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省エネ剣道部(書き直しの書きかけ)

作者: くまくま17
掲載日:2019/10/15


登場人物

千鹿頭亜紀ちかと あき:主審

姉倉忍(あねくら しのぶ)

埴安・ソフィア・輝咲(はにやす きさき)

龍田静音(たつた しずね)


==============================================


 先鋒戦。試合に臨む輝咲の背中に皆が声援を送る。

「自分の剣道を」

「がんばれセクシー剣道ー」

「センパイ、ファイトー!」

「がんばって~」

「………ガンバ」

 部員たちの激励を受け、輝咲が無言で頷くと試合場の前に立ち反対側で対峙する忍に目礼。

 そして互いに進み出て開始線でしゃがみ込み蹲踞。


 赤 姉倉 忍

     対

 白 埴安 ソフィア 輝咲


「始めっ!」

 主審が鋭く言い放った後、渾身の気勢を発し合い試合が始まった。

「はあああああああああっっ!」

「ぃやぁぁああああああああああ!」

 立ち上がりざま、裂帛の剣気を気勢に乗せて吼え上げた。

 以前の試合稽古の時みたいに途中で精彩を欠く事が無いよう、静音は祈りにも似た視線を向けて彼女の背中を見守る。

 輝咲は相手の顔の中心に切っ先を付け、そこから縦横無尽に足を細かく捌き、相手との距離を隔てる。

 対する忍は竹刀を水平に構えて輝咲の鍔元を切っ先で睨み付け、細かく足を捌きながら一直線に向かって来た。

 姉倉忍はドMである。

 相手を執拗に攻めるのは、打突を喰らいたいから。そして打突を喰らいつつ技を返すのが彼女の剣風。

 去年の春、聞いた事がある。突き技を主体とした超攻撃型の優仁高校を選んだ理由を。

『信じられるか? 激烈なまでのあーんな攻めや、こーんな攻めに日夜晒されるのだぞ?最高過ぎるだろう?もう、ぅ―――鼻血が……』

 閉口どころか絶句するレベルの変態度。

 輝咲は攻め入ろうとする忍の剣先を悉く上から押さえつつ左右に回り込んで下がり、右膝を当て込む様に捌く。

 相手が正対した所で間合いを切って剣先の触れ合わない遠間を保つ。

 足攻め。

 右膝に気を込めて相手の身体全体を押し込む様に捌く攻め方。

 不用意に打突へと逸らず、先に相手から手を出させるように仕向けるのが狙い。

 大丈夫、落ち着いてる静音は正座した膝の上で小さく拳を握り締める。

 輝咲のスタイルはセクシー剣道、要は色仕掛け。

 攻めの色、つまりフェントを見せ付け相手の出方に応じて技を出す剣道を得意としている。

 加えて、日本人離れした長い四肢の躍動的な動作。

 攻めの色と躍動感、優れたスピードで当たるまで打ち掛かり圧倒するのが輝咲の剣道。

 因みにフェイントとは、相手の反応を引き出すための対人技術。決して相手を騙し、意のままに操る技法ではない。

 試合場の中では、輝咲が空間を広く使いながら間合いに入らせない。

 静かでゆっくりとした立ち上がり。

 しかしドMな筈の忍は攻撃が来ないにも拘わらず、焦らず丁寧に攻め入りを繰り返す。

 静音は手にしたストップウォッチに視線を落とし、経過時間を確認。

 間もなく三十秒経過。そろそろ打たないと時間の空費と取られ判定で反則が付く。

 早く打突を打って。祈る様な気持ちで輝咲の背中を見守る。

 すると忍が足捌きで進路を先回りし、触刃の間合いから強引に打ちに行った。

 鍔で自身の突き垂を庇いながら肩甲骨から腕全体で打ち出し、梃子の原理で柄を振り鋭く面を打つ。

 打突の初動を察知した輝咲は右膝を入れ込みリーチを稼ぎながら左手を突き出し竹刀を立て面を打った。

 タイミングはほぼ同時、スピードは輝咲の方が上。

 忍は敵わないと見るや、右手を額の高さまで引き上げ面を防いだ。竹刀がぶつかり合い、真竹の爆ぜる音が響いた。

 打突の不発に拘泥する事無く、すぐさま間合いを切って右側面に回り込もうとする輝咲。

 即応し正対しながら追い縋る忍。

 現在、試合の主導権を握っているのは輝咲。

 そのまま有利に試合を進め、勝利を願って見守った。

 それでも、一抹の不安が残る。

 輝咲が本来得意とする剣道は、もっと相手と打ち合う剣道だ。

 なのに最近の彼女は、完璧に勝とうとし過ぎる。

 圧倒的な完勝狙い。

 今みたいに攻めながら優位を崩さず、確実を期した少ない打突での勝利。

