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大学時代、流れで作った友人達~串カツ、手塚~

 大学一年生の頃、私は保育士養成課程と呼ばれるカリキュラムに参加していた。

 本気で保育士を目指している方、あるいは明確な目標を持って保育士となった方には申し訳ないが私がそこにいた理由は単なる成り行きである。


 高校生の頃、父の葬儀にて顔も名前も知らない五十代半ばの女性に話しかけられた。

 その際に


「巣立君は将来なりたい職業とかあるの?」


 と訊かれ、咄嗟に


「保育士とか……目指してます」


 などと虚言を吐いた、その延長だ。何ならその女性とはあれ以来会っていないので、考えてみれば参加する必要性すら無かった。

 夏休み明けの面接で不適格と見なされ落とされたのもむべなるかな、といったところである。


 しかし私はそのカリキュラムを通して、社会人になってからも稀に連絡を取り合う程度には親しい友人とよくわからない内に稼いだらしい大量の単位を手に入れた。

 もちろんこの保育士養成課程を通さずして友人となった相手もいるが、それはまた別の機会に登場させる事ができればと思う。


 以下に、私の数少ない友人の内このカリキュラムの中で知り合った二名を紹介する。

 流石に本名は出せないので、せっかくだし適当なニックネームをつけてみよう。


   ■     □     ■     □     ■     □   


 一人目は串カツ。

「一人目に紹介する友達は喋る串カツですよ」という意味ではない。以前久し振りに会った際に「何食う?」と私に質問しておきながらこちらの発言を無視して串カツ屋に突撃した事からそう名付けた。


 彼は基本的に社交的な男である。当時まだ話した事もなかった私に親しげに話しかけ、適当に会話を重ねる内に何かと一緒に行動するようになったという、至極真っ当な経緯で出来た友人だ。

 そんな常識ある人間にも見える反面、しょうもない部分を内側に溜め込む性格でもある。彼は私と同じゼミに属していたのだが、他のメンバーがいない時などは


「あの時の○○、調子に乗り過ぎててちょっとウザくね」

「××ちゃんって土下座したらヤらせてくれそうな顔してるよな」


 といった具合にゼミでの愚痴をこぼしていた。まあ中身は私の友人だけあって下卑たものである。大体の人間は本質的にそんなもんだろうと思うが。

 そんな下卑た本心を持ちながらも普段は良識あるみんなのリーダーとして振る舞っていたし、事実として困っている人は助ける程度の良識はあったはずだと記憶している。ただ私と二人でいる時の発言が下卑ているだけだ。


 さてそんな串カツだが、在学中に彼女を作り社会人になってからその相手と結婚までしたという。曰く、双子の姉妹も出来たという話だ。めでたいと思う。

 そして思うのが「アレの娘とか常にやべぇテンションのガキに育ちそうで怖いな」という懸念だったりするが、そこは彼ら夫妻の教育と運命に任せるしかあるまい。


 流れで串カツの彼女の話が出てきたので、ここで一つ悲しいエピソードを語っておこう。


 あれは大学三年生の夏だったか。私の携帯電話に串カツから一通のメールが届いた。


『最近パーキングエリア巡りにハマってるんだけど、今度の日曜日一緒に行こうぜ!』


 一年生と二年生の頃に気合いを入れ過ぎて受けるべき講義があまりにも少なく、就職活動も始まったばかりで意識の低い私は酷く退屈していた。大手企業の説明会など記念程度の気持ちで参加した任天堂のそれしか記憶に残っていない。

 危機感の欠如した私は『OK』とだけ返信し、数時間後に送られてきた予定を参照して言われた時間に言われた場所へと向かった。


 この時点で悲劇……と呼ぶには些か内容の軽い、ちょっとした喜劇モドキは始まっていたのだ。


 直射日光のウザったさに眉を顰めて私が辿り着いたのは、串カツが指定した大学近くのパーキングエリアのど真ん中。

 コンビニで購入した冷たい炭酸飲料をぐびぐびと飲み干してしばらくすると、串カツが運転するレンタカーが到着した。


「うーっす。悪いな待たせて」

「いや別に大丈夫、だけ、ど……」


 車に乗り込もうと助手席に腰を運んだ時、後部座席に一人の女子の姿が見えた。

 ややうつむいた様子の彼女は気まずげな上目遣いでこちらを見ている。


「おいお前、彼女呼んだんか……?」

「ん? ああ呼んだ」


「ああ呼んだ」じゃねえんだよバカ。


 軽度の悲劇とはこれである。この串カツ野郎、事もあろうに彼女と男友達を連れて三人でドライブに出かけるつもりでいたのだ。

 個人的な意見となるが、こういう場合は彼女と二人で行くか友達と一緒に行くかのどちらかを選ぶものではないのだろうか。こちらとしては二人きりの時間を無下にしてしまうようで彼女さんに申し訳ないし、彼女さんもこちらがそれを知らなかったと気付いてからは申し訳なさそうにしていた。何も悪くないのに。


 そして諸悪の根源たる串カツはのほほんとエンジンを入れて、


「今日は夕方くらいまで遊ぼうぜ!」


 などと男子小学生のようなノリでほざきやがった。


 結局その日は何だかんだ私も彼女さんも割り切って三人でパーキングエリア巡りを楽しんだ。大学生にもなればそこで譲り合いが発生する程度には大人になれるものである。


 そしてそんな彼女さんが串カツと別れず結婚まで持ち込んだというのだから恐れ入る。よっぽどお互いぞっこんだったのだろう。

 改めて、二人の将来に幸多からん事を願うばかりだ。


   ■     □     ■     □     ■     □   


 二人目は手塚。もう諦めたと聞くが一時期漫画家を目指していたという事で、恐れ多くも神様の名をお借りして呼ぶ事とする。


 彼は特別暗い性格ではない。串カツと同レベルの社交性は有していないものの常に笑顔を浮かべているような男で、接する分には常識的な相手だ。というか社交性に関しては串カツがおかしいだけなので比較しても無意味と言える。

