4 譲渡されたもの
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クッションのきいた座席に座り、ミューさんが向かいの席に乗り込み、天井をこつんと叩くと、ゆっくりと馬車が動き出す。
ふう、と背もたれに体を預けると。
三日間の疲労がどっと押し寄せてきた。
・・・・・・・・・
ちょっと目を閉じただけだと思っていたのに。
気を失うように眠り込んだのかもしれない。
はっ、と気が付くと、街中の石畳ではなく、馬車は緑豊かな田園を進んでいた。
「ここは?」
窓から覗いても、もう王都は見えない。
いつのまに都の外へ出たのかしら。
王都の周辺は、荒れた感じの荒野だったはず・・・郊外にこんな所があったかしら。
見慣れぬ景色に驚いていると、向かいのミューさんが気遣うように言った。
「申し訳ない、お疲れのご様子だったので、説明もせずに転移してしまいました。
もうすぐお屋敷が見えてまいりますよ」
「転移?・・・」
転移って、大変な魔力を使う大魔法ではなかったかしら。
「ここは王都から一つ隔てた国の片隅。
山を越えればもう、隣国との国境の、片田舎でございます」
・・・え・・・?
・・・なんだかとんでもないことになっている?
・・・馬車で見に行って戻れる距離だと思っていたのに・・・
・・・転移魔法を使うほど・・・遠くだったの・・・
『いいか、ティー、考え無しに行動するんじゃないぞ。
手を出す前に、その後どうなるか、よく考えるんだ』
旅先で子猫をひろっておろおろしたり、大好物の果物を買い過ぎて持ちきれないと嘆いたり、私が困ってしまう度に、いつも彼に言われていたっけ。
『まったく、ティーはちょっと目を離すとこれだからなぁ』
そういいながら、一緒に貰い手を一生懸命探してくれた。いつの間にか用意した籠を差し出してくれた。
『勇者』になる前の、二人だけの冒険者だった頃。
「魔王城へ向かわれる、勇者一行がここを通られた際、勇者殿がここをいたく気に入られまして。
国王と交渉され、この土地を求められたのでございます」
勇者に縁のある土地ゆえ、と。
「王はここを勇者殿に贈られ、勇者殿はここをターニア様に譲渡されました。
この土地は正式に、貴方様の所有になるものでございます。
ほら、あちらの丘がそうでございますよ」
見事な枝ぶりの大きな木が一本立っている、小さな丘。
そのふもとに、こぢんまりとした木造の二階家が建っていた。
邸の後ろは大きな森。その向こうには、雪を頂いた山々が見える。
「丘の向こうに、小さな村がございます。
村人に管理を頼んでおきましたので、すぐにでもお住まいになれるはずでございますよ」
その家の前に、馬車は止まった。