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復活―あっちの世界へ―

 「呼んだ?」


 見覚えのある丸い球体が私の目の前に現れた。アンだ。そいつは私の顔を見るや否や意地悪そうにクスクス笑い出した。さすが悪魔。性格が悪いわね。私が言えたものでもないけれど。


 「あっちの世界、すごいことになってるよん。かけるって奴が魔法を使って仲の悪い国同士を喧嘩させたり、気に食わない人を消したり、時間を歪めたりして、そりゃもう愉快愉快!」


 アンはゲラゲラ笑いながら私の頭上にちょこんと乗った。それを掴んで放り投げると、しばらく飛んだあと、風船のようにふよふよ浮きながらこっちに近づいてくる。――ちょとまって、それじゃあ私の見た未来って何だったの? 世界がぐちゃぐちゃになっちゃったんじゃ、私と日野のしてきたことが無駄になったんじゃ……。あの子たちやゆみこ、みかこは大丈夫なの。私の家族や友達も。


 「で。キミはどうしてボクを呼んだの?」

 「……一人の世界に飽きたの。これから大切なものを取り戻しに行かなくちゃいけないから、私をあっちの世界に帰して」

 「んー、じゃあ君の”夢”を貰おうかな」

 「……いいわよ、どうせ叶わないんだし」

 「じゃあ、いただきますん♪」


 アンはそう言うと、食卓のスイーツを吸い込むように食べ始めた。「ごくり」という音がするとともに私は、両親とはじめて一緒に作ったシュークリームの味を忘れてしまった。そのときの会話も、あれ。どんなだったっけ。とても大切な気持ちだった気がする。


 「あーおいしかった!キミの夢は悪魔ボクにはちょっと甘すぎるかな。いらない分は魔力に変えてあげるよん」

 「いらない分?」

 「消化し切れなかった分だよん」


 抽象的過ぎて何がなんだかわからないけれど、魔力は増幅するらしい。気がつけば私は自室のベッドの中にいた。もう夕方だとカラスが告げている。一見すると何も変わっていない様に見える。テレビをつけた。よく耳にしたことのある国同士の紛争や戦争が起きている。画面越しでは、経済も人も、何もかもが狂っていた。ここは本当に私の住んでいた世界なの? あ、そうだ目覚めたら先にやらなきゃいけないことがある。


 「……かけるの全魔力を私の魔力に!」


 爪が青白く光る。☆マニキュアは以前のものより濃くなった。でも、テレビの内容は変わらなかった。日野の奴、なにしてるのよ。今こそ全部打消して「ヒーローになる」瞬間でしょ。私は魔法の力を使って日野にテレパシーを送った。


 「やぁ、月野さん……復活したんだね。よかった」

 「よかないわよ、ニュース大変なことになってるじゃない。早く打消しなさいよ。かけるの魔力は全部奪い取ったから」

 「ボク一人で世界中の紛争や経済、消えた人を何とかできると思う?」

 「なら、夢で逢いましょう。ヒーロー会議をするわ」

 「ヒーロー会議……。何か秘策は……」

 「あるから誘ってるんでしょ。今度は私があなたの話を聞かない番よ」

 「ははは、じゃあすぐに家へ帰って眠るよ。待っててね」

 「早くしなさいよ」


 こんな世界、面白くもなんともない。私たちが壊さなきゃ。それに、私のようなひねくれものが密かに世界を救う「正義のヒーロー」になるなんて。そっちの方が面白そうじゃない。


 私はヒーロー会議のために再び自室のベッドに静かに入り、掛け布団で口元を隠して、「そういえば、日野の将来はどんなだったのかしら……」そう呟いて目を閉じた。

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