私の彼女は狼です
どうも、知る人ぞ知るコニ・タンです。
いやもう企画やらなんやらと忙しいはずなんですが、友人との話の流れでついラブコメを書きたくなりまして……いや、ラブコメっていうかあれです。
エロコメ(中高生に人気のあるラブコメラノベ程度のエロ分を含む物ナリ)を目指そうかと思いまして……。
見てて軽くエロを感じたら僕の勝ちです、何も感じなければ負けです、すごくエロスを感じたら僕の脳に御降臨なさったエロ神様の勝利です。
いや最後はほぼありえない程度の分量にしてありますが(笑)
「コレを着るのよ!」
今日も今日とて、朝日が眩しい。そんな事を思いながら、布団を押しのけて体を起こす。
あー今日の朝飯何かなー、とかつらつら思考しつつ寝ぼけ眼を擦っていると、こんな言葉が降りかかってきたわけです。
声を発した人物は我が母君、無駄にデカイ人だ。身長とか胸とか肝っ玉とか態度とか色々と。
そんな母が、もう40近いというのに老化があまり見られない目元をニンマリと歪ませ、コレを着ろと言ってきた。
着ろ、というからには服である。OK、認めよう。それは確かに何の変哲もない服だ。町を歩いてもあまり違和感がないだろう。
それは薄手の、突き抜ける晴天のような青空色のワンピース。ワンポイント程度に飾られた胸のお花があぁもう可愛いなコンチクショウって具合だ。
もちろん問題があるのは服ではない。ニヤニヤ笑っている服飾店経営のこの魔女だ。
大声で指摘してやる。
「だからっ! 私は男だって言ってるでしょ!」
そう、私の名前は福井 彰。立派な男の子である。
「やーねー。その口調で言っても説得力が無いわよぉ」
「母さんのせいでしょうが!」
私こと彰がどうしてここまでヤバイ事になっているのかを、簡単にダイジェストに説明しよう。
まずはこの母親、子供の頃から「可愛い服着たお姫様みたいな娘」を目指していたらしいが、バレーボール部に勧誘されるほどの類稀なる長身のおかげで挫折。ザマァミロ。
しかしその願望は成長する内に「可愛い服着た女の子が見たい!」に変化。女性専門の服飾店を経営する事を生涯の目標と誓う。
そして大人の女性となった彼女は紆余曲折の果てに現在の夫(つまり私の父)と結婚し、二階が居住スペースとなっている「エンジェルファッションHUKUI」を開く(しかしこのネーミングセンスはどうにかならないものか)。夢をかなえた。
それでまぁ、この母親はもちろん、“自分の娘”にもフリフリキュートな可愛い衣服を着せたい訳でございまして。
“うっかり”私のまたぐらのキュートな物を三年ほど見逃していたらしく。
結果、私は直そうにも直らない女口調が定着してしまったのだ……!
で、現在に思考を戻す。もちろん目の前には薄手の(以下略)を持った魔女が。
「さぁ、まだお店にも出してない新作よ。着て見せてちょうだい!」
「ヤだよ! 私はいつもの着るからね!」
いつもの、とはレディースなジーンズにTシャツ(はぁとのプリント付き。失笑)だ、しかもサイズが絶望的なまでに大きい。これでも男としての尊厳をいささか損なっている気がするが、これが一番マシなのだ。
私はがばっと跳ね起き、母の脇をすり抜けて衣装タンスの戸を開ける。
固まった。
「あら。別にそっちでも構わないけど」
右から順にメイド服ナース服バニー服エロ水着スクール水着白ゴスロリ黒ゴスロリネコ衣装イヌ衣装etc……
「カアサン?」
「あぁ、うん。友達にあげちゃったわよ、あれ」
私のライフラインをこの人は!
