A子の自殺を失敗させろ!
23時30分。
カーテンを開けると微妙に欠けた月が寂しそうにポツンと輝いていた。本当ならもう布団に入って寝ていたいところだけど、みかこの自殺を失敗させなくてはいけない。全く面倒だわ。友達の一人や二人ぐらい減っても何の支障もないのに……。私は魔法を使って公園へとワープした。まだA子――みかこは来ていないみたい。それより日野はどこにいるのかしら?
「やぁ、遅いじゃないか」
中央の滑り台の上で待っていたら突然声をかけられた。下を見ると日野が手を振っているのが見える。こいつ、神出鬼没なのよね。なにが「やぁ」よ。口癖? まあいいわ、合流もしたことだし、みかこが現れるのを茂みに隠れて待つとするか。それに、ちょっとした悪戯を思いついた私は少しだけワクワクしている。――あ、みかこだ。右手に持っている四角い入れ物、あれきっと灯油ね。みかこはちょうど私が座ってた滑り台のところまで行くと、欠けた月を見上げ一滴の涙を流した後、灯油を頭からかけようとした。
「今だよ。月野さん」
「だから、言われなくてもわかってるって」
時を止めた。そこで私は一つの提案をした。「灯油の代わりに水を被せてもいい?」と。日野は意外にも「良いんじゃないかな」と返した。
「彼女の涙を濯いであげよう。それに頭を冷やしてもらうためには良いんじゃないかな」
「あんたってホントに平和ボケね。まぁ面白そうだから何でもいいけど」
私はみかこの持っている灯油を消して、砂場にあった6Lバケツに魔法で水をいれ、みかこの頭上に配置して再び茂みに隠れた。日野は「ちょっと量が多すぎないかい?」と言いながらも、私の時を止める魔法を打消した。バシャンッ! という音とともに「冷たい!!」というみかこの声が深夜の公園に響いた。どっちかっていうと火達磨になってる姿の方が見てみたかった気もするけど、何が起こったかわからないでいるみかこの姿を見るのも面白い。しばらくするとパトロール中のおまわりに保護されていったのを見て、私たちは帰る事にした。
「日野、私は魔法で家に帰れるけどあんたはどうやって家に入るの」
「今日は月が綺麗だね」
「ごまかしたって無駄よ。もしかして親がいないとか?」
「いるよ。君はボクのこと気になるのかい?」
「質問に質問で返すのはよくないわよ」
「……お弁当、食べてあげなよ」
「は?」
「それじゃ!」
日野はそう言うと、私の前から走り去ってしまった。というか、私が母親の弁当を捨ててるのも予知してるわけ? 一体あいつはどれだけのことを知っているの? まぁいいわ。今回は逃げられたけれど、いつか問い詰めてやる。それより眠い、帰ろう。
自室に帰って布団の中に入る。なんでみかこは泣いていたんだろう。ま、そんなの私には関係ないけれど。死ぬぐらい辛いことって何かしら? どうせ受験に落ちたとかいじめとかでしょ。くだらない。身の丈にあった生活をしていればこの世界は平和なのよ、くだらないぐらいにね。なんでそれがわからないのかしら。
――目を閉じる。夜更かしで疲れていたのか、私は深い深い眠りについた。