ハナビ
『私たちで自然を作れば良いのよ!』
はるか昔に偉人が残したような言葉を言われ、サイは困惑した。
「パンが無いからお菓子を食べるみたいな事言うなよ。もう地球にはパンもお菓子もないんだ」
キョトンとした表情になるララ。
「何を言ってるのかしら。無いから作るんでしょ?」
いよいよ大変な事になったぞと言わんばかりにサイは断りを入れる。
「そっかそっか。頑張ってねララ。僕は見守ってるよ」
「おかしな事を言うのね。サイにも手伝ってもらうに決まってるじゃない」
サイの嫌な予感は的中したのである。
「何でそんな事をしないといけないんだよ。僕は手伝わないからね! そもそもどうやって自然なんか作り出すんだよ」
「”ハナビ”よ」
「え?」
花火と言ったら空に打上げて咲かす夏の風物詩だ。夜空に映える花火は、光と音によって人の心を魅了する。
とはいえ、建物と地下にしか世界がない今では花火を見れる機会などもうない。それこそ本の中でしかお目にかかれない。二人はこの前、花火に関する本を読んだばかりだった。
「私たちが建物や地下から出られない理由って雨が止まないからでしょ? それを”ハナビ”ってやつを打ち上げて雲をやっつければいいのよ!」
「雲をやっつけた所で汚れた土地が残っているだけじゃないか。その後はどうするの?」
ララは考え込んだ。そして、答えを出した。
「打ち上げた後にまた考える!」
サイは大きなため息をついた。
「あら、ため息なんてしちゃって、幸せが逃げるわよ?」
「君があまりにも無計画で突拍子もない事を言うからだよ」
ララは楽しそうだった。
「笑ってるけどハナビはどうやって打ち上げるの?」
「ふふ。意外と乗り気みたいね」
「違うよ僕は単純に方法を知りたいだけ」
ララは神妙な顔つきになった。
「私見たの」
「見たって何を?」
「ハナビを打ち上げるための筒よ」
「でも一体そんなものどこで」
「倉庫で見たのよ」
倉庫には古い物が多く保管されている。昔から倉庫として使われているので、人々がまだ大地に住んでいた頃の物も保管されているようだ。
「でも倉庫には番をしているおじいさんが居て、中には入れないんじゃ……」
それこそ子どもが入っては危険なので、倉庫の前にはいつも人が居て見張りをしている。
「あのおじいさんならよく居眠りをしているわ。鍵はいつも開いてるし簡単な事よ。中に入った事なら何度もあるわ! それに、おじいさんはみんな昔を懐かしがっている。自然を作るためって言ったら見つかってもきっと許してもらえるはずよ!」
思ったよりも計算高いララに女の子は怖いと思うサイであった。
「善は急げって言うじゃない? 今から行きましょ!」
サイは腕を掴まれ、やむなく倉庫へと向かった。