 それを求める余り、時には試合を壊し内容を悪くすることも増えて来た。

 新たなスタイルの確立を目指しているならそれも良い。

 だが、静音の目にはそうは見えない。

 何故なら、完勝を標榜しようとする輝咲の横顔は全然楽しそうじゃない。

 寧ろ、辛さに耐えている様な痛々しい姿で。見ている者の胸中に不安を掻き立てる。

 もっと相手と打ち合って試合を、勝負を楽しんで欲しい。

 今相対する剣士に、身の丈に合わぬ剣道をすべきではない。

 仮にも全国にその名を轟かす高校女子剣道界の雄、その先鋒を務める程の実力者。

 いくら輝咲が身体能力に長け技量があろうと、強引に行って勝てる相手ではない。

(お願い輝咲、自分の剣道をして。あなたは、もっと剣道を楽しんでいいのよ)

 試合場で縦横無尽に足を捌き続ける輝咲。

 その姿は何だか、霧の中を彷徨ってるみたいで。

 場外で座視する少女は、胸が締め付けられるような思いで見守る事しかできなかった。


 一合目が終わり、攻めの色を見せつつ間合いを取りながら輝咲は忍をつぶさに観察する。

 初太刀一本。最初の一撃で決められれば良かったが、それを許してくれる筈も無い。

 いくら色仕掛けをしていても、手元を睥睨する拳攻めの構えは揺るがない。

 このままでは状況が膠着するだけで何も変わらない。もっと、更なる攻勢に出る必要があった。

(但し、無駄打ちはしない。一撃で仕留める)

 間合いの確保から一転、切っ先を額に付け物打ちを相手の眼前に晒す。

 上から圧するように面を強く意識付けしながら攻め上げる。足を捌きつつ、間合いは一刀一足を維持。

 すると忍が大きく間詰め、左に回り込んでこれをいなす。正対を待たずして次は右へ。

 尚も正対するのに合わせて足攻め。二回程、そんな間合いの攻防を繰り返すと、

「小手、面――――ッ!」

「――っ 面――――ッ!」

 小手面。手元を掲げているせいで忍の竹刀が死角に入り初動への反応が遅れた。

 咄嗟に竹刀を傾いで鎬で受けるとすかさず引き面を返す。が、首を捻って躱された。

 ギリリ、と強く歯噛みしながら後退する。

 右から細かい足捌きでゆっくりと回り込みながら遠間の間合いで構える。

「突き、面――――ッ!」

 尚も面攻めをすると、今度は下段からの突き面。再び死角からの二連撃。

 竹刀を傾いで寸での所で防ぎはしたものの動揺激しく、跳び退って堪らず大きく距離を取る。

「はあ、はあ………っ」

 正眼に構え、乱れた呼吸を整える。が、許される筈も無く猛然と距離を詰めて来た。

(しまった――)

 視界の端に目を向け、思わず顔を顰める。

 後退し距離を取り過ぎたせいで気が付けば境界線を背負っていた。

はみ出せば反則一回。安易に引き技にも行けない。

 追い詰められた輝咲は触刃の間合いで忍と対峙する。

脱出しようにも、剣先を僅かに立て睨まれるとそれだけで身が竦み、出足が鈍る。

 刷り込まれた突きへの恐怖が体を蝕んでいた。

(ううっ………)

 上からの拳攻めで輝咲は両手首に重しが圧し掛かっている様な感覚を味わう。

 すぐには打ちに来ない。足を止めての攻め合い。

忍が上太刀から中心を制すべく鎬を擦り込んで来ようとするのを、剣先を巧みに操作し躱し続け、逆に相手を制する機会を窺う。

 隙を晒さぬよう、息を潜めながらの中心の攻防。逼塞する呼吸に肺が締め付けられる。

 緊張を孕んだ静寂の中、互いの剣先が相手の中心を巡って目まぐるしく虚空を舞う。

 確実な打突の機を見出せぬまま焦燥感だけが募り、冷や汗が頬を伝った。

 次第に、剣先の動きが鈍り出す。攻められている右手首は鉛が乗った様に重く感じられた。

背筋を伸ばして手首の凝りの解消を図る。

 不意に、輝咲の剣先が払い落とされた。

(――――ッ!)

 堪らず面を打つ。限界だった。

「胴――――ッ!」

 面返し胴。輝咲は竹刀を跳ね上げられ、翻った太刀に空いた右胴を打たれた。

胴板を通じ、体幹全体に衝撃が走る。回避は間に合わなかった。

「く…………っ」

 境界線を駆け抜けて行く彼女の姿を、後悔を抱き沈痛に顔を顰める輝咲は直視できない。

「胴有りッ!」

 千鹿頭が高らかに宣言し、副審と共に赤旗を揚げる。

 直後、優仁サイドから歓声が漏れ称賛の喝采が起きた。

 鳳翔陣営も渋々といった感じでパチ、パチと拍手を送っていた。


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