第二話
『…きて……おき…』
声、だろうか?
死んだ筈なのに声が聞こえる。
死んだ筈なのに体温を感じる。
死んだ筈なのに鼓動を感じる。
まるで無音で真っ暗闇の世界に一人だけ孤立しているみたいな感覚。
真っ暗闇なのに自分の輪郭が分かる。
前(?)を見ると一筋の光が見える。
俺はそこに向かって手を伸ばすも、掴むことが出来ない。
『やっと起きましたね』
その声が耳に届いた瞬間、暗闇は反転し一瞬で純白へと豹変した。
俺はあまりの眩しさに目を閉じる。
「もう目を開けても大丈夫ですよ」
今度は明確に女性の声が聞こえた。
俺は声の言う通りに目を開ける。
目が眩む程の純白も、慣れたからか自然としていられる。
「ここは…?」
俺は方向感覚の無い、時間も分からない空間で一人口にする。
否、一人では無かった。
「ここは貴方達人間の言葉に例えると、死後の世界です」
俺は声の方向に振り返る。
そこにいたのはこの空間と同じ純白の衣を身に纏い、背中に白鳥の様な翼を生やした綺麗な女性だった。
俺は見惚れて何秒か視線を動かせなかった。
「ショックでしたか?」
「ッ!い、いえ」
前にいると思っていたら急に後ろから声を掛けられた。
俺は驚き心にも無い返事をしてしまう。
本当は『死んでしまった』という感情で心が一杯だったのに、彼女を見ているとそんなことはどうでも良いやと思ってしまった。
「あの、俺って死んだのに何で生きてる(?)んですか?」
俺は一見矛盾していることを訊ねてみる。
「貴方の魂は死んでしまいましたが、私がこの世界に滞在することを許可したので擬似的に生きているのです」
擬似的に生きている、それはつまり『生かされている』ということ。
俺はそう考えた。
「ここに滞在出来る時間は決まっているので、早く転生を済ましてしまいましょう」
「転生?!」
俺は日常では耳にしない単語に過剰に反応してしまう。
転生とは『輪廻転生』、つまりは魂の循環をするということ。
「あの、記憶とかってどうなるのでしょう?」
彼女は少し考える素振りをしてから口を開く。
「運が良ければ残り、運が悪ければ消えますね」
百パーセント残るわけじゃないのか…。
「あ、あと種族は選べませんので」
「種族?」
白人か黒人ってことか?
「悪ければ道端の石ころ、最高でエルフと言ったところでしょうか」
「石ころッ…?!」
死ぬ迄石ころとして生きろと!?
そもそも石ころって生きるって言うのか?
しかも最高でエルフ!
運が良くて人間に転生すれば、魔法有りきの世界で生きられる。
俺は色々な感情を胸に、歩いて行った彼女の後を歩いた。