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マラミクで逢いましょう

 白い空間の中にいた。また私一人だけ。日野は? あたりを見回して呼びかける。もしかしてまた消えたとかじゃないでしょうね。もう一人は嫌よ。何が悲しくて人の幸せな未来なんかを見続けなくちゃいけないのよ。まぁ今回はそのための会議なんだけど……


 「やぁ、月野さん」

 「遅い」

 「夕方はいろいろ忙しくてなかなか眠れなくてね」


 へらへら笑いながら頭に手をやる日野。手の甲には引っかき傷のようなものがあった。首のあざといい、引っかき傷といい、生傷が絶えないわね。虐待でも受けてるのかしら。


 「で、どうやって世界を救うんだい」

 「天使のメイを呼び出せる? そいつに”何か”を食べさせて余分なものを打消しの力に換えてもらうのよ」

 「えっと……どういうことかな」

 

 理解できないでいる日野に、私はあっちの世界のことを話した。一部思い出せないこともあるけれど、話すと日野はわかったみたい。理屈はこうよ、魔法使いと天士は対の存在。なら悪魔と天使も対の存在に違いない。なら私の魔力が増幅した方法に近いやり方で日野の打消しの力も増幅するはず。


 「とにかく呼んでみるよ――はぁ、天使さま」

 「なんか脱力する呪いね。まぁいいけど」


 「呼んだー?」


 日野と私のど真ん中に現れたピンク色の球体がふよふよ浮かんでいる。これがメイ? アンのピンクバージョンじゃない。悪魔も天使も単純なつくりなのね。私たちはメイに一通り話をした。すると、軽い口調で「いいよー。でも条件があるー」と言ってきた。


 「健全な魂を一つー神様にささげることー」

 「それってボクたちのどちらかの魂?」

 「そうだよー今じゃなくてもいいけどー」

 「死んでからの話でも良いわけ?」

 「うんうん、でも二度と生まれ変われなくなるよー」

 「それってつまり天国に行くってことかい」

 「違うー永遠に死後の夢の世界で一人彷徨うのー」


 私は一歩退いた。私が消えたときの――あっちの世界みたいに寂しい空間に永遠に閉じ込められるっていうの? こいつ天使のくせに性格悪すぎるわ。あ、悪魔もそうだったわね。なんかこの二つの物体、どことなく似てる。もう二度とあんな世界ごめんよ。日野だって私の説明を聞いていたからきっと悩んで――


 「捧げるよ。ボクの魂」


 一瞬だけ私の中の時が止まった、かのように感じた。こいつは後先考えないバカだとは思っていたけれど、一度口にしてしまったらもう後戻りできないのを知っている。


 「じゃあ、いつごろがいいのー?」

 「ボクが死んだ後さ。生きている間に沢山の人を救って、死後の世界で沢山の人の未来の夢を見る。永遠にね。それがヒーローの勲章さ」

 「本気で言ってるの日野。私、止められないわよ」

 「いいんだ。ボクは永遠にボクとして生きていたい」

 「……わかったわ。頑固者」


 メイは私たちの顔をまじまじと見ながら「じゃあ前借しで力の付与をしたげるー」と言いながら日野の三日月の刻印の中にシュッと入っていった。刻印は七色に輝いて、白い空間に色をつけた。まるで虹が架かったかのように――


 そこで目が覚めた。あとは一人でできるでしょ、日野。信じてるわよ。かけるが滅茶苦茶にした世界を元の姿に戻して。私はそう願いながらテレビをつけた。画面には名前も知らないお笑い芸人がガヤガヤ騒ぎながらバカみたいにつまらない芸をしている姿が映っていた。


 窓を開ける。まだ早朝だというのに空には虹が架かっていた。カラスが鳴いている。まるでこの景色を喜んでいるかのように。


 「ありがとう、日野」


 あいつが死ぬか私が先に死ぬか知らないけど、あんたがあっちの世界に逝ったら、夢の中で私の夢も見るのよ。


 ――あんたは私を救ってくれたヒーローでもあるんだから――

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