「う……くっ! 大体私ももう高校生なんだからね! 女装なんてしても可愛くない年齢に……」
「声変わりにしてもソプラノ寄り。私に似ず小さい。サラサラの艶のある長髪――」
そんな遺伝子を残してくれた父親を、子供の頃は良くキャッチボールに付き合ってくれた父親を、今日ばかりは恨みます。
ちなみに髪は切れない。小遣いは握られて使い道を聞かれるし、自分で切ろうにも刃物すら握らせてもらえない。
まぁそんなこんなで、私のなんかどっかがずれてる日常が始まるのだ。
***
今日は楽しいゴールデンウィーク。町を闊歩し、若者が遊戯に興じる様を、瞳に焼き付け――
「はぁ……」
溜め息を吐く。
そりゃそうだ。この歳になってまでお使いなんかあんまりしたくない。女装の次にしたくない。
しかも今は例のワンピース。ワーストワンツー揃い踏み。
だって仕方ないんだもん。この服着ないと倫理的にも肉体的にもまずいスク水着せるって脅されたんだもん。
何はともあれ、今日の夕食を頼まれたのだ。適当にコンビニ弁当でも買ってこなければ。
そう思いながら歩いていると、後ろから唐突に声がかけられた。
「アッキラー! なぁにしてんの?」
やけに馴れ馴れしい声に振り向くと、そこに居たのは同じクラスの女子ズ。総計3人ナリ。
私に声をかけたのはウチの母親に女子の制服のデザインを見せた人だ。おかげで私はセーラー服姿で登校する事が出来るので、彼女には殴り倒したいほどの感謝を感じている。
「買い物よ。親が自営業だと困る」
一応セリフの最後をぶつ切りにしてみたが、途中で「よ」とか言っちゃった。後悔。
で、女子ズはへぇ〜っと頷きあって私に談笑を仕掛けようとしてきた。このアマ思いっきり同性の友人への態度じゃゴザイマセンカ。
意識的に睨んでみたが、「かわいい」とか言われた。ちょっとショック、私のメンチってそんなに迫力ないのか。
と、そんなこんなで流されそうになっていると、再び声が聞こえた。
「オイ、何やってんだ、早く行くぞ!」
綺麗に通った、細やかな声だ。どうやら声の主は女子ズの連れらしく、三人は「ごめ〜ん」とか言いながら私の脇をすり抜けて、声の方に走り寄っていった。
オイオイ三人も引き連れるたぁどんな色男だぁ? なんて思いを込めながら、振り向く。
「……ッ!」
目を奪われた。
その人物の第一印象、中性的。第二印象、美しい。第三印象、鋭い。
体は全体的に痩せすぎではない程度に引き締まっており、背も――悔しい事に、自分では胸まで届けばせいぜいだろう。
肩口より少し高い位置にある髪は、丁度彼の目線を隠すようになっており、なんだかミステリアス。しかし風が揺れると現れるその目は、綺麗に磨かれた黒曜石のような輝きを見せる。
鼻も高い。全てのパーツが奇跡的なまでの融和性を誇り、シャープな体つきでまとまっていれば、自然印象は鋭くなる。
ただ鋭さの中にも――なんというか、柔らかさ、のようなものを感じる。それが中性的に感じる原因だろうか。
とにかく、それは、今まで見た人間の何よりも、本能的に、美しいと感じた。
「……? オレの顔になんかついてるか?」
「ぅあ!? いえっ! すいませんなんでもありません!」
意識を外界に向けた時、自分が彼をまじまじと見つめている事に気づいた。
向こうは自分を女と思ってるんだろうし……恥ずかしい。いや、男だと思われていたら余計アブナイんだけど。
「葵ー、この子ね、アキラって言うの。仲良くしてあげてね」
女子Aが私を紹介した。
「アキラ、こっちは三好 葵。隣のクラスなんだよ」
女子Bが彼を紹介した。
「うんうん、これで私たちなかよしメンバーが勢揃いしたわけですな」
女子Cが締めくくった。
その間にも私は気恥ずかしさやら何やらで、中々復帰することが出来ない。
「あ、あのっ、福井 彰ですっ! よろしくお願いします!」
びしっと腰を折り、挨拶しちゃう私。
やっちまった。好きな人の前で舞い上がる乙女みたいになっちまった。
誤解されなきゃいいなぁ、と思いながら顔を上げ、彼――三好の顔を見やる。
「福井、だな。オレは三好 葵。ま、よろしく」
そう言うと彼は、輝く目をこちらに向けて、形のいい唇を一杯に引き上げて、噛み付くように笑った。
ヤベェ。この人メチャクチャカッコイイ。
またしばらく見詰めてしまったらしく、女子ズのクスクス笑いが雑踏に消えてゆく。
「んじゃま、私たちはこれから服を見にいく所ですので!」
「アオイもご一緒なので!」
「アキラは物資調達に励みなさい!」
一通り笑った後、女子ABCは黒い三連星的なマシンガントークで私を押しきった後、いきなり三好の背中を押して人ごみの中へと消えていった。踏み台にする余裕もない。
いやぁ、あんな人も居るんだな。向こう側って感じがしない分、芸能人なんかよりもカッコよくみえた。
やっぱり本当にかっこいい人は着る物を選ばないんだなぁ。あんなTシャツ(はぁとのプリント付き。爆笑)を着ていても普通にかっこいいんだもんなぁ……。
「――……って、うぉい」
一人ノリツッコミ。
あれ、私の服じゃないか。友達って、あの人の親が母さんと知り合いだったりするのかな?
