日常SS 2「扉の影のいたずら」
10月31日――。
世間ではハロウィーンと呼ばれるお祭りで話題になっているころ。
日曜日と言うこともあって、学校の課題も何もない休日の昼間、バイトの時間を部屋で寂しく待っていると、誰かの来訪を告げる呼び鈴が鳴った。
「にゃはは、トリックオアトリートだよ、才三くん」
玄関のドアを開けると、驚いたことに大家である常盤千歳さんがいつもはツーサイドアップの髪を下ろし燕尾服にマントをつけた吸血鬼スタイルでそこに立っていた。
もちろん、自分は普通の私服でわざわざ仮想を用意しているあたり、千歳さんはお祭り好きなのだろう。
「お、おはようございます、千歳さん。その恰好は……」
「ふっふっふっ、才三くん、今日はハロウィンの日だよ! 僕としては鎮魂とか収穫のお祭りだけど、ここは日本だからね。君にもおすそ分けってね」
「ああ、ハロウィン……。それにしても今日はえらくテンション高いですね」
「お祭りだからね! にゃはは、懐かしいなあ。昔君みたいにハロウィンを仕掛けたらお菓子を買って用意してた子も居たんだよ」
「おお、まじめな子ですね」
「そういう才三くんはいけませんな、不真面目とはー。それで返事は?」
「あーえっと……作ってる最中――って言いたいんですけど、今日はバイトだったんでそんな時間取ってなかったので……」
「のでー?」
「と、トリックの方で」
「ふっふっふっ、まあ君がマメなおかげでバイトのシフトは知ってるから今日用意してなかったらそうなるだろうなって思ってたからちょうど良き」
顎に手を当て、千歳さんの目がきらりと光る……ような気がした。
なんだろう、本当に今日の千歳さんのテンションはぶっ壊れている。
「まあまあ、そんなに怖らないでいいよ、いたずらついでに僕としては才三くんに聞きたいことがあったんだよ」
「聞きたいこと、ですか?」
「うん」
「千歳さんが聞きたいことってなんですか?」
「んー……? ふふっ」
ふと、会話の途中で千歳さんが横を見てニヤニヤとしいたずらっぽく笑った。
「千歳さん?」
「ああ、ごめんごめん。じゃあ今このタイミングでもう一回聞こうかな」
「はあ……?」
「君は、コルセアちゃんの事、どう思ってる?」
「は、どう、ですか?」
「うん」
「それはもちろん」
「あ、視聴者として大好きは甘えなので駄目です」
「うそん、そこに甘えとかあります?」
「甘えだよ。個人的に二人の関係がどんな感じなのかちょっと気になってるんだから」
「二人の関係と言われても……隣人としてうまく付き合えてるかなとは、思い、ます。はい」
「そう? それならいいんだ。でもさ、才三くんがコルセアちゃんの身の回りのお世話をするのが嫌なら僕も無理に――」
「いいえ、それならぜひやらせてください」
「おお?」
「もちろん、ファンだからとか隣人だからっていうのはないわけじゃないですけど、コルセア様から断られるまではやり続けますよ」
「ふふん、責任感?」
「いいえ、俺がやりたいからって言ったら怒りますか?」
「にゃはは、怒る理由なんてないよ、満足できる答えも聞けたしね」
「それならよかったです。あの、ちなみにこれ、こっぱずかしいのでコルセア様には黙っててもらっても……」
俺がそう答えると、千歳さんはにやにやと笑いそっと横によけた。
いやな予感がずぶずぶと湧き上がり、ドアをそっと出てコルセア様の部屋がある方を見ると、恥ずかしそうに頬を染めたコルセア様が魔女の帽子をかぶって立っていて……。
「その……すまない、余はもう聞いてしまったんだが……余は、その、どうしたらよい?」
いつものだるだるのシャツと短パン姿に、まったくもって不釣り合いな魔女の帽子を目深に被ったコルセア様をじっくりと瞼に焼き付け、ゆっくりと自分の部屋の扉を閉めた。
後日、二人にお菓子を作ってあの時のは隣人としてだったり、視聴者としてだったりいろいろごっちゃになってて急に聞かれたからてんぱったと説明したら、複雑そうな顔で分かってると言われてしまった。
読んでくださった方、ありがとうございます。めっちゃ急いでしまったので誤字がないか怖すぎる。




