14 馬車でお散歩
顔を洗って、ぴったりの大きさの編み上げ靴を履き、ショールを羽織り、ボンネットのリボンを結びながら出ていくと、ミューさんは小さな華奢な馬車に日よけの幌をかけていた。
御者と並んでもう一人座れるだけの二人乗りの小さな馬車。
一頭だけ繋がれた栗毛の馬は、ぴかぴかにブラシをかけられ、馬具には揺れる飾りをつけて、私を乗せたミューさんが隣にひらりと飛び乗り、横に立ててあった長い鞭を手に取るのを合図に、足を高く上げたおしゃれで軽快なトロットで走り出す。
「ではまず、ゆっくり景色を見ながら、村の方へまいりましょう」
腫れた瞼を気にした私に優しく言うと、丘のふもとをぐるりと回って、向こう側へ。
丘を突っ切れば近いけれど、ふもとを回っていくと、村まではけっこう距離がある。
「ご挨拶は改めてなさりたいでしょう、今日は遠くから眺めるだけにいたしましょうか」
まるで人目を避けたい私の心を読んだように、馬車は道をはずれた草原をゆっくり進む。
金色の小麦畑を背景に、田舎道の両側に立ち並ぶ、黒い梁材を見せた白い漆喰の家々はしっとりと落ち着いた風景画を見ているよう。
「宿屋兼貸し馬車屋が一軒、小間物屋が一軒、鍛冶屋が一軒。
鄙びた農村でございましょう?
あの先の街道を行きますと、もう少し大きな村があり、川を下ると、河口の町です。
心地よい風の中、馬車は大きく弧を描いて、元来た方へ戻る。
大きな木が一本生えている丘と、家の屋根がまた視界に入ると、なんだかうれしくなってくる。
あの家には、まだ一晩しか暮らしていないのに。
まるでお帰りって言ってくれてるみたいで。
馬車はまっすぐ家には向かわず、横を回って、明るい樺の林の方へ。
「裏口を抜けた小道からも、林に入れるのでありますが、馬車で来るときは、こちらの道を使いますのです」
林に少し入って馬車を止め、一本の若木に馬を繋ぐと、ミューさんは、私の手を取って、誘った。
「お見せしたいものはこの少し先にございますのです。さあ、どうぞ」
精一杯背伸びして、騎士のように私をエスコートして、林の奥へと誘う。
『古の勇者』の塚があるという、林の奥へ。




