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#5-3


「実はね、コルセアちゃん自身も、配信自体はやめたくないって言ってるの」

「っ! それは、本当ですか?」

「うん。それと最初に君の言った通り、たぶん経験と自信の無さからくる自己嫌悪かなって僕も思う。もちろん、それだけが原因じゃないんだろうけど、こういう不幸って重なっちゃうからさ」

「運が悪いときは、非常に良くないですからね……」

「経験深そう。まあ、だから、こういう時に大事なのは大丈夫なんだーって自信が持てればいいと思うんだけど」

「それは、はい。そうだと思います。でも、例えば何かありますかね」

 そう言うと、千歳さんは「うーん……。例えばー」と腕を組んだ。

「人気が出てくる、とかどうかな? 僕個人的には彼女を見る人も増えてくれればもっと嬉しいから、僕の願望込みだけど」

「それは……」


 たしかに千歳さんの言う通り、見る人が増えれば自然と彼女も自信を取り戻してくれるだろう。百の言葉より一の結果だ。目に見える信用に値する結果は、何よりも自信の糧になる。

 一応千歳さんの言う内容で解決できないわけでもないのだが……。


「難しい、かもしれません」

「やっぱり?」

「もちろん、いくらか現実的で確実にする方法はありますけど……。時間とお金。それに人手がかかりすぎるので、そう言う意味では現実的ではないかな、と」


 確実性を取るのなら難しい話だった。

 この場合の人気は本人が面白ければ人気が出るといった類の物ではないからだ。本人の努力だけでなく、それを見た誰かが行動を起こすことが重要であって、本人だけがどれだけあがいたところで最初の限界が近すぎる。

 確かに面白かったり、運が良かったりすれば爆発的な人気が出やすいのだが、いかんせんそれを見た他人の行動を起こすか起こさないかの差は本人の力なんてかすんでしまうほどに大きい。

 それ自体は千歳さんも把握しているのか「そうだよねー」って言いながらもため息をついていた。


「難しいかー」


 千歳さんも悩んでいるのか、そのままテーブルに肘をついて考え込んでしまった。

 自分も何かできないかと必死に考えを巡らせてみる。


 ――俺に……何もなくなった俺にも、なにかできることは無いだろうか。


 どれだけ考えてもコルセア様の事を元気づけられて上げられるようなことが無くて、胸の中がもやもやとしてくる。

 好きな人が……。自分を救ってくれた人が悩んでいるのに、見ているしかできなくてもどかしくなる。

 すぐ近く、隣の部屋に彼女がいるのに、部屋のドアノブに触れることすら叶わなかった。自分が出来ることなんてたかが知れていて、なにより俺は彼女のファンで、だからこそ行動の線引きはしなければいけない。

 でも、もう二度と、コルセア様が見れないかもしれないなんて思ってしまうと――。


「はい、そこまで」


 思考が深みにはまりそうになって、ふいにパン、という手を叩く音に引き戻されて現実に戻った。

 すると、いつの間に目の前まで近づいてきていたのか。千歳さんの顔が息がかかるほど近くにあって、驚いて硬直してしまう。


「ねえ、才三くん」

「は、い……?」

「君はコルセアちゃんがなんで配信を選んだか知ってる?」

「なんで配信を選んだ、ですか? それは千歳さんがお勧めしてくれたからだって……」

「あはっ、確かに僕がこれをやってみたらとは言ったね。でも、僕はほかにも色々提案はしてたんだよ?」

「ほかの提案?」


 俺がそう聞き返すと、千歳さんは身体を話して先ほどの位置まで戻ると「だってね」と口を開いた。


「彼女たち――竜人族のことを知ってもらうのなら、本を書いたり、絵を描いたり、色々方法はあったんだよ。まあ、インドアばっかりだけど、コルセアちゃんの外見上長い時間、外に居るのは難しいからね」

