17 林の奥 2
「かつてこの地には、『古の勇者』の夢を垣間見ようと、巡礼たちが訪れ、庵に泊まって瞑想したものでした。それを聞かれた『勇者』殿は、魔王討伐の途中この地を訪ねられ、今のターニァ殿のように、塚に祈りをささげていらせられましたよ。
そして突然この国の王に拝謁を求められ、この『勇者』縁の地を、賜りたいと願い出られたのでございます」
あの人が、同じようにここに。
ここにひざまずいて、祈りをささげていた・・・
私はふんわりとした緑の苔に手を乗せ、その姿を思い浮かべようとした。
「国王陛下は大層喜んで、即承諾なされましたとも。
『魔王』退治の『勇者』殿が移籍なされれば、国の誉れでございます。
見事「『魔王』を打ち取られた暁には、盛大に歓迎をしようと仰せられたそうで、それはやめて欲しい、二人で静かに暮らしたいのだと、『勇者』殿は断るのに大骨を折られたそうでございました」
「は?」
「え?
ですから、お二人で静かに暮らしたいのだと・・・」
「二人・・・って・・・誰が?」
「もちろん、『勇者』殿と、ターニァ殿が」
え?
・・・何か、とても不思議な事を聞いたような・・・
「あの人は・・・『聖女』様と婚約したのではなかったのですか?
それで、別れの印に、この土地を私にくれたのでは?」
ミューさんの顎が、がくんと落ちた。
びっくり仰天すると、ほんとに顎って落ちるんだ・・・とぼんやり思う。
「な、なにをおっしゃっておりゃれ、おりゃれ・・・おられますやりゃ!
そんな馬鹿なことを、一体誰が申しました!
『勇者』殿は、ターニァ殿と、ここで添い遂げたいと願っておりゃれましたのですのに!」
え?
興奮してもの凄い巻き舌になったミューさんが、両手をばたばたさせながら言った。
「魔王を討ち取って、無事戻る事が出来たら。『勇者』という軛が外れたら。
命を削るように必死で薬を作り続けているティーを、やっと楽にさせてやれると。
ティーに相応しいこの地で、二人で静かに暮らしていきたいと。
『勇者』殿は、心からそう願っておりゃれ、この土地を求めりゃれましたのでござりますよ!」
・・・・・・・・
・・・あ・・・
・・・ああ・・・
見ず知らずの他人の話を信じるなんて、私は馬鹿だ!
あの人が、そんなこと、するわけがなかった!
いつも、私のために・・・私のために・・・
私は子供のように手放しでわんわん泣いてしまい、またミューさんを困らせてしまったのだった。