いや、そんなことよりも
(私のライフライン……絶対に取り戻す!)
そりゃもうカッコが付くくらい心に誓うのだった。
***
とはいえ、人ごみに紛れたあの四人を探すのは簡単ではない。
私はとりあえずさっさとお使いを済まし(一人おにぎり一個)、町へと走り出した。
あの三人とはたまに出かけるので行動パターンは大体把握している。カラオケなら現地集合が多いし、ああいう場合は買い物が多い。そして小物などはそれぞれ趣味が合わないらしく、三人一緒となると服ぐらいだ。
というわけで、町を駆け巡り、ようやく見つけたのはさっきから1時間半後。
「あ、見つけた! A!」
「……Aって何よ」
心の声が出ちゃったぜ。
というわけで、「エンジェルファッションHUKUI」よりも三回りほど大きい店で女子Aを見つけた。
「あ、あのっ! さっきの……三好はどこ?」
聞くと、Aがほほぉ、とでも言いたげににやりと笑った。
「あらまぁアキラぁ、アオイが気になるのぉ?」
「べ、別にそんなんじゃ!」
あの服の事は言えない。決して言えない。言ったら絶対からかわれた末に奪還不可能になる。
「私、男になんか興味ないッ!」
言い切る。ここまで言い切れば大丈夫だろう。大丈夫……だと信じたい。
しかし、Aはさらに笑みを深くする。
「男に興味はない――ねぇ」
「何よ! 本当だもの!」
Aはニヤニヤしたまま試着室の方を親指で指し示し、もう片手で口元を押えながら言う。
「じゃあどうぞ。アオイは試着室の中に居るから、お好きなように」
不審に思ったが、その程度でライフラインを諦める訳にはいかない。
私はズンズンと肩で風を切って歩き、試着室の前で立ち止まった。
見渡してみると、近くには女子BやCもいる。まともな服に着替えた三好を鑑賞するつもりか、その気持ちは少し分かる。
だが、私は待つつもりなど毛頭ない。正直、今でもこのワンピースは恥ずかしい。
女装は慣れるほどやってきたが、慣れても恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。
「三好!」
中にも聞こえるように大声を出す。
「ん……福井か」
忘れる訳がない三好の声。ビンゴだ。
「君の着てる服ね、元々は私の服なの。大事な服だから、その、返して……くれないかな?」
「はぁ? 福井が着るには大きすぎるだろ。大体、こんな服どこにでも売ってるだろうに」
仕方ないんです。買おうとしたら小遣い差し押さえられるんです。
「と、とにかく! 返して!」
「ヤだね。これ、一応親にもらったものだから勝手にあげたら怒られる」
どうやら埒が明かないようだ。となれば取る手段は――正面突破!
さっとカーテンの端に手をかける。
「もういい。あなたがそういう態度をとるんなら、私は勝手に盗ってくから」
「な……! ま、待て! 開けるな!」
ぷちっと、自分の中で何かが切れた。
男子。特性は女子よりも着替えやすい事。見られてもギャグで済む事。
それが私の場合、何故か無茶苦茶気を使われてるんだ!
