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勇者が消えた後で  作者: 葉月秋子


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22 薬草集め



 また思いが滑り出していた私は、はっ。と気を取り戻す。

 うん、しっかりしなきゃ。


 もう一度、別の薬草で作ってみよう。


「ダーク、採取に行ってくるから、お留守番お願いね」


 私は採取籠を手に、番薔薇(バンバラ)の深紅色の花弁に触れた。

 しかし、ダークの香りがきつくなっているのに気づく。

 いつもより甘く、誘惑的な、麝香のような濃密な香り。

 そうか、そろそろ、そんな時期。

「もう少しこの鉢で我慢していてね。

 落ち着いたら、庭の一番気に入った場所に移してあげる」

 玄関横から壁に沿ってもいいし、裏庭で一本立ちでも、アーチでもいいわ。

 ダークの親木は祖母の家の玄関から二階の屋根まで這い上り、古い館を抱くように茂って、見事な真紅に彩っていた。


 裏口から外に出ると、気になっていた雑草だらけの囲い。

 そう、ここも手入れしないと。

 毎日のお野菜くらいは、作れるようにしなきゃ。

 ぼんやりしてちゃ、だめ。やることは、いっぱい。



 さっきは一番ありふれた薬草を林の入り口で摘んで来たけれど、ミューさんが馬車を止めた先では、ずいぶんいろいろな種類があったわ。


 樺の林は明るく風通しが良く、下生えも少なく、歩きやすい。

 シラカバの樹皮は細工して曲げ物やコップが出来る。春先に取れる樹液は、ほの甘く、香り高くて美容にもいい。


「これからいろいろお世話になるわ。みんな、よろしく。どうぞ、よろしく」


 私は大きな木は幹に触れ、下生えは葉に触って、特徴を憶え、目印にしながら、薬草を探してゆっくり林を進んでいった。



 採取籠が半分ほどふさがった頃。


 がさっ。


 すぐ先の茂みが揺れて、見えたのは二本の長い耳


 ホーンラビット!


 こんな人里近くに、小物とはいえ、魔獣が!

 ベルトに手をかけようとして、私ははっと気が付いた。


 しまった!

 

 冒険者時代、必ず携帯していたナイフがない!

 都の安楽な生活に慣れ過ぎて、安全だと言われて、つい、用心を怠った!

 ああぁ、出る前にまず装備の点検をしろと、いつも彼に言われていたのに!


 ホーンラビットは素早い。

 そのスピードで突き出される鋭い角をよけそこなって、重傷を負う初心者は多いのだ。


 たいして防御にもならない籠で胸を守りながら、じりじりと距離を取ろうとしたけれど、耳はぱっと消え、茂みがガサガサ揺れ、ざっ!と眼の前に!


「きゃあっ!」





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