おばちゃんは自由
集合時間の五分前には皆が揃っていた。昨日までの笑顔はなく、引き締まった表情をしていた。
「これが必要な物の全てじゃ」
おじいさんは布製の袋に入った花火道具を二人に見せた。中には筒・花火玉・火薬・マッチ箱・雨を塞ぐための板が入っていた。
「じゃが、袋に入れたままだとすぐに打ち上げにくい。それに、袋を奪われたら終わりじゃ。二人が手分けして持ってくれ」
ララが一つ提案をした。
「最初から筒の中に火薬と花火玉を入れておいたらスムーズじゃないかしら?」
なるほどと思ったサイとおじいさん。早速そうする事にした。そのセットはララが持つことになった。残りのマッチ箱と板をサイが持つことになった。
「前から思っていたんだけど」
サイがおじいさんに聞く。
「大事に飾ってあったって事は……もしかしてこの花火玉、おじいさんの最高傑作なんじゃ」
ララはおじいさんの顔を見つめる。
「そんな大切な物、打ち上げちゃっていいの?」
おじいさんは二人に微笑んだ。
「花火玉は打ち上げられるために存在しているんじゃ。きっとそいつも大空に舞いたがっている。何十年も待たせたのう」
おじいさんはララが持っている筒を見つめた。二人は花火道具を強く握った。
「今からが勝負じゃ。……行こうか」
二人は頷き、歩き出した。
しばらく歩き、階段前までやってきた三人は物陰に隠れて様子をうかがう。階段は両側が壁となっており、上の方は薄暗くよく見えなかった。
見張りをしているパートのおばちゃんはというと、椅子に座って眠っているようだった。
「職務怠慢じゃな」
おじいさんの言葉には説得力が無かった。
「このまま入れるんじゃないかしら」
「いや、待って。誰か来るよ」
ララとサイが話しているうちに、三人が居る物陰を通り過ぎる人影があった。階段前にもう一人のおばちゃんが現れた。
「あらやだ寝ちゃってるの? 起きなさいよ〜」
「うーん……? あらららら! 私もしかして寝ちゃってた?」
「ぐっすり眠ってたわよ。もう交代の時間よ」
「ごめんなさいね。まあ平和だからちょっとぐらい寝ても平気よね?」
「怒られても知らないわよ。それとね、実は最近他の地区の美味しい焼き菓子作りに凝ってるのよ。持ってきたけど食べる?」
「いいわね! 朝ごはんに丁度良いわ!」
「今回作ったのはクラホー地区でよく食べられてる甘辛い焼き菓子なのよ。見た目は重そうだけど、意外といっぱい食べられちゃうからもうやみつきよ」
おばちゃんの長い話にしびれを切らす三人。
「早くしないと自警団が倉庫に来ちゃうかもしれないわ。おじいさんそろそろ」
「いや、待つんじゃ。おばちゃんの様子が少しおかしいわい」
確かに、新しく来た焼き菓子作りに凝っているおばちゃんの様子がおかしかった。カバンの中をかなり探している。
「あらやだわ。家に忘れてきたみたい」
「そんな酷い。もうお腹はクラホー地区まで行っているのに」
「じゃあ私の家まで来ちゃう? ここから近いわよ?」
「そうするわー」
パートのおばちゃんたちはどこかへ去ってしまった。呆気に取られる三人だったが、「今がチャンスじゃ」とおじいさんが二人を促し、階段を登り始めた。