表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/20

救った命の行く末

 ――何故だか私は例の公園の前にいる。中には砂場で遊ぶ二人の子供とその母親二人、ベンチに腰掛けてる老夫婦。何? こっちの世界でもあっちの世界のことが思い起こされるの? 私は「何も考えたくない」のよ。こんな長閑な風景を夢で見せられても嬉しくないわ。


 「ねぇたくちゃん、もしボクたちが死んでたら、未来はどうなってたんだろう」

 「わかんないけど、パパやママやようちゃんに会えないのはいやだなぁ」

 「ボクもたくちゃんと同じ」


 いかにもこどもらしい発想ね。特に生きてたって、何の役にも立たないわよ。一部の天才を除いては。まぁいいわ。暇だからこの子たちが将来どうなるのか見てやろうじゃない。私は時を20数年進めた。人を消す力はなくなったみたいだけれど、この魔法は使えるみたい。場面は変わって、どこかの病院の待合室の椅子に私は腰掛けていた。手術中の赤いランプが点いていたけど、しばらくするとパッと消えた。そして、一人の医師が扉を開けてやってくる。


 「元気な男の子です」


 どうやら誰かのこどもが生まれたらしい。あの二人のどっちかの子かな? 考えていると、私の横でハンカチを握り締めていた男女が、医師のもとへと走っていって「ありがとうございます、たくとさん」と言って深々と頭を下げていた。もしかして、あの医師、たくちゃんってあだなの奴じゃないの? 生きていたら産婦人科の医師になっていたのね。


 また場面が変わって、今度は大きな本屋の中にいた。立ち読みをしている人たちは『奇跡のヒーローたち』というタイトルの本を読んでいる。


 「やっぱり、ようすけ先生の本は面白いなぁ」


 なんて感想をこぼしている大学生の群れがいた。もしかしてようちゃんって奴は作家になったの? しかもタイトルからして、私と日野にインスピレーションを受けているわね。私たちが助けなかったら、あっちの世界にたくとっていう医師や『奇跡のヒーローたち』という本は存在しないことになるのね。一応救ってあげた意味はあったわけか。


 ――そこで目を覚ました。

 大きな寝室とベッドで一人目をこする。こっちの世界は静かな夜。耳障りな烏も、眩しい朝日も射さない私の大好きな世界。なのにどこかもやもやする。あの意志も何もなかった二人の平凡なこどもが、悪魔や天使に出会わなくても、新たな生命いのちを誕生させたり、人の心を動かしたりしていた。本当にどこにでもいるただのこどもたちだったのに……。


 この世界ではお腹が空くという概念もなかったけれど、この胸のつっかえを抑えるために、ベッドから降りて大きな食卓につき、沢山のスイーツをそこに並べた。まるで宝石のように輝くそれらは少しだけ私の心を満たした。友達がいればもっと盛り上がるんだろうな。別に一緒に食べたいわけじゃないけれど、こんな量一人で食べきれない。そういえば、魔法は日野がいないと打消せないんだっけ。


 目の前にあったシュークリームをパクリと口にする。バニラビーンズのプチプチとした食感に滑らかなカスタードクリームの甘み……どこか覚えのある味。――そういえば中学生の頃、両親と一緒に生地から作ったっけ。あのとき私は「パティシエ」になりたいと思ったのよね。でも高校生になってから何故かその夢を諦めた。「なれるはずがない」って。


 不思議とお腹がいっぱいになる感覚はない。このまま食べ続けてもいいけれど、考えることに疲れた私は、再び寝室に戻ってベッドで眠った。一人でいると余計なことを考えるものね。こういうときは寝るのが一番だわ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