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打消しの天士

 私は何食わぬ顔で自分の席に着いた。いつも通り友達という群れから「おはよー」と声をかけられる。そこにA子はいなかった。いつもなら一番最初に駆け寄ってくるペットのような存在であったのに。やっぱり消えたか。そう思いながらホームルームが始まるまでくだらない話題で盛り上がったフリをしていた。


 しばらくして、校内放送が流れた。体育館に集まれだって。クラスのみんなはざわついている。そんな中私だけは一人クスリと微笑んだ。そんな私を見ている根暗な男が一人だけいたけど、そんなの無視。だってそいつは一人で本を読んでいる寂しいぼっち。誰も気にしないわ。それより体育館に行ってA子の事を確認しなきゃ。


 「えー、この度は大変不幸なことがありまして……」


 校長先生が全校生徒の前でA子が行方不明になったことを告げた。私は心の中で大笑いしたけど、泣いたフリをして同情を買う。みんなおかしいわよね、いなくなったA子よりも泣いている私に「大丈夫だよ」なんて言ってくるんだもの。挙句の果てには一緒に泣き出して、馬鹿らしい。まぁ一応ごめん、A子。


 それより、さっきから睨みつけてくる、さっきのぼっち野郎は一体何なの? 私に何か恨みでもあるわけ? そいつは私の爪を見ては何かを呟いた。すると、いなくなったはずのA子が私の隣にいて、「あれ。今日朝礼なんてあったっけ?」と聞いてきた。私は大きな瞳をまん丸にして驚いた。その場にいる全員が何かを忘れたかのように、頭をかきながら教室へと戻っていこうとする。たしかにA子は消したはず……どうして。


 「ごめん、私お手洗い寄って行くから先に教室に行ってて」


 心当たりはあった。あのぼっち野郎にも悪魔がいるに違いない。私の悪戯を邪魔した罰だ。消してやる。体育館には私とぼっち野郎の二人だけが残った。


 「もしかして、あなたも魔法使い? なんちゃって」

 「……ボクは天士てんし。魔法使いと対になる存在」


 そういうと、ぼっち野郎は左手の人差し指にある、三日月の刻印を私に見せた。


 「あぁそうそう。妙なペインティングの家も元通りにしておいたから」

 「余計なことをしないでよ。私は消そうと思えばあなただって消せるのよ」

 「魔法使いに天士は消せないよ、天士は魔法使いと表裏一体だからね」

 「どういうこと?」

 「ボクは天使のメイって奴から知らされたんだ。この世界を”幸せ”で満たしたい心と、”不幸”で満たしたい心が互いに共存しあって世界は成り立ってるってね。ボクは幸せになりたい。君は他人を不幸にして面白がってる。ボクはそんな君の悪行を打消して幸せになってるんだよ」

 「そんなの自己満足よ。正義のヒーローにでもなったつもり?」

 「うん、そんな感じ」


 意外によく喋るぼっち野郎の名前は、日野ひののぼるというらしい。一応覚えておいてやる。ちなみに私の名前は、月野つきのしずく。魔法使いには似つかない名前だけど、これで育ってきたから今さら変えるのも違和感があるのでそのままにしておこうと思う。それに目の前には日野がいる。名前を変えたところでまた戻されてしまうのが目に見えている。

 

 「君の力とボクの力で出来ることは沢山あるんだ。この世界の悲しみを止める事だってできるはずだよ」

 「日野、頭おかしいんじゃない? これは私にとって遊びなの、遊び。わかる?」

 「遊びで世界を救えるのならいいことじゃないか」

 「だから……頭大丈夫?」

 「これは凄いことだよ。君が魔法を使って人を助ける。そしてボクが打消しの力を使ってそのサポートをするんだ。使いようによってはこの国を救うことも出来るかもしれないよ」

 「あんたはただ私の悪戯の邪魔をする程度の力しかないじゃないの」

 「ボクは天士。人の心を動かす力もあるんだ。予知の力もあるよ」

 「だからA子あのこのこともわかったのね」


 とにかく日野という男はよく喋る。しかも平和ボケ。私の一番苦手なタイプだ。私はワープで教室に行こうとしたけど、こいつの打消しの力のせいで歩いて教室に戻ることになった。

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