そう遠くない未来の話
かつて地球は青かった。大自然が広がり、多様な生物が生息していた。
しかし、それはもう過去の話。環境破壊が進み、異常気象が普通となった。雨が毎日降り続ける。
それでも、一年に一度は雨が止む。太陽の光が射し込む。それを人々は”天使の微笑み”と呼んだ。
だがそれもまた過去の話。今や地球は汚染され、もはや雨が止むことはない。その雨も汚れた雨である。汚染された地上では生物は住めなくなった。
人々は建物や地下に逃げ込んだ。それらをどんどん広げていった。押し出された生物は皆死んだ。人間に選ばれた生物以外は生きていけなかった。
そうなって半世紀が過ぎた。もう子どもたちは本の中でしか自然を知らない。中庭の植物を自然だと思い込んでいる。中庭と言っても人工の光しかない寂しい場所である。食用の植物が哀れに照らされているだけだ。
老人たちは懐古する。もう一度太陽の光を浴びてみたい、と。
届かぬ願いだ。そう大人たちはつぶやく。彼らは太陽を知らない。
老人は子どもたちに伝える。昔は広い大地で生きていた、と。
子どもたちは目を輝かせる。でも、その輝きは一瞬だ。
大人から言われる。そんなものは頭の中だけの世界だ、と。
次第に子どもは大人になっていく。そして、輝きなど忘れてしまう。
それが今の常識。
しかし、ここトリフル地区には自然に憧れる少女ララがいた。
「ねえサイ! 私、自然というものを見てみたいわ!」
サイと呼ばれた少年が答える。
「見たいって言っても無いものは見れないよ」
二人はよく図書館に入り浸っていた。今話しているのもそこである。
「トリフルにないだけで他にはあるかもしれないじゃない! 隣のラフノー地区とかタイスヒル地区とか!」
「世界のどこにも自然はもう残ってないって本で読んだじゃないか。その本が出版されたのはもう50年も前だ。今更残ってる訳がないよ」
少し不機嫌になるララ。
「じゃあサイは自然を見てみたくないの?」
「僕だって見てみたいさ。せめて死ぬまでに天使の微笑みぐらいは」
それを聞いたララは急に笑顔になる。その様子にサイは嫌な予感を覚える。
「一体どうしたの。そんなにニコニコしちゃって」
ララは高らかに宣言した。
「私たちで自然を作れば良いのよ!」