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勇者が消えた後で  作者: 葉月秋子
4/34

4 譲渡されたもの



 クッションのきいた座席に座り、ミューさんが向かいの席に乗り込み、天井をこつんと叩くと、ゆっくりと馬車が動き出す。


 ふう、と背もたれに体を預けると。

 三日間の疲労がどっと押し寄せてきた。


 ・・・・・・・・・


 ちょっと目を閉じただけだと思っていたのに。

 気を失うように眠り込んだのかもしれない。

 はっ、と気が付くと、街中の石畳ではなく、馬車は緑豊かな田園を進んでいた。


「ここは?」

 

 窓から覗いても、もう王都は見えない。

 いつのまに都の外へ出たのかしら。

 王都の周辺は、荒れた感じの荒野だったはず・・・郊外にこんな所があったかしら。

 見慣れぬ景色に驚いていると、向かいのミューさんが気遣うように言った。


 

「申し訳ない、お疲れのご様子だったので、説明もせずに転移してしまいました。

 もうすぐお屋敷が見えてまいりますよ」


「転移?・・・」


 転移って、大変な魔力を使う大魔法ではなかったかしら。


 


「ここは王都から一つ隔てた国の片隅。

 山を越えればもう、隣国との国境の、片田舎でございます」


 ・・・え・・・?


 ・・・なんだかとんでもないことになっている?

 ・・・馬車で見に行って戻れる距離だと思っていたのに・・・

 ・・・転移魔法を使うほど・・・遠くだったの・・・



『いいか、ティー、考え無しに行動するんじゃないぞ。

 手を出す前に、その後どうなるか、よく考えるんだ』


 旅先で子猫をひろっておろおろしたり、大好物の果物を買い過ぎて持ちきれないと嘆いたり、私が困ってしまう度に、いつも彼に言われていたっけ。

『まったく、ティーはちょっと目を離すとこれだからなぁ』

 そういいながら、一緒に貰い手を一生懸命探してくれた。いつの間にか用意した籠を差し出してくれた。

 

『勇者』になる前の、二人だけの冒険者だった頃。


 


「魔王城へ向かわれる、勇者一行がここを通られた際、勇者殿がここをいたく気に入られまして。

 国王と交渉され、この土地を求められたのでございます」


 勇者に(えにし)のある土地ゆえ、と。


「王はここを勇者殿に贈られ、勇者殿はここをターニア様に譲渡されました。

 この土地は正式に、貴方様の所有になるものでございます。

 ほら、あちらの丘がそうでございますよ」



 見事な枝ぶりの大きな木が一本立っている、小さな丘。

 そのふもとに、こぢんまりとした木造の二階家が建っていた。

 邸の後ろは大きな森。その向こうには、雪を頂いた山々が見える。


「丘の向こうに、小さな村がございます。

 村人に管理を頼んでおきましたので、すぐにでもお住まいになれるはずでございますよ」


 その家の前に、馬車は止まった。

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