11 田舎での暮らし
昨日の馬車とは違い、一頭立ての、幌無しの軽快な馬車から降りたミューさんは、昨日と同じくらい豪華でへんてこな、今度は朱赤系の服を着て、羽根飾りのついたつばの広い帽子を大きく回して胸に当て、挨拶してくれた。
「おはようございます、ターニァ嬢。
昨日はご挨拶もせずに失礼してしまいました。
当面必要なものを・・・」
と言って、馬車から大きなトランクを二つ、取り出し。
「取り揃えてまいりましたのです」
え?
そんなことまでしていただいたんですか?
「いやー、そちらのご都合もうかがわず、いきなりお連れしてしまいましたからなぁ。
はい、こちらが当座の着替え、あ、ちゃんと女性に見繕ってもらいましたのです。
田舎暮らしにふさわしい普段着や作業着も入っておるはずでございますよ。
こちらは、オーブンとランプの燃料用の魔石、鍋と食器をいくつか、薬の調合用の瓶ひとケース、薬草の採取道具一式、あと揺り椅子用のクッションと、窓のカーテンと・・・
小さな体で持ち込んでくれたトランクの一つはそのまま差し出し、もう一つを開けると、中身をひとつずつ私に手渡してくれる。
まるでマジックバッグのように大量の品が出て来て、あっという間にテーブルの上はいっぱい。
「最後にこれが」
と言って、懐から一枚の書類を取り出し。
「この国で有効な、ギルド認定の薬師の証明書と販売許可証でございます」
もう、何と言ったらいいのか・・・
「・・・有難うございます、こんなにたくさん・・・
でも、私、お支払いも、何も・・・」
「いえいえ、ご心配はご無用でございますです。
すべて、『勇者』殿が手配なされたことでありますですから」
え?
「『ティーが暮らしていくのに、何一つ不自由のないようにしてやってくれ』
それが『勇者』殿からの頼まれ事でございましたから」
ミューさんはちょっと身をかがめると、子供のように下から私の顔を覗き込み、不安そうに尋ねた。
「何か、見落としがございましたでしょうか?
こういうことには、不慣れでありますもので・・・わわ!」
私がどっと泣きだしたものだから、彼を慌てさせてしまった。
「いいえ、十分です。十二分です。
あり・・がとう・・・ございます・・・」




