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花火の打ち上げ方

 三人は歩いている。はたから見ると孫を連れるおじいさんに見えるかもしれない。しかし、実は世界を変える二人とその協力者なのかもしれない。


「そういやおじいさんの名前を聞いてなかったわ!」

 ララは大事な事を思い出した。

「ワシの名前はジョセフというが、おじいさんで十分じゃよ。ところで、君たちの名前も教えてくれんかのう」

「私の名前はララよ! こっちの怖がりがサイ」

「誰が怖がりなもんか!」

「おじいさんに怯えてたじゃない」

「それはララだって同じだよ」

「倉庫に入ってすぐ暗闇も怖がってたわ」

「それは……そうです」

 おじいさんは二人のやり取りを見て愉快になった。


 しばらく歩くと中庭に出た。食用の植物が何種類か生えていた。おじいさんはそれらを(にら)みつける。

「今では草木はこんなものしか見る事はできない。自然はもっと雄大なものじゃ。人に作られている植物なんて……」

「私は嫌いじゃないわ。だってこの子たちには何の罪も無いじゃない!」

 素直な気持ちと無垢(むく)な笑顔におじいさんは黙ってしまった。


 やがておじいさんの家に着く。こじんまりとしたアパートの一室がおじいさんの家のようだ。

 ちなみに、人間が地下に住むようになったからといって家の形が急に変わるなんて事はない。

「「おじゃまします……」」

 二人は何となく恐る恐る入ってみる。

「堂々と入っていいんじゃよ」

 おじいさんは笑う。

「少し寂しい匂いがする」

 サイが思わず口にした。

「建物や地下にしか人が住めなくなって、花火師の仕事は廃業をせざるを得なかった。恥ずかしい事に、その頃ワシは(すさ)んでいた時期があったんじゃ。その間に愛する人には愛想を尽かされ出ていかれてしもうた。その後は倉庫番の仕事に有りつけたが、とうとう戻ってこんかったのう。長い間一人で住んどるから、寂しい匂いがするのかもしれん」

「ごめんなさい。失礼な事を聞いちゃって」

「いや、ワシが悪いんじゃ。君たちぐらいの年には思った事を素直に言いなされ」

 寂しい笑顔でそう言った。

「ささ、中へ入って座りなさい」

 おじいさんは居間に二人を案内し、お茶とお菓子を持ってきてちゃぶ台へ置いた。

「「いただきまーす!」」

 今度は遠慮のない二人に笑みがこぼれた。次にノートを持ってくるおじいさん。その中の一ページを開いて二人に見せた。

「これは昔、ワシが花火師の修行を始めてすぐの頃に使っていたノートじゃ。詳しく花火の打ち上げ方が書いてある」

 二人はノートを真剣に見始めた。

「花火の打ち上げ方にはいくつか種類があるが、ワシが主にしていたのは”単発打ち”という方法じゃ。筒の中にあらかじめ火薬を入れておく。次に花火玉を入れる。そして、”火”を投げ込むのじゃ。そうすると、花火は打ち上がる。」

「へ〜」

「そうだったのね!」

「ところで、二人は”マッチ”を知っておるか?」

 二人は首を横に振る。

「そらそうじゃな。火はもう使ってはいけないからのう」

 人間が建物や地下に逃げ込んでからは、火を使ってはいけない、という暗黙のルールが存在している。もしも火事が起こってしまったら逃げ場がどこにも無いからである。また、一酸化炭素中毒が起きやすい、という理由も大きい。何か熱源が欲しい場合は電気を使うしか無くなっている。そのため、火を見た事のない人間は多い。

「もしかしてそれがあれば”ヒ”を起こす事ができるの?」

 サイの質問に「そうじゃ」と答えるおじいさん。そして、おもむろにポケットから小箱を取り出した。小箱は紙で出来ていたが、側面の一部は木目調となっており、(こす)った跡があった。

「これがマッチじゃ」

 驚く二人。少し仰け反る。

「そんなに怖がらなくても大丈夫じゃ。ほれ」

 おじいさんは小箱から先っぽが赤くなっている木の棒を取り出した。二人は少し近づき、興味深そうにそれを眺めた。

「本当ならばこれは自警団に提出しないといけないものなんじゃが……心は今でも花火師のワシが手放せるわけはないもんでな」

 おじいさんは豪快に笑う。

「花火の道具も本来なら倉庫にも置けないのじゃが、ここら辺を治めている自警団長が物分りの良い人でのう。こっそり置かせてもらってるんじゃ。そのお陰で二人が見つけてくれて良かった」

「こっそりの割には目立つ所に置いてあったのね」

 ララが指摘をする。

「鋭いのう。花火はワシの誇りじゃ。隅っこになんて置いとけんわい!」

 思わず一緒に笑い出す三人。

「ではそろそろ倉庫に戻ろうか。さすがに仕事をサボりすぎじゃ。それと、ノートは二人にあげよう」

 (うなず)く二人。サイがノートをしっかり持った。

「今度は落としたらダメよ!」

「分かってるよ!」

 サイはノートを腰に挟んだ。

 三人は倉庫へと戻った。


 倉庫付近まで戻ると、知らない男が二人立っているのが分かった。黒を基調とする服装から推測するに、自警団だった。

「ワシの後ろに隠れてなさい」

 おじいさんが小声でそう言った。


「ようジョセフ。仕事を放り出してどこへ行っていたんだ?」

 片方の男が偉そうに言った。

「ちょっと野暮用でな」

「後ろのガキは何だ?」

 もう一人の男も偉そうに言った。ガキと呼ばれた事が腹立たしかったが、二人は大人しくしている。

「知り合いの子でな、仕事を手伝ってもらってたんじゃ」

「そうか、まあいい。実はここらの自警団長が変わってな、倉庫の調査をする事になったんだよ。調査しようと思ったら鍵が閉まっていたからできなかった。開けてくれないか」

 動揺する三人。

「自警団長が変わったとは一体何故じゃ」

 不敵な笑みを浮かべる自警団の男たち。

「”そいつ”の家から出てきたんだよ。ライターがな」

「ヒを取り締まっている自警団の長がまさかそんな物を隠し持ってるなんてな。他にも隠し持っている奴が居るんじゃないかって今の自警団長がおっしゃったのさ」

 まさにその通りでララとサイは硬直している。おじいさんが一歩下がり二人に寄り添う。

「これまで従ってきた人をそいつ呼ばわりか」

「そんな事はどうでもいいんだよ。早く倉庫を開けてくれよ」

 汗が額をつたる。

「今日の仕事はもう終わったんじゃ。また明日にしてくれんか」

 顔を見合わせる自警団の二人。

「どうする?」

「相手の予定に合わせる必要は無い。ただ、今日の集会は何時からだ?」

 片方が時計を見る。

「不味い、もう五分前だ。そろそろ帰った方がいい」

「長い事ここで待っていたからな。命拾いしたなジョセフ。また明日来るぜ」

 そう言い男たちは去っていった。


 自警団が見えなくなってからおじいさんが二人に言った。

「明日あやつらが来る前に決行しないといけん。倉庫へ入ってくれ。作戦会議じゃ」

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