思うと、俺と千歳さんの間に綺麗なフォークをこっちに突き出されていた。

 見るとコルセア様がちゃぶ台から身を乗り出してパスタを巻いていたフォークで割り行ったらしい。


「おお? にゃはは、さすがは竜人族。人間の魔術程度じゃあっさりだね。こう見えても切り取る魔術は結構得意のつもりだったんだけどなあ」

「ふふっ、大家殿が人外レベルなのは認めるが、まだまだ未熟な余でも目の前でやられれば分かるぞ」


 ふふんとシャツが張り付いた薄い胸を張られる。

 今まで落ち着いた雰囲気と大人っぽい雰囲気が前面に出ていたが、見た目相応に幼い部分もあるのかもしれない。

 大人っぽい姿も好きだがこれはこれでよい。


 だが、確かに本音を聞こうとした割にはあっさりとばれた気がする。そう思い、千歳さんを見ると嬉しそうに目を細めて笑っているだけ……知識がないし本当のところは分からないが、わざとばれるように張ったのではなかろうかと勘繰ってしまう。


「でも、わざわざ壁まで張って、何の話をしていたのだ?」

「んー? ふふっ、コルセアちゃんに話せない男子の話だよ」


「……大家殿は男子だったのか?」

「ふっふっふっ、だったらどうするかな?」

「っ、ま! まさか大家殿は巷で噂の男の娘と言う――!!」


 勘繰りすぎかもしれない。

 楽しそうに話している二人の会話を流しながら、取り分けたキッシュをつついていると、千歳さんが満足したように「よし」と立ち上がったので不思議に思う。


「どうかしたんですか? 千歳さん」

「にゃはは、あとはお若いお二人で……ってことで。僕は奥で知り合いにとか仕事を片してくるから、今回の主役であるコルセアちゃんをもてなしてあげて」


「は、はい!? ちょっと千歳さん! いくらなんでも急すぎじゃあ!」

「はいはい、僕のお耳は忙しいんでーす。じりりりりりん……あ、夜風ちゃん? 実はさ――」


 今はコルセア様が復活して二人で話すにはちょっと気まずい期間だ、千歳さんに間に居てもらわないと、コミュ障の俺としてはすごい困る。

 慌てて千歳さんに手を伸ばしたが、俺たちにウィンクと手を振りながら、ピシャンと閉めた飾り硝子越しに家の奥へと行ってしまった。


「く、口でわざわざ電話の真似をしていかなくても……しかもきょうび聞かない電話の音を……」


 伸ばした手が空しく叩き落とされ、緊張で身を固くしながらも振り返ると、そこにも気まずそうにパスタをつついているコルセア様の姿があった。

 うぅ、すみません。俺が自分から話しかけに行かないばっかりにこんな気まずい空気を作ってしまうなんて……。


 俺も俺でコルセア様が復活したのは嬉しいし、隣人として祝ってすぐにでもしゃべりやすい空気を作るべきだと心得てるのだが、いかんせんただのファンがいきなり推しと二人きりの会話なんてするにはオタクにはちょっと辛すぎると言いますか、しどろもどろになったら格好悪いし、隣人としてもなあって思ってしまって云々。


