32 魔法使いの理由
『僧侶』が、死んだ。
深酒で体をぼろぼろにして。
葬式を出したのは、『シーフ』と『魔法使い』
他に悼む者は誰もいない。
目立たぬ薄茶の髪と、目まで覆うボリュームのある黒髪の、二人の少女だけが見送った。
「元が『僧侶』だからな。良心の呵責に耐えられなかったか」
『シーフ』が淡々と言った。
「ステータスを見て絶望したか」
珍しく『魔法使い』が返事を返す。
「お前も変化したのか?」
「全員が、だろう?」
「どうなったんだ」
「魔法使いの称号に変化はない。だが、光属性の魔法がすべて、使えなくなっている」
「お前は全属性持ちで、『賢者』をめざしていたんだっけな」
「自業自得だ」
しばらく無言で歩いたが、『シーフ』が尋ねた。
「どうして、おまえが?」
不思議だったのだ。
地味で無口な『魔法使い』は、『聖女』にあからさまに軽蔑され、結構『勇者』に庇われていたのに。
あの裏切りに、加担するとは。
ぽつりと、彼女は答えた。
「『ティーを見ているようで、ほっておけない』私を庇うたび、『勇者』はそう言っていた。
私は死ぬほど、その娘に嫉妬したんだよ」
絶対に再会させたくないと、思い詰めるほどに。
それが、あれほど無惨な『勇者』の死を、招いた。
あさましい嫉妬から王子の計画に加担した途端に契約で縛られたこの身体は、傷つき倒れる勇者を前にしながら、指一本動かすことが出来なかったのだ。
「死んで責任逃れなど、誰がするものか。私は生涯、この罪と共に生きていくよ」
「ふうん、そういうものか」
幼いころから王族への絶対の服従を刷り込まれ、万事につけて、感情と言うものが欠如しているシーフはあっさりと答えた。
さて、残る二人のステータスは、どう変わったことやら。
『聖女』は既に処女ではないし、『王子』は王位継承の儀で、『王』となるステータスを公開せねばならないのにな。
『魔法使い』と別れた『シーフ』、いや、今は『暗殺者』というステータスを持つ少女は、そのまま静かに闇に消えていった。
王宮の『王子』の寝所で、『聖女』の凄まじい叫び声が上がったのは、それから間もない頃だった。




