ひったくりを懲らしめろ!
結局、日野のせいで学校にいるあいだ悪戯ができなかった。そんな私は今一人で下校中。さすがにバレないだろうと思って、駐輪場の自転車を一つ消して見せた。なかなか高そうなものだったから、持ち主もさぞかし困るに違いない。
私が魔女っぽく「あははは」と声をあげて笑っていると、消したはずの自転車が元に戻っていた。後ろを振り向くと日野が気持ち悪いぐらいにニコニコしながら、「はい、打消しましたー」とムカつく声で言ってきた。こいつ、後をつけてきたの? ストーカーみたいで気持ち悪いんですけど。
「ボクには予知の力があるって言ったよね。君がよからぬことを考えていることなんて、手にとってわかるよ」
「それで私をストーキングしてるわけ? 気味が悪いんだけど」
「あともう一つ予知したことがあってさ」
「だから、話を聞けー!!」
日野が言うには、近くの銀行前でひったくり事件が起こるらしい。それも私たちの目の前で。それを、私が魔法で時を止めて荷物を持ち主に返してあげようというのだ。またしても私に命令をするのかこの男は……。
「やってあげてもいいけど、少しだけ悪戯させてよ」
「んー、程度にもよるけど犯人になら良いんじゃないかな」
「あなたって人を選ぶのね。まるで何かの神様みたい」
「ボクは神様じゃない。ヒーローさ」
「はいはい、じゃあ行きましょ」
銀行前は静かで人通りが少なかった。私たちが歩いていると、一人の腰の曲がった小柄なお婆さんが、白い紙袋を持ってゆっくり歩いているのが見えた。そこに二人組みの大柄な男性がお婆さん目掛けて走ってくる。そして白い紙袋を強引に取り上げるとその場を走り去ろうとした。間違いない、ひったくりだ。
「月野さん、今だよ!」
「言われなくてもわかってるわよ」
時を止めた。そして走り去ろうとしている二人の男から紙袋を取り戻し、お婆さんの手元へと返す。私は面白半分で、男たちを上手に魔法で動かしてキスをさせてやった。そばにあった交番の警察官の手錠を取り付けて。日野は「これは酷い」と言いつつも大爆笑している。こいつ、「因果応報」とか「勧善懲悪」って言葉好きそうね。
日野が私の時を止める魔法を打消した。男たちはしばらく見つめあい、「うわぁああ!?」と大声をあげて手錠を外そうとする。そこに警察官が来て二人は逮捕された。お婆さんは不思議そうに手元の紙袋の中身を確認して帰っていった。
「あー、楽しかった」
「あんたって意外と性格悪いでしょ?」
「君だって相当のものじゃないか」
あの厳つい男たちの慌てようを思い出したら笑いが止まらない。気がつけば私たちは二人でクスクス笑いあっていた。なんだろう、この感覚。これが正義のヒーロー?
「私、暇だからまた予知夢送ってくれてもいいわよ」
「もちろん。ボクたちはこの世界を守れる存在だからね」
「そういうことは言わないで。あくまでも遊びよ、遊び」
そう言って日野と別れた。
これは面白い。それよりさっきから心臓がトクトクいっている。遊びで人の命は救えるし、悪戯や人助けもできる。私は家に帰って夕食などを済ませたあと、すぐに自室に入って布団の中に潜り込んだ。