7 田舎家 3
こほん、と遠慮がちな咳払いが聞こえ、私は飛び起きた。
丘を越えてきたらしい老人が、所在なげに手にした帽子を捻っている。
あわてて顔を拭い、髪を撫でつけて、挨拶すると、老人はほっとしたようにうなずいた。
「ようこそいらっしゃいました、お嬢さん。
この先の村の長、ジョンドと申します」
「あ、ターニァと言います。これからお世話になります」
「薬師さまだとお聞きしました。お若いのにおえらいことですなぁ。
ここでもお仕事をなさるのですか?
でしたら、お薬を分けていただければ、ありがたいことで。
以前この家に住んでいた薬師の爺様が引退してから、村にはまじない婆がいるくらいで、不自由してまいりましたのです」
「え・・・と・・・」
これからどうしようかなんて、考えてもいなかったけれど・・・
そう・・・私にはそれしかできないわ。
「はい、少し落ち着きましたら、残っている調合道具を使わせていただこうと思っています」
「おお、それは願ってもないことで。
今は村の小間物屋が、季節ごとに回ってくる商人から薬を仕入れとるのですが、たまに冒険者などが大量に買っていきますと、在庫が切れてしまいましてな」
「冒険者・・・が来ることがあるのですか?」
「街道を二日も行くと、小さなダンジョンがございますよ。
三階層ほどの浅いもので、『湧き』がおこることもございません。
街のギルドでは『初心者向け』の格付けになっていると聞いております」
故郷を失くし、寄る辺ない二人が生きていくために、あの人は冒険者になった。
それが、すべての始まり。
また頭がそれて、ぼんやりしてしまった私だけれど、村長さんは話を続ける。
「お高い高級ポーションにはとても手が出ませんが、初級ポーションや毒消しををおろしていただければ、わしらは大助かりでございます」
「えーと・・・」
困った。
初級や二級品は、作れないんですけれど、私・・・。
ランクを測ることはとうに止めてしまったけれど、勇者一行のために長年大量の薬を作り続けてきた私が手掛けたものは、すべて『特』がついてしまうのだった。