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公園にて

 何気なく、通学途中にある例の公園をそっとのぞいてみた。そこには夢で見たこどもたちとその母親二人が集まって楽しそうに会話をしてる。近くのベンチには老夫婦もいた。ふとブランコの方を見ると、日野が鞄を抱きかかえるように前のめりになってその様子を満足げに眺めている。奴には言いたいことが山ほどあった。私はブランコのところまで行き、まずは文句を垂れた。「よくも私の夢の中に現れたわね」と。すると日野は「だって今あるこの平和を守るためだったから」と返した。


 「それよりボク、きのう不思議な夢を見てね。助けた人たちが君の事を知りたがっていたよ」

 「それなら私も見たわ。知りたがってたのはあんたのほうだったけど」

 「同じ夢でも、若干の違いがあるみたいだね」

 「もう変な夢を見るのは嫌だから、出てこないでよ」

 「で、君はボクをどういう人だって伝えたの?」

 「だから話聞いてる!? そこ、あんたの悪い癖だと思うわ」

 「ボクは君のことを、心が一人ぼっちの魔法使いだと思ってる」


 心が一人ぼっち? なにそれ嫌味? 私には昔から何でもある。円満な家庭も、欲しいおもちゃを買ってくれる祖父母も、時間つぶしの友達も……孤独なんて産まれてこの方経験したことも無い。むしろ孤独なのはぼっちな日野のほうだ。そういえば日野は人の心を動かせる力を持っているはず。どうしてそれを使って友達を作ろうとしないのだろう?


 「天士の力。打消しと予知以外は使わないの?」

 「うん。ボクは無理やり人の心を動かそうとは思わないよ。人の心は自然と動いていくものなんだ。生き物みたいにね」


 私は「ふーん」と興味なさげに呟いた。すると、夢で見た二人のこどもが私たちのほうへと走ってくるのが見えた。そして、「正義のヒーローだ!」と言うなり楽しそうに歌いだした。もしかしてこの子達も夢のことを覚えているの?

 

 「日野、あんた私のことをどう伝えたのよ」

 「もちろん、正義のヒーローさ」

 「……私もあんたのこと適当にそう伝えといたわ」

 「ボクたちのしたことは間違いじゃなかったんだ。こうして長閑のどかな生活を送るこどもたちを守れたんだから。それに、正義のヒーローだって。幸せだなぁ」

 「はいはい、自己満足自己満足。早く行かないと遅刻するわよ」

 「一緒に登校してくれるのかい?」

 「まっぴらごめんよ。あんたは遠回りの道を歩いて。私に変な夢を見せた罰よ」


 私が言うと、日野は残念そうにブランコから降りて、公園の裏口から学校へと向かって歩きだした。私は近道の通学路を通って、その途中で母が作った弁当の中身をゴミ箱に捨て、コンビニで惣菜パンを買った。美味しくないからではない。これが私の日課だ。毎日料理アプリを見ては、その毎にレシピを変えてくる。毎朝階段を降りると聴こえる母の鼻歌はどこか耳障りだ。毎回弁当が凝っているのは、どうせ学校で「あなたのお母さんステキなお弁当を作ってくるのね」と言われたいからに決まっている。そうはさせるか。でも、ちょっとだけ罪悪感はあった。何だろう、この気持ちは。


 「あぁ、イライラする」


 校門前で身だしなみのチェックがあったけれど、誰も私のネイルには気付いていないようだ。何故か遠回りしたはずの日野が、一人で本を読んで席に座っている。そしてまた友達の群れから囲まれた。話すのも面倒くさい。私が魔法を使って時間を進めたら、日野の奴がそれを打消した。


 全く、余計なことをする天士だこと。

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