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みかこと両親の会話

 きっと夢の中だろう。私は白い空間の中にいた。目の前にはみかこがリビングでテーブルに座りながら両親と家族会議のようなものをしている様子が見える。あーあ、これ確実に怒られるパターンね。まぁいいわ、どうして自殺なんてしようとしたのか盗み見てやろうじゃない。


 「……お母さん、お父さん……私、妊娠した」


 みかこがそう言うと、二人は顔を見合わせて、真剣な面持ちでみかこのほうを見た。その目は怒りではない。悲しみでもなさそう。一体どんな気持ちなのかしら? そういえばお腹が少し出ていたとは思ってたけれど、まさか妊娠していたとはね。


 「私ね、同級生のかける君と付き合ってたんだけど、彼の部屋に遊びに行ったら無理やり……」


 その後の会話は生々しかった。一言でいうならヤリ捨てられたのね。でも自業自得。あまり相手のことも知らないまま無防備で家になんか行くからそうなるのよ。それにかけるって奴なら私にも告白してきたわ。男に興味のない私は断ったけど、そのときに「ちっ」って、舌打ちをされたから名前だけは何となく覚えてる。きっと性格は私より悪いと思う。


 「みかこ、どうして今まで黙ってたの。家を抜け出して何をしようとしたの」

 「ずっと探してたんだぞ」

 「……死のうとしてた。お腹の赤ちゃんごと」


 その瞬間、空気が凍りついたようにみかこの両親の顔が引きつる。そりゃ驚くわよね。近所迷惑になる上に、噂になる。向かいのおばさんは一番にあることないことを流すだろうな。残された家族はもうこの街には住めなくなるわね。だからか、母親はみかこの頬を平手打ちした。父親は腕を組み、黙りこんで何も言わない。あーあ、こりゃ勘当ね。ご愁傷様。


 「なんで今まで黙ってたの!」

 「言えなかったの、情けなくて恥ずかしくて、悔しくて……」

 「あんたがどう思っていようが、私たちに黙って勝手に死ぬなんてお母さん絶対に許さないから!」

 「迷惑かけてごめんね」


 「……そういうことじゃない」


 黙っていた父親が口を開いた。お、いよいよ勘当? こればっかりは魔法でも打消しでもどうにもならないわよ。万事休す、みかこ。


 「父さんたちは、今までみかこが苦しんでいることを知らなかった。もっと早くに教えてくれたらここまでお前が追い詰められることもなかっただろう。父さんと母さんはそれが悔しいんだ」

 「悔しい……?」

 「そうよ。今まで大切に育ててきたこどもをキズモノにされた挙句、失うことになるなんて私、耐えられない」

 「でも私きっと退学だよ。校内恋愛は校則違反だもん」

 「大丈夫、お腹のこどもを堕ろせばバレないから。明日学校を休んで病院に行きましょ。学校には私がうまいこと言っておくから」

 「お腹の子、堕ろしちゃうの?」

 「そうよ。望まない妊娠だったんでしょ」

 「でも……」


 早く「そうね」って言えばいいのに、みかこはお腹をさすってなかなか頷かない。あんな男のこどもなんていらないでしょ。産まれてきても両親は喜ばないでしょうね。それこそ近所の噂になって住めなくなるかも。まぁ私には関係ないけれど。


 「私、この子産みたい」


 なにこいつ、やっぱり馬鹿だわ。あんなタラシのこどもを産みたいなんてどうかしてる。でも今度は平手打ちをされなかった。父親はみかこの瞳をしばらくジッと見つめて、「明日、産婦人科に行こう。学校にも全てを話す」と切り出した。みかこ、卒業式前に退学決定。さよーなら。


 それより、どうしてみかこの両親はみかこを許したんだろう? レールからそれたのに。見限られてもおかしくない状況を乗り切るすべがあの子にあるとは思えない。だってみかこは私がいないと何も出来ない金魚のフン。それが生意気にも自分の意見を口にした。何故?


 そこで目が覚めた。閉め忘れたカーテンから朝日が部屋に差し込む。眩しさで目が霞んだ。いつも通りカラスが鳴いている。しかも4羽。何かを話しているようで耳障りだ。


 予知夢がなかったということは、今日はいつも通り平和なのだろう。つまらないと思いつつ。私は支度をして学校へと向かった。日野に従うわけじゃないけれど、今回は母親の弁当を捨てなかった。まぁたまには惣菜パン以外のものも食べてもいいか。

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