表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者が消えた後で  作者: 葉月秋子
9/34

9 田舎で暮らすには


 戻っていく村長さんに、マーサさんを住み込みで雇ったらいかが、とも言われたけれど、私は一人で暮らしたいからと断り、数日おきに食料雑貨を届けてほしいと頼むだけにした。


 自分の家を持って、一緒に暮らしたいというのが、冒険者だった頃の二人の夢だった。

 半分しかかなわなかった、二人の夢。

 彼は『勇者』になってしまって、戦いに行き・・・戻ってこなかった・・・


 食卓にバンバラのダークの鉢を置き、一人だけで食べる夕食は・・・

 まったく、味がしない・・・

 ダークが深紅の花を傾けて、私の顔を覗き込む。

「うん、大丈夫。

 私は、大丈夫だから・・・」

 これからは、一人で生きていけるから・・・


 うん、一人でも、しっかりしなきゃ。

 生きていくには、暮らしていくには、まず。

 と、考えて、はた、と固まってしまった。

 先立つ物が、何もない。

 お客の応対用の、二番目に良い服を着たまま、お財布ひとつ持たずに、ここへ来てしまったのだった。


『考えてから動かなきゃだめだよ、ティー』

 あああ、いつも言われていたのに・・・


 早く薬師に戻って、お薬を売る事をしなければ・・・

 とにかくポーションを作り始めて、マーサさんに物々交換を頼まないと。

 普段着も、替えの下着も、何にもないのだわ。



 

 次の朝、はやく。

 

 服がしわにならないように下着ひとつで寝る羽目になった私は、早朝の台所で、マーサさんが置いて行った煙り玉を手に考え込んでいた。

 早速合図をして来てもらうのも悪いし、こっちから村へ行けば、村の人たちと挨拶しなければならなくなる・・・

 知らない人に会うのは、昔からとっても苦手だった。


 初めて王都に来た時には、あんまりたくさんの人ごみに酔ってしまったし、王宮で開かれる『勇者』の歓迎パーティーなんか、震えあがって断ったし。


『王宮になんか出なくていい。お高く留まった貴族たちに馬鹿にされるのは、俺一人でたくさんだ』


 あいつが馬鹿にされたら、俺、相手をぶった切っちまいそうだから。と、ヨハンに言っているのを、後で立ち聞きしてしまった。よっぽど嫌な人が多いんだね、王宮って。


 一行が魔王討伐の戦いに出た後は、必死で薬を作り続け、館の事はすべてヨハンに任せきり。


 あれ?私って、とんでもないコミュ障?




 ぼーっと考え込んでしまっていると、玄関の方で、がたがたごろごろいう音が。


「おはようございます、ターニァ嬢!」


 あ、あの声、ミューさんだ。

 




 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