「まあ、それははい。正直、話を聞いていた時も思いました。文章よりは目につきやすいですけど、イラストよりは目を引きませんから」

「うん、その考え方はあってると思う。でも、コルセアちゃんはその中でも配信を選んだの」

「コルセア様が、自分で配信を……?」


 もちろん、それらがコルセア様が苦手なわけではないだろう。物理的に筆を持つことが難しいや、文字を打つのに時間がかかるという理由はあるにはあるだろうが……。

 コルセア様が率先して配信を選ぶ理由にはならないだろう。

 不思議に思っていると、千歳さんは言葉を続けてくれた。


「配信ってものにとっても強い思い入れがあったんだと思うよ。きっかけとか、思い出とかそういうのが。だって、僕が出した中では一番風当たり強いって分かってるはずなのに一番に最初にこれをやりたいーって言って来たんだもん。提案した僕が一番びっくりした」

「きっかけ……」


 千歳さんの言葉で、コルセア様が何を言っていたのかを思い出して、ハッとする。

 あの時、――コルセア様が配信を始めたきっかけを教えてくれた時、彼女はこう言っていたのだ。



 ――その者があまりに楽しそうに配信しているのでな。ついついつられて見てしまったのだ。他の物にも手を付けようとは思ったがまずはこれからやってみよう、とな。



 彼女は、間違いなくそう言っていたのだ。

 コルセア様の言葉を思い出すのと同時に、千歳さんがそれを思い出させてくれたことに驚いて、また俺は千歳さんの表情をうかがってしまった。

 千歳さんは心地よい場所を見つけた猫のように目を細めていた。


「千歳さん、もしかして、全部知っていたんですか?」

「ふふっ、どうかな。でも、僕の言葉の意味。君ならわかると思ってたんだけど、違う?」


 そして、目を細めたまま意地悪そうにそう言った。

 わからないわけが無かった。

 あの時、彼女のパソコンの様子を見に行った時、彼女はそんな言葉を言って、配信を始めたきっかけを教えてくれたのだ。



 知名度の――名もない、配信者の名前を出して、好きだと言葉にして。



 誰も伝えてくれなかった言葉を直接口にしてくれていたのだ。

 その時の事を思い出して、再び胸が熱くなる。

 俺が彼女に直接伝えるわけにはいかないけれど、今しなければならないことは確かにある。

 もしかしたら、今まで何度も止まっていた『ファンとしての境界線』は超えてしまうかもしれない。

 でも、例え自分の信念を曲げなかったとして、ファンだからと律して彼女が居なくなるくらいなら、多少のタブーを犯してでも彼女の自信の糧にはならなければいけない。

 その上で彼女が辞めることを選択して、次の事を始めるのならその先でも応援すればいいだけの話だ。

 “ファンとしてのタブーを犯すこと”が“ファンとしてマナーを破る”のと、同じ意味なわけではない。

 マナーを守って、タブーを犯すことくらい造作もない。

 自分の持っている立場と名前を生かさないなんて理由、どこにもないのだ。

 仮に間違っていたとしても後悔なんて、それこそ死ぬ前にできることだ。

 もし、コルセア様が居なくなるというのなら、自分は昔の挫折した自分に戻るだけだ。それなら、全力で彼女を応援したい。


「俺、は……いえ、すいません。出来ることをしてきます」


 座布団から立ち上がり、興奮を抑えながらもそう言った。


「うん。なら頑張ってね。もしもの時は僕も責任を持ってあげる」

「千歳さんが? でも千歳さんには関係が――」

「にゃはは、それが本来の大人ってものだよ。今は余裕が無くて、できる環境の人は少ないと思うけど、出来る人は積極的にやるのが良き世界の作り方だよ。それが大人のお仕事だからね。それに……」

