20 王都・薬草園
「これはこれは、何と見事な。
王都の真ん中で、このように素晴らしい薬草園を見られるとは、驚きですな。
ごく一般的なものから、僻地にしかない大変に貴重なものまで、まったく素晴らしいコレクションだ」
何冊もの薬草学の本を執筆した、王国一の薬草学の権威である学者は、両手を拡げ、笑いが止まらないといった表情で王子に言った。
「あ、あれとこれ、そしてそれも、私の薬草標本大全にも入っていないものです、ぜひ、サンプルとしていただきたい。
え?採ってはいかん?育て方ですと?
そんな事は存じませんよ。収集し、分類し、記録する。それが私の仕事でございます」
「はい、薬師ギルドの長でございます。おお、これは見事な薬草園で。
ありふれたものから貴重な品種まで、街中でここまで元気に大きく育っているとは、はい、これだけあれば、お望みの薬が作り放題でございますとも、さっそく刈り取って調合を・・・
え?採ってはいかん?育て方ですと?
それは管轄外ですなぁ。
片田舎の三流薬師ならともかく、いまどき自家栽培など誰もいたしませんよ。
冒険者ギルトに採取依頼を出せば、新鮮なものがいくらでも手に入りますので。
金さえ積めば、どんな貴重品でも眼の色変えて探し出して来る奴らがいますからな、はっはっは」
「はい、王立薔薇園の庭師でございます。
これはまた、殺風景な庭ですなぁ。
中央に大理石の彫像を置き、邪魔な草は抜いて薔薇のアーチを・・・
え?抜いてはいけない?この草を育てるんですか?
でもこれ、花も咲かず実もならない。見場も悪いし、つまらないじゃないですか。
私が開発した、花の色が格段に冴える肥料も、使いどころがありませんよ。
とりあえず普通の肥料をばらまいときゃいいんじゃないですか?」
「わっしみたいな農夫に御用ですかい?
え?この雑草を育てたい?
へえ、農作物以外は、全部雑草と呼んどります。
こんなもなぁ、畑仕事には邪魔なばかりで。
こいつらが良く茂るところは、魔獣が出没するんで、開墾が遅れるんでさあ。
ああ、育てるんなら、水やりを欠かさんと。
ほれ、あっちのほうがくたばりかかっとりますよ」
「は、はい、自家製のハーブやポプリを作ってお店に卸しております。
まあ、お手入れの良い薬草園。
はい、知らない草が多いですが、名前のわかるハーブもいくつか。
え?この園の管理?
とんでもない、私などにはとてもできません。
これだけの種類が植えてありましょう?皆、手入れの方法や水やりの量が違うはずですわ。
ほら。こちらは乾きやすい砂の多い土、あちらは粘土質の山の土。
山奥に生える植物は、人工の肥料なんかやったら枯れてしまいます。
あと、薬効のあるものは、魔素が多いほど元気に育ち、上質なんだそうです。
だから、人里で育てるのは、とても難しいと聞きました。
薬草を育てるなら、魔素の流れが見える、魔法の素質のある方でないとだめなんですわ。
え?私?
魔法の素質なんて、これっぽっちもありませんのよ」
王子はぎりぎりと歯噛みをする。
魔法使いで、薬師で、庭師だと?
そんな奴、いったいどこで探せばいいんだ!




