日常SS 1「ベランダの夜会話」
まず最初に。これはとりあえず書き残しておきたかった、二人の会話を覗き見たやつです。第2章のアップじゃなくてごめんなさい。どうしても書きたい作品は意志を残すためにこうしてちょくちょくSSをアップしていきます。
コルセア様が元気になってから数日程。
ふと、通信学校の宿題でもあるレポートを片付けていると、星でも見上げたくなり、アパートの玄関を開けた。
冷えた風が部屋の中に入り込むが、なんとなく知恵熱で心地よくなっていると、「ん? ああ、恵殿か」と、コルセア様の声がして、体がビクンと跳ね上がった。
慌てて横を見ると、コルセア様と出会った日の夜のようにアパート2階の鉄柵に腕を引っかけ体重を預けているコルセア様が羽と尻尾を悠々と伸ばし、おきれいな姿でそこに立っていた。
相変わらず二次元からそのまま飛び出てきたようなお姿で平伏し奉りたくなる。
怒られそうなのでやらないが。
「ふふっ、恵殿はこんな夜更けにどうかしたのか?」
「それはこっちのセリフ……って言ってもいいんですかね?」
「あはっ、悪いことなど何もないだろう?」
「それは、そう、ですね。ああいや、うん、何もないです」
「あはは。余は引きこもってたからな。久しぶりに夜空でも眺めようかと外におる」
「ああ。でもまだ寒いですよ?」
「平気だ。余は氷の竜人だぞ? 寒さなぞ慣れておる」
「人が近くに居る時くらい温まってもいいんじゃないですかね」
「おっと、恵殿、さてはキメておるな?」
「えぇ……指摘されるの恥ずかしいので、やめてもらいたいです、はい」
「あはは。……そうだ。恵殿」
「はい?」
「かなり唐突だが、恵殿はどんなものが好物なのか、聞いても良いだろうか?」
「好物? 隣失礼します。……えっと、当然好きな食べ物って意味ですよね?」
危うくコルセア様です! と気持ちの悪い発言をしそうになった。自制した自分を褒めたい。
馬鹿な自分の考えを抑制しながらもコルセア様から数歩分距離を離して通路の鉄柵に寄りかかる。今にも壊れそうな音が聞こえたが、怖いので今度千歳さんに言っておかないといけない。
そんなことよりも今はコルセア様との会話が優先だ。
「うむ。余はこの世界に来て色々食べさせてもらっている。中には知らないものも多くあると知識もつけてきた。ネットではそのまりとっつぉ? やらまかろんやら、色々なものが流行ってて正直判断がつかなくてな……」
「流行り物を取り入れる姿勢って言いたいけどなんか絶妙に古さが残ってるのがらしい。……んーなんでそれで俺に聞こうと?」
「ん? 素直に恵殿の好物が知りたいなと思ったからだ」
「おっと、直接攻撃はファンの心臓に悪いですよ?」
「む、駄目……だったか?」
「上目遣いは最高です。……ファンの心を弄ぶコルセア様にお答えしたいのはやまやまなんですが、好きな物……か」
「困るか?」
「あんまりぱっと思いつかないというか」
「ん、そうか。恵殿はあまり好き嫌いをしない、ということか」
「なんか残念そうですね」
「まさか! そのようなことはないぞ!」
「怪しい。ああでも、強いて言うならパスタ好きかな。ほら、あの時にも差し入れした」
「ああ、あの小麦を練って薄くして湯がいた物か」
「素材そのままの表現」
「あはっ、冗談じゃ。余だってこの世界に来て長いからな。恵殿が作ったあれは美味しかったぞ」
「恐悦至極。もしほしければいつでも」
「本当か?」
「ええ、俺でよければ」
「むしろ、恵殿のが良い」
「おっとまたファンを殺しに来てますね?」
「ふふ、余も配信者故な、見てくれておるものにはそれ相応におかえしをせねばなるまい」
「それはたしかに。実際、配信とかで名前を呼んでもらうだけで嬉しかったりもしますからね」
「うむ。まあ、そうは言っても投げ銭……お金をわざわざ余に投げてくれた者にのみだが、な」
「それぐらいがちょうどいいんですよ」
「そういうものかのう」
「そういうものです。そういうところはメンタル強く持ってもいいんですよ」
「そ、そうは言っても余は自分がそこまで大した生物ではないと思って居るから」
「嘘やん……竜人っていう種族の時点である種勝ちでは……」
「あはっ、そうじゃな。種族的な意味では勝ち組かもしれん。ただ、余はそう思っておらぬよ。知識を持つ生物として人と誠実に対話をすることこそが余は大事だと思って居る」
「深そう」
「こら、深そうとは何事だ」
「すんません」
「まったく……しかし、余はまだまだ世を知らぬ。そんな余にたくさん教えてくれ」
「ええ、隣人として聞かれたことにはできるだけ」
「ううん、余は恵殿に教えてほしいな、とな」
あまりの出来事に隣人としての演技をすることも忘れ、ついファンとしての自分が噴出してしまう。
「ああ……ジーザス……」
「む? どうかしたのか? 急に天を仰いだりなんぞして」
「すいません。いや、ほら、コルセア様ってファン、結構いるじゃないですか」
「ま、まあ配信活動をしている手前、ある程度は居るじゃろうな」
「だから、その、何と言いますか……」
額を柵につけ暴走で泣いてしまいそうな感銘の中、俺はこうつぶやいた。
「俺、なんで生きていられるんだろう」
と、ファンに殺されそうだという思いと、破壊力の高いコルセア様の言葉選びで、自分勝手に自滅しかけてしまった。