 そしてやる気のない講師の机にテスト後のプリントを叩きつけるくらいには攻撃力の高い男でもあった。いやまあ、あの講師の講義は私も受けていたのでそうしたくなる気持ちは非常によくわかるのだが。その時の状況を思い浮かべると変な笑いがこみ上げてくる。


 過去を語るという趣旨の本エッセイでは、それなりに登場頻度が高くなる可能性もある人物だ。何せ社会人になってからも割と頻繁に会っているのだから。


 そんな手塚だが、漫画家志望という話であれば大学時代には漫画研究部に属していたのだろう、と想像される方もいるかもしれない。

 しかし彼が属していたのは漫研ではなかった。


 書道部である。

 因みに三年の時には部長になっていた。


 何故そうなったのかという経緯を彼から聞いた事がある。


 一年生の頃、どの部活に入ろうかという話を同学年の女子と話していた彼は相手の誘いに乗る形で書道部に体験入部した。しかしいざ本格的に入部、という段に至って同学年の女子は逃走。結果として残された手塚だけが書道部に在籍する運びとなったらしい。


 どうにも手塚やその後輩達の話を聞くに当時の先輩方は悪い意味合いで体育会系な部分もある人だったようで、無茶な要求をされたりもしていたようだった。それでも成り行きとはいえ活動を継続していった結果、彼は書道部の部長となった。漫画家志望なのに。


 当時を振り返って、彼はこう言っていた。


「上から無茶言われて下からの不平不満を受け止めて、ああ中間管理職ってこんななんだなって思ったよ」


 生来のお人好しが働きでもしたのだろうか。善とは異なる性質の持ち主だとは思うが。


 そんな彼の仕切る書道部に、私は割と定期的に顔を出していた。名前はお互い忘れているだろうが、後輩達も私の顔は覚えてくれていたようで「あっ、来た」というようなリアクションをよくもらったものである。

 これで部員ではないのだから今思い起こしても「何だコイツ」と自己評価してしまうところだ。


 手塚が部長を務める書道部と私個人の付き合いの中で、最もわかりやすいのが文化祭の出し物だろう。


 その時私は手塚から「サクラやってくんない?」と頼まれた。私も暇だったので引き受けて、ついでに展示品を見て回っていく。

 色々と眺めていると、客用の書道スペースなるものを見つけた。


「へえ、こんなんもあるんだ」

「うん。あれなら馬込も何か書いてく? 絵とかも自由に描いていいよ」


 と言われても、今は亡き私の父は書道教室で先生になれるような達筆の人だったものの私はその限りではない。筆不精を晒すだけでは面白くもないので、絵を描いてみる事にする。


 ひとまず何かの生き物の臓腑を一ヶ所に集めたような気持ちの悪い肉塊を描き、「これがタイトルです」と言わんばかりに下の方に“アキヒロくん”とだけ書いて近くの壁にしれっと貼りつけた。

 後にこの“アキヒロくん”が「この展示品が良かった」という受付のアンケートで二票を勝ち取り書道部の面々に困惑を呼び込む事となるのだが、どうでもいいので割愛しよう。


 そうして私がちょいちょい歩き回りつつあくびなども漏らしながらサクラをしていると、手塚が奇妙な事を言い出した。


「暇なら受付もやってみる?」


 普通に考えれば「何言ってんだお前は」と言いたくなるかもしれないが、こちらとしては完全にお遊び感覚でやっていた事だ。遊びの延長と思えばそれは「ゾンビスポナー見つけたから壊そうぜ!」と何ら変わらない。


「おう、やるやる」


 そう言って私はノリノリで受付の席に座った。何だかんだ立ちっぱなしは辛かったのでいっそ楽になったとさえ思った。


 受付の仕事は思ったよりも楽だったと思う。何せ言ってはなんだがそこまで規模の大きくない書道部の展示である。来る人数は知れたものだし、客層も悪くなかったからか私自身も自分で思っていたより普通に接客応対できていたはずだ。

 そんなお遊びの接客を続けていると、また手塚が近づいてきた。お次は何だ、と訊こうとしたところで彼はいつもの笑みを浮かべながら


「悪い、OBが来るからこの部員用のバッジつけといて。あの人その辺気にする人だから」


 流れるように偽装工作の協力を依頼してきた。

 こちらも大して深く考えずにフハフハ笑いながら


「ああ、つけとくわ」


 こんなノリで流していたと思う。

 因みに申し訳ないがそのOBの方に関するあれこれはあまり憶えていない。滞在時間が短かったのもあるが、私もちょっと挨拶してすぐにやり取りが終わったので語るべき要素自体が皆無なのかもしれない。


 そんなこんなで先輩を騙しながらも私達の文化祭は幕を閉じた。

 最後まで一緒にいたわけではないので聞いた話に過ぎないけれど、どうやらその後もちょっとしたエピソードがあったようなので別の機会に語れればと思う。


   ■     □     ■     □     ■     □   


 こんなところで友人の紹介は終えよう。また気が向いたら別の友人を紹介しようと思う。

 言ってしまえば私は友達が少ない方なので、そんなに紹介ばかりしていく事もできないが。


 といったところで筆を置く前に、これを読んでいる学生諸子に向けて一つだけ言っておこう。


「文化祭で友達の部活の出し物のサクラやってました」は企業面接でのアピールポイントになるぞ!


 まああくまでも私の人生において適用されるアピールポイントなのでそれが必ずしも正解であるわけではない、と予防線だけは張っておく。

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