 心の中では反省しながらちゃぶ台に座りなおすが、二人の間にはカチッカチッと古い振り子時計特有の音が鳴り続けてしまう。

 コルセア様に振る話題を考えれば考えるほど喉は乾くし、手のひらに汗がじんわりと滲み始めた。

 いけない、とりあえず何でもいいから話しかけないと。


「「あ、えっと……」」


 とりあえず声を上げようと思った瞬間、パッと顔を上げたコルセア様と同時に声を上げてしまい、ぐっと言葉に詰まってしまう。


「「ああ、いや」」


 また被る。お互いにじりじりと見合ってゆっくりと手を差し出した。


「……どうぞ、コルセア様から」

「う、ううん。余は大丈夫だから、恵殿から」

「「…………」」


 何も言えなくなり、絶妙な間が広がって気まずさで思わず千歳さんが残していったお茶に手を伸ばしまだ熱を持っていたお茶を胃の中に流し込んだ。

 やばい、今の止まり方で自分が言葉にしようとしたことさえ飲み込んでしまった。


「その……余は嬉しいなって思ったんだ」


 必死に何か話題をと頭を働かせていると、コルセア様がそう言ってくれた。

「嬉しいですか?」


「うむ。その……大家殿から聞いた。今日の宴……復活祭を開こうと提案したのは恵殿だと」

「あーえっと……ウッス、そうですね」

「ふふっ、なんだその反応は」

「改まって言われるとその、恥ずかしいと言いますか」


「あはっ、ならもっと恥ずかしくしてやろう。――余はな配信に戻ることを祝ってくれたり、余が落ち込んでいたのを元気づけようとしてくれたこと、すごく嬉しい」

「おおう、公式供給の嵐」


「公式供給?」

「ああいやこっちの話で。えっと、まあ……そのなんと言いますか、コルセア様のことは推しですし、隣人としても落ち込んでる人が居たら力になりたいなと」


「隣人、か。恵殿はそればっかりだな」

「え……なんか、すんません」

「ふふ、謝るな。別に悪いことはしておらん」

「そう、ですかね」


「うむ、ただ、その、な? おぬしが大家殿紹介で助けてくれているというのは承知している」

「……それは、まあ」


 こういってはあれだが、大家である千歳さんが間を取り持ってくれなければこんな関係にはならなかったことは間違いない。


「これは恵殿が余のことを知ってしまったから起きた事で、恵殿を巻き込んでいるに違いない。恵殿の厚意で余を助けてくれているというのは分かっておるのだが、どうしても他人行儀だ、と感じてしまうのは余の我がままだろうか」

「い、いえいえ! すんません! えっと、ファンとしましては、これ以上推しに近づくのは難しくてですね!」


「そういうものか?」

「そりゃあもう! コルセア様はあこがれの人物と対面で話すとなったら緊張しませんか?」

「むう……確かに。しばらくは緊張して、冷気の調節を誤って凍傷にさせてしまうかもしれぬ……」

「でしょう?」


 そういえば俺も最初に会った時はコルセア様に氷漬けにされそうになった。あの時も緊張していたということだろうか。

 しかし、コルセア様でも緊張するのか。


 コルセア様は竜人、人間と相まみえるくらいなんて何とも思ってないかと思っていたのに、そんなコルセア様でも不審者と対峙するときは緊張するものなんだと、謎のタイミングで親近感を覚えてしまった。

 いや、不審者ではなく、その時は声をかけようとした俺なのだが。


「……そう、だな。でも、余は寂しくもある。復活してから、おぬしはなかなか来なくなるし、大家殿に聞いてもバイトが忙しいばかりだ」

「ああ、いやそれは……」


 隣人とはいえファンなのでなんとなく顔を合わせづらかった――とは言えなかった。


 カンバスの鯉として活動を応援し、配信の切り抜きや宣伝をするのはファンとしての俺だ。隣人として会えばいいと頭では思っている物の"カンバスの鯉"も"隣人の恵才三"もどちらもただの俺でしかない。


 コルセア様にそれを伝えるわけにはいかない。そう思い黙るとコルセア様の角が上向き、尻尾と羽がしょんぼりと縮こまり、心臓をゲイボルグに穿たれてしまう。


「せっかく仲良くなったと思っておったのに……余の勘違いだったか?」


 痛恨の一撃だった。


 正直、オタクとしてはこういう面を見せられると面倒だって思うやつも居るだろうが、少なくとも今は配信じゃない。"隣人としての恵才三"を信頼して見せてくれているのに、真実を言えない俺には特に刺さってしまう。