「それに?」

「救うのはコルセアちゃんだけじゃないからね」

「……すいません」

「ふふ、謝られることはしてないかなあ。でも、頑張ってね」

「はい!」


 やると決めたのなら善は急げだ。今すぐにでも作業に取り掛かろう。

 俺は千歳さんに早々に別れを告げて、自分の部屋へと走るのだった。



      *     *     *



 俺はさっそく自分の部屋へと戻ると、充電器にさしっぱなしにしていた携帯とパソコンを求めて、寝室の中に足を踏み入れた。

 やることは単純明快だ。

 コルセア様のファンを増やし、彼女に言葉が届くようにする。

 それだけだ。

 自分の部屋に戻る際中、俺は一つ気が付いたことがあり、ネットで彼女の名前やID。相性などを含めて全て検索して上から総ざらいしていった。

 そして、全部の情報を照らし合わせて行って、自分の思っていたことが確信に変わる。


「やっぱり、思ってた通りだ」


 自分が開いたのは彼女たち――ライバーと呼ばれる活動をしている人たちの情報が集まったページ。要は本で言う目録のようなページだった。

 こういった流行になったものは基本的には有志が情報を集め寄る情報サイトが立ちあがる。もちろん、ライバーも例外ではなく、流行した直後にはもうページが出来上がっていた。

 しかし、そのサイトには彼女――つまりはコルセア様の情報は殆ど更新されていないにも等しい状況だったのだ。

 こういった情報は本人が更新しない限り、ほぼ間違いなく有志の情報になる。まったくないというほどではなかったが、視聴者が数百人程度の閲覧者えつらんしゃでは、載ってもいいはずの情報が載っていないことも少なくない。

 自分は偶然彼女が配信を始める直前に発見できた幸運な人間だが、すべての人間がそんな幸運な人間なわけもなく、ほとんどが途中から入った人間だ。すべての放送が残っているわけでもないのなら、情報にはどうやったって穴が出る。

 肝心のコルセア様に関する情報は、ほぼ書かれていない状態だったのだ。

 中でも致命的なのは、彼女が雑談やゲーム配信。生活に密着した生活音が聞こえるというネタを主にした活動をしているという項目。つまりは“彼女が配信で何をしているか”ということ項目がごっそりと抜けていた事だった。

 仮に人を誘導できたとしても、ここが抜けていたのでは、コルセア様に興味を持つという段階にすら入ってもらえない。

 千歳さんの元に来て、ここまで自分が暇だったことに感謝するとは思わなかった。


「時間はある。趣味と好きな人を神様に取り上げられた人間を舐めないでくれよ」


 暇を持て余した時間をたっぷり使って、俺は抜けていた情報を全て網羅もうらしていく。

 趣味、好きな物、苦手な物、配信で起きた出来事――。彼女が配信の中で口にしていたものや、トラブルも記録している限り全ての事を書き込んでいく。

 もちろん、載せる内容はプライバシーに全力で配慮する。彼女の身辺周りが特定できそうな情報や、彼女が嫌がった反応を見せたものは全てサイトから消したり、分からない程度までぼかした。

 配信内で言っていないわけではないのだが、それを載せるのはファンとして一番やってはいけない事。ネチケットを破る行為なのは言うまでもない。

 いくら彼女が個人勢だから情報が少ないとはいえ、情報が正しいものか確認するための確認作業もあるので、情報サイトの更新と、情報サイトを生かすために別のやらなければいけないことを終えたころには、パソコンの画面に表示されているデジタル時計はすでに日の出の時間を指してしまっていた。

 寝室には窓がないため外の明かりは入ってこないのだが、もし日が入っていたら吸血鬼が灰になっていたかもしれない。

 最後の仕上げに、念のための保険としてとある人物に連絡を取ってから、俺は体にたまった疲れを抜くように息をはきだして椅子に背中を預けた。

「残りは更新頻度と……、神のみぞ知る、か」

 本当に居るのはかは分からないが、もし神様に祈るとしたら今だろう。

 コルセア様という俺にとっての神様が気づいてくれることを祈るという意味でも、神のみぞ知るだ。

 今からはもうただ成功を祈って日にちを待つしか、できなかった。



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