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#6-2


 パソコンを開いて、色々と作業をしていると、イヤフォンをつけていた耳にコルセア様の配信で毎回流されているフリー音源のBGMが流れてきた。


「お、そろそろだな」


 何週間かぶりに、俺はそう呟いていそいそとパソコンの画面にコルセア様の配信画面を映すと、ちょうどコルセア様が配信画面を雑談用のレイアウトに帰る場面が映し出されて、画面の先にリアルよりもぎこちなく動くコルセア様の絵が動いていた。

 忘れかけた配信機材に四苦八苦するようにマウスの音や、彼女の悩む声が聞こえてきて、数分立って彼女が挨拶を開始していた。

 


『うむ、人間たち。すまぬ、ずいぶんと時間が空いて操作を忘れてしまって……。ん? 前の時はトラブルで遅れたが今回は体調も――』

 


 数週間、間を開けた謝罪とその間に何を考えていたかの説明をする様子が彼女の配信に流れていた。

 ぼかせばいいのに彼女はあまりぼかさずに『実はな、配信を続けるかどうかも悩んで――』と言った心情の暴露や『それでも余は楽しいと思うから続けることにしたぞ』というこれからの報告を改めてするようだった。

 それから『友人にも相談に乗ってもらってな。心配をかけてしまった』とも。

 友人が誰の事を指しているのかは……。きっと考えない方がお互いに幸せだろう。証明できるのはコルセア様だけで勝手に思うだけなら俺の勝手だ。

 心配していたのは間違いない。

 配信で喋る彼女の声からは申し訳なさそうな気持ちと、それでもリアルの時には聞けない配信時独特の嬉しそうな感情が伝わってくる。


 ――ん、やっぱり彼女はこうして配信をしている方がずっといきいきしていて楽しそうだ。


 そう思った俺は前までと同じようにコメントを書き込もうとして――、


「うわっ、あぶな」


 アカウントの名前がいつも使っているものではないことに気が付いて、慌ててアカウントを変更するために設定画面を開いた。



 そこにはカンバスの鯉と書かれたアカウント名が表示されていた。



 ネットの名前というのはいつでも変えることが出来る。

 だから、俺がカンバスの鯉を語った……というわけではない。正真正銘、昔から使っているアカウントそのままだ。証拠だって当時の配信のアーカイブデータは無駄に保存用のデバイスに保存してあるが……まあ、蔵出しすることはもうないだろう。

 もう配信を辞めてだいぶたつから、まさか自分の推しであるコルセア様の口から直接この名前が出るなんて思いもしなかった。

 偶然とはなんと恐ろしいものか。

 正直、自分はあまり面白い配信者ではないと今でも思っているが、自分を見てくれた人が配信を始めてくれたと聞いて嬉しくないわけがない。

 懐かしくなって、投稿されている動画一覧を開いた。

 そこには、新しい順に動画や配信が残されているはずだったのだが。今はもう俺が昔作ったものはずいぶん下の方へといってしまっていた。最近投稿されている動画には、コルセア様のアーカイブの切り抜きと呼ばれるコルセア様のここが良いポイントの動画や、彼女の放送事故集。それに鼻歌や癖の特徴をまとめた動画がいくつも置かれていた。

 どれもこれも、俺がコルセア様の配信を録画しておいたものを何日もかけて編集した動画たちだ。知らない人がここだけを聞くと気持ち悪いの一言かもしれないが……。知ってる人からすれば何をしているかはわかるかもしれない。

 まあ、このアカウントを自分のためだけに使うことは無いだろうが、これからもこの手の動画を投稿し続けることになるだろう。

 どの動画も公開になっていることを確認してから、俺はその画面を閉じて設定からアカウントの切り替えを押す。

 いつも通り適当に決めた今のアカウントCarps Lockに戻して、俺はコルセア様の配信画面に戻ることにして、静かに彼女の配信を眺めて、いつものようにコメントをする。

 今はコルセア様を見ていられる幸せがあれば、当面はいいだろう。

 彼女の配信を見ながら、俺は画面の向こうに思いを馳せ続けた。















 そういえばの話なのだが。

 後日、彼女の言った竜に成れるという言葉が不思議に思って色々と調べてみた。

 そうすると、滝を登り切った鯉は竜門に居たり、やがて龍に転生すると書かれている故事を見つけることが出来た。

 正確には、西洋竜ではなく東洋の蛇に似た龍の話だったのだけど……。



 ああ、本当に。



 俺はなんて恵まれているのだろう。




小説一冊分のお話はおそらくこの辺りで終了です。続きはまだまだありますが、ここから日にちが空く可能性が大いにありますのでご了承ください。


 ※少しでも良い、面白いと感じて頂けたら、下の感想、評価、ブクマ等々をよろしくお願いします。今後のどういう作品を作るか、の指標になりますので、非常に助かります。

 


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