 いっそ、俺が彼女の憧れだと胸を張って言えば軽くなる秘密ではあるのだが、それはそれでいまさら言うのは躊躇われる。

 少なくとも、俺には無理だった。

 だから、慌てて手を振って「か、勘違いじゃないですって!」と彼女の考えを否定した。


「ただ、俺も単位のための授業だったり、バイトが忙しかっただけですって! そろそろ年末ですし、治めないといけないものもありますから、家賃とか」

「……本当にそれだけか?」


「ち、誓って」

「むう……」

「あ、あはは……」


「……なら、よい。いやすまぬ。つい先日まで恵殿にはひどい事を言ってしまっていた……気がする。それもあって、余は嫌われてしまったのではないかと不安になっていてな」

「いやいやいや、それこそないですって」


「本当か? 余が面倒くさくても、電化製品の扱いが雑でも、掃除をした矢先から床が濡れてしまうような間抜けでもよいのか!?」

「は、初耳情報がすごいあるけど……。大丈夫ですよ、それくらいで嫌いになる様なら、ファンなんてやってませんし、それに……」


「それに?」

「俺はコルセア様のそういうところも推せる! って思ったからこそ、今も推し続けてますから。逆にちょっとやそっとじゃ離れない良ファンですよ、俺は」


「恵殿……。ふふ、そうか。なら、今までの弱音は切り取ってしまっておいてくれ」

「あはは、俺が切り抜き師だったら、率先して動画を作って拡散してましたね」

「あはっ、なら恵殿が切り抜き師じゃないことに感謝せねばな」


 俺としては切り抜き師じゃないなんて、ドキドキ物の嘘をついていたが、二人してクスクスと笑いあう。

 コルセア様が口火を切ってくれたおかげか、ずいぶんと話しやすい雰囲気になってくれていた。


 これなら今まで通り"隣人としての恵才三"と"正体がばれてしまった配信者"という関係に戻っても大丈夫だろう。

 そう思いながら、取り分けていた料理に手を付け――。


「にゃはは、痴話げんかは終わったかな?」


 不意に聞こえてきたそんな声に飲み込もうとしていた料理がのどに詰まり咳き込んでしまう。

 今の独特な笑い声に、ニヤニヤしたのが漏れ聞こえてくるような声色は間違いない。


「ち、千歳さん! 戻ってたのなら言ってくださいよ! それに痴話げんかって!」

「そそそ、そうだぞ、大家殿。余と恵殿はそのような関係じゃあ!」

「にゃはは、僕としてはそっちの方面も視野に入れてもいいなって思うんだけどなあ。よいしょっと」


 いつの間にか除いていた千歳さんが年より臭い声と共にちゃぶ台前に座り、僕とコルセア様の隣に陣取り「でも」と僕の方を向く。


「内緒でーはちょっと僕としては見過ごせないかなーって」


「内緒も何もそういう空気じゃなかったですよ」

 と言おうと思った瞬間、なぜかコルセア様が「ち、ちちち違うぞ!」と立ち上がった。その際、力加減を間違えたのか、ちゃぶ台の上に乗っていた食器が揺れる音を立てる。


「先ほども言ったが、余と恵殿は隣人として偶然居合わせただけでべ、べべつにそんなことのために余は!」


 なんか過剰に拒絶されてしまった。

 恋心ある男子的にはショックではあるが、ファンとしてはほっとする言葉だったのだが、千歳さんが楽しそうにけらけらと笑った。

 この人、本当にいい性格をしている。


「どうどう、落ち着いてコルセアちゃん」

「お、大家殿が! 変なことを!」

「にゃはは、恋愛になるとトカゲになるのがコルセアちゃんの悪い癖だよー?」

「う、むう……」


 コルセア様は悔しそうにフォークを握って顔を伏せてしまう。

 会話から察するに竜人という亜人種はトカゲと言われるのは屈辱らしい。ドラゴンもそうなのだろうか。


 やいのやいのと言いあい始めた二人を尻目に料理に手を伸ばす。今日はなんて言ってもお祝い事なのだ、この二人が大喧嘩になりさえしなければ俺が止める必要もないだろう。

 だって……。


「にゃはは、もっと僕と才三君に対するみたいに、ほかの住民にも食ってかかればあっという間にみんなと仲良くー」

「大家殿! それはおぬしが竜人族を知らぬからだ! 大家殿はもっと竜人族を――」


 あやうく魔法大戦が勃発しそうなやり取りに一般人の俺が入り込めるわけがないだろう。

 ……いや、止めた方が良いのは分かるが、人間には出来る限界というものがある。

 限界のなさそうな二人を尻目に料理を手に取り部屋の隅に避難するのだった。


 あとで巻き込まれることになるのは言うまでもない。


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