そんな私のような者がいるというのに、男子の特権階級を使わんとは何事だー! と半ば混乱した思考で、カーテンを引いた。
「やめろって言ってん――ひゃ!」
ひゃ?
その悲鳴に対する答えは、声が伝わるよりも速く視界に飛び込んできていた。
三好の手にあるスカート。真っ赤なロングスカート。初めは同類かと思ったが……三好は下着が違った。
私が免除されているもの。倫理的にも肉体的にもマズイそれ。私のトランクス派宣言に、同じクラスの男子が「ええー! ○○穿くだろお前!」って――腹立ってきた。
つまり、女性用下着。パンツ。白くてふりふり。おへその下の位置に愛らしいリボン。
さらに、そこまでならまだレベルの高い熟練冒険者かーで済むのだが、そうは問屋が卸さない。
むね。つるぺったんな胸板じゃなかった。そりゃブラジャーなんか必要ないぐらいだろうけど……小さく小さく、膨らんでいる。小山。二つの小山。
えー、山の天気は変わりやすいのでご注意下さーいなんて現実逃避で脳内実況中継してみる。
ちなみに、この間約0,4秒。
「だ、だから開けんなって……」
「ご、ごめんなさい!」
ぺこりと頭を下げてみる。
三好は怒りよりも恥ずかしさが先に来たようで、お顔が真っ赤に腫れ上がっている。
しかし、と改めて三好の全身を見た。
服越しには引き締まっているように見えた体が――そりゃ引き締まっていることは引き締まっているんだけれど、筋肉なんかまるで付いていない。
首から鎖骨へのライン、くびれた腰つき。なんかもう役得。グッド。
僕を特別エロいと思わないで頂きたい。この体を見たら、そりゃ目を奪われるだろう。
例えるならば磨きぬかれた彫像のような。例えるならば触れられない名画のような。
不可侵の美しさがそこにはあった。
「い、いつまで見てんだよ」
と、声をかけられた。
マズイ、ここでもし私が男だってバレたら……。
「あ、うん。ゴメン、出るね」
「あぁ、とっとと出てくれ」
不幸な事故だった。
きっと三好は、早くカーテンを閉めたかったのだ。だから私は邪魔だったのだ。
そりゃ、早くどいて欲しければ押すよね。
で、慎重的に三好が手を下げたまま押しやすい箇所は。
胸、だったという訳で。
「…………」
「…………」
お互い沈黙。
私はもちろん、つるぺったんだ。分厚い胸板ってほどじゃないけど、部位的には間違いなく男性的なものだ。
さて、これはどうリカバリーしたものか……いや、ここはむしろ攻める!
「ごっめ〜ん☆ 実は私、男だっ――」
極限まで明るくした台詞を言い終わる前に、何かが何かを引き起こし、私を地に沈めた。何が起こったのか分からないほど素早かった。
そして倒れる前に見た三好の表情――噛み付くような笑顔じゃなくて、噛み殺そうとする憎悪の表情だ。
さて、意識を失う前に教訓を一つ。
山の天気は変わりやすい。
***
白い布。白い肌。……って、私はいつまでそれの事を考えてるんだ。
とりあえずインパクトのあるふりふりを思い出した事で思考が繋がる。そうだ、私は謎の三好神拳によってトばされたんだった。
あー、という事は気絶している訳で、つまりは倒れている訳で、背中になんか冷たい感触を感じている訳で……。
まぁ、私は公園のベンチで寝ていたようだ。
「起きたかよ」
隣から声がかかる。この声は三好だ。
反射的に起き上がる。顔を見る。そして後悔した。
なんというか、近づいたら喉笛噛み千切られそうな表情。唸り声なんかも大絶賛幻聴中。
第四印象、彼――否、彼女はなんていうか獣みたいな人だ。
「介抱でもしてくれてたの?」
「義理だ。殴り倒したのはオレだからな」
あ、やっぱ一応拳だったんだ。
しかし気まずい。このまま立ち去るのはどうかと思うし、そうなるとこのままここに座っているしかない。
急務だ。空気が重いのをどうにかしなければ、私は「世界初! 雰囲気で圧死した男!」になってしまう。
とりあえず話題……無難な話題……
「そういえば、女だったんだね」
無難な話題を探していたはずなのにこんな事を言っちゃう私はかなりの特攻野郎だと思う。ブラジャーからミサイルまで何でも……ってネタが古いか。
ちなみに、三好はこちらに殺視線を向けてきてます。怖いです。
視線で人を殺すってよく言うが、なるほどこれは首吊った方がまだマシって感じ。
「オレが男にも見えるカッコしてるとナンパ野郎が寄ってこねぇんだよ」
かなり抑揚がない感じに返事をされた。誰かー、首吊り用の何か持ってませーん?
