きっかけ
『あはは、ごめんごめん。配信の設定うまくいかなかったみたいで――』
誰かの声が響いていた。
誰かの言葉は、余に届けている声ではなかったけれど。
温かくて、思いやりがあって……。
なにより、人の事を考えて発言をしていたのを、余は覚えている。
それは、ちいさいちいさい板きれの向こう。
相手はそこの中から動けない様子だった。その時は動けないのではなく、向こうの映像をこちらに送っているのだと知らなかったけれど、とにかく余はそう思っていた。
画面の先に居る人間の男が画面の中を流れていく文字に対して、つたないながらも言葉を返していくのだ。
最初は何が楽しいのか分からなかった。
何がしたかったのか、分からなかった。
でも、彼がそうしているのを見て、余は楽しそうだというのだけは伝わって来る。
なんだかそれが、余にはすごく素敵なものに見えてしまって……。
他に見るべきものがなかった、
他の者を探すのも面倒だった。
それもあるるし、ただただ、人のことを知りたくて、勉強がてらに見始めた。
なのに、なのに……。
『うわ、すご!! ほら見て、これ!』
拙いながらに、嬉しそうなものを共有する声。
『うわ失敗したぁ! え? これをやれ? 難しくない?』
難しいと口にしながら、何度も何度も挑戦するのも。
意味がわからなかったけれど、次第に余はその男に興味を覚えていった。
朝も夜も、暇さえあればその声を思い出すようになった。
時折出てくる彼の口癖を覚えたりもした。
それは人間界の言葉だったけれど、余はその男の言葉と声だけは忘れられずにいた。
ああ、いつからだろう。
いつから、そう思っていたのだろう。
一言も交わしたことがないはずの相手だった。それも竜種ですらない、この男に。
余は、人間であるはずの彼に――
夢中になっえしまっていた。




