夢の中での会話
……気に食わない。
日野は私の悪戯を全て打消してくる。クラスのお局的存在のB子の受験結果を悲惨なものにしてやろうと魔法をかけても、結局合格してたし。まぁ、あんな馬鹿な大学、入らないで高卒で働いた方がよっぽど経済的で親も困らないですむのにね。せいぜい奨学金返済で苦しむといいわ。猪女。
学校が終わって、母親が「おかえり、今日はあなたの好きな鮭のムニエルよ」と言ってきたので、喜んだフリをして階段を上り自室に入る。ここからはプライベートの時間だ。唯一心が落ち着く場所。夕食を済ませた後もずっと私は部屋にいて、勉強をしていると嘘をつきスマホをいじってイヤホンで音楽を聴いていた。違法アップロードのものを。
カーテンを開ける。窓枠が邪魔で半分しか見えなかったけど、きっと満月であろう黄色い物体が夜空に浮かんでいた。一日は長い。やっと夜だ。夜はいい。寝ている間は何も考えなくてもいいからだ。きっと死んだらずっとこうなのだろうと思うと、少しだけ死に興味が湧く。
私はカーテンをそっと閉めて、布団の中に入って目を閉じた――
「やぁ、月野さん」
突然の声に驚いて辺りを見回した。そこは私の部屋ではなく、教室であった。私は自分の席に座っている。そしてそこには、あの忌々しい日野が一人で立っていて、こちらに手を振っていた。
「夢にまで出てくるなんて、嫌な奴」
「ボク、嫌なことを予知したんだよ」
「話聞いてる? まぁ夢だから仕方ないけど」
「明日、○×公園で通り魔が出るらしいんだけど、ボクにはそこまでしかわからないんだ」
「私にどうしろっていうのよ」
「時間を進めて欲しい。そして通り魔が出て実際の被害人数がわかったら、ボクが時を戻してそこにいるこどもや親たちを公園から非難させるんだ」
「放っておけばいいじゃない。私には関係ないわ」
「君は正義のヒーローになりたくないのかい?」
日野は真顔で私に詰め寄る。本気の目だ。そこで目が覚めた。
「……嫌な夢」
今日は日曜日。特にすることも無かったので、夢の通りに時を夕方まで進めてみた。そしてテレビをつけると、夢で日野が言っていたように、通り魔事件が起きていた。死傷者6名。現場には血痕らしきものが残されている。
「まさか、正夢……?」
内心私はワクワクしながらテレビにかじりついていた。でも目を放した隙に、ニュースは赤ちゃんパンダの特集に変わっていた。わかっている。きっと日野が私の魔法を打消して、公園にいる人たちを非難させたに違いない。土足で人の夢にずかずかと入り込んでおいて、私に命令するなんて。それにしても予知の能力はあてにならないわね。死傷者の数や状況はわからないんだもの。一度私に魔法を使ってもらわないと、何も出来ない天士。名ばかりのヒーロー。こんなことであいつは幸せになるっていうの? 馬鹿馬鹿しい。
「明日学校に行ったら文句言ってやる」
そう思いながら、私は夜になるのを待った。それまでずっとスマホをいじっては音楽を聴いての繰り返し。いい加減同じ毎日に飽きてきた。明日は何か起こらないかな。