三好はそのままジロリと瞳を向けて、口を開いた。
「テメェは? なんでそんな女のカッコなんだよ」
「あー……母の趣味です」
「ハァこいつなに言ってんの?」って顔された。私も「母なにやってんの?」なんて思います。
「で、まぁとりあえずオレの裸を見たと」
うわ、ストレートに大変避けたい話題が直撃。
「い、いや……実はあんまり見えてないのよねー……」
「六行ぐらいねっとりと描写された気がするんだが、ありゃオレの勘違いか?」
読心術者かこの人は。
「私は美しさについて描写しただけであって決して裸なんか」
「何が見えた?」
「純白ふりふり!」
体は正直な私だった。主に口。
一通り詰問を終えた三好はずいっと私に近寄ってきた。百獣の王すら獲物ですって表情を崩していないので、別にここからラブコメイベントに繋がる訳じゃないんだろう。
ジローっとしばらく睨み、そして一言。
「オレは男が嫌いだ」
グサッときた。
「とても、裏切られた気分だ」
「あ、うぅ……」
チクチクとジクジクと、心を攻め立てられる。
「正直に言え。お前はオレに欲情したか?」
と、ここで質問。
いやまぁそりゃここで煩悩爆発するような事があれば即殺な流れ……いや待て! もしかしてここは「そりゃちょっとは」とか言わなければむしろ怒られるイベントか! クソッ、生まれてこの方16年、今まで悩んだランキングTOP10に入るぜ切実に! 考えろ、考えるんだ福井彰! ……い、いやもしかして、悩む必要は無いんじゃないか? そうだよ、ここで怒られるって事は久しぶりの男扱いじゃないか! 着替え中の女子ロッカーに突入しても全然気づかれなかった私が、ひさしぶりにこんな気分を味わえるんじゃないか! よしそうと決まれば本音を叫び、頬でも一発かましてもらおう!
スーッと息を吸い、乾坤一滴の力を込めて叫ぶ。
「ムチャクチャ興奮しぐぇっ!?」
叫びきれなかった。神速で迫った三好流星拳がお腹のわりあい良いトコにキまっちゃったからだ。
あまりの激痛に意識が遠のく。3秒前の私よ、末代まで祟る。
「あーもう、やっぱりそんな事ばっか考えてんのかよ、男は」
ゴメンナサイ全国の男子諸君。私のせいで変態のレッテルを貼られてしまってもう本当に申し訳ゴザイマセン。
「う……ぐぅ、君ね、どうしてそんな簡単に暴力振るうのよ!」
「うっさい変態」
ぐはっ。
痛い痛い、超痛い。まさか一言でここまで心に響く言葉があるなんて思いもしなかった(悪い意味で)。
でも……嫌な気分じゃない。
痛くて辛くて悔しいけれど、この人ちゃんと私を男扱いしてくれる。
それが嬉しい。
今まで、スッゲェ悔しかったから。
男に告白された事も一度や二度じゃないし、女に近づいても嫉妬みたいな目を向けられるし……私はなんか、ちょっと変わった女の子みたいな扱いをされてる。
近くに居ると綺麗過ぎて落ち着かないけど……この人、なんかいい。
私をキチンと見てくれる。そうだよ、女言葉だからって中身まで女じゃないのだ。
男になんか興味はないのだ。女の子の裸の方が、そりゃ、興味はあるのだ。
だから私も、安心して憎まれ口を叩ける。
「は、そんな変態にわざわざ付き合うなんて、君、危機感ないわよ」
呆れ顔で挑発するみたいに言ってみる。案の定、三好は今にも跳びかかってきそうな凶悪な表情で返してきた。
「男なんてオレに無関心か欲情するかの二択じゃねぇか。しかも世界の半分は男。四分の一の変態を避け続ける自信はねぇよ」
嫌そうに眉を歪めながらだが、三好は続ける。
「ま、お前はまだマシだ。見た目女だから、あんま拒絶反応が起こらん」
拒絶反応レベルなのですか。
ていうか、今何気なく褒められ……てない! 見た目女とか言いやがったかコイツ!
「だれが女よ……私だって好きでやってるんじゃないのよ……!」
「ハハ、睨むな。ま、オレも見られたわけだし、お前をからかってチャラってとこだな」
これでチャラらしかった。意外と寛容。
いや、でもその程度の怒りであれって……やっぱり激しいなぁ。獣、というのは全然間違ってないようだ。
「うん……ね、チャラって事で、これからもよろしく、でいい?」
「もちろんだ。口外しないんなら許すぜ、福井」
お互い握手。うん、これで友達。
多分、お互いがお互いで変な奴だから、きっと面白い交友関係を築けると思う。
いつまで経っても声変わりすらしやしない、万年女装の福井彰と。
奔放凶暴で男みたいな獣みたいな、カッコイイ笑顔の三好葵と。
「で、口外しなければいいって事は、覚えておくのはいいの?」
意地悪く見えるようにニターと笑って言ってやると、三好は身を引いて「げ」と口にした。
「お前、やっぱりエロいよな……そんな顔してるくせに……」
「そう? 普通はこんなものじゃない?」
「思ってても口に出さないのがマナーだ、と思う」
三好は困りきった顔。あぁ、やっぱりコイツ面白い奴だ。
「大体なぁ、オレのなんか見てどうすんだっつの。胸ないし、無駄に背はでかいし」
「あ、可愛い女の子の基準がウチの母さんと同じね。この世には色んな趣味嗜好があるんだから、悲観しちゃ駄目よ」
例えば男友達には小さな女の子にしか欲情できない馬鹿が居る。人それをロリコンと呼ぶ。
ちなみに私は全年齢だ。
「つってもなぁ、オレだったら絶対に福井の方が可愛いと思うけど」
ちょっとムッとした。何だこの人、ここまで綺麗なくせに自覚無しかよ。さらに、しかも、私の事を可愛いなんて言いやがって。
「私の事を言うのはやめて。それに、三好の方が美人だわ」
「な……」
言われ慣れていないのか、急に顔を赤くする三好。あぁもう可愛いなチクショウ。
普段が獣の表情なだけに、こういうのは反則だと思う。
つーか、言われ慣れてないってありえるのかな? こんな綺麗なのに。
「ねぇ三好、あなた容姿について褒められた事はないの?」
「う、うるせぇな……オレは普段、友達の連れの男役をやってんだぜ? 女だとか思われる機会が少ねぇんだよ」
それにしても女の子からのアプローチとかあっても……あ、そっか。友達と連れ合ってるからどっちもガードできるって事ね。
そんな事を考えている内に、三好は「それに」と話を続けている。
「女だって思われてても、オッサンはいきなりホテルに誘ってくるわ不良は路地裏に連れ込もうとするわ、そのほかは大体尻ごみするし……そんな褒められる事なんて、あんまり……」
過ぎたるは及ばざるが如しってこの人のための言葉だな。犯罪犯す価値があるのかよ。
そしてまぁ、そんな人たちは天下無敵の流派三好でぶちのめされるんだろう。
それはそれとして、まぁ、面白いネタが出来た。
「ねぇ三好」
「何だ?」
「綺麗ね」
三好が鼻からなんか吹いた。紳士的にちり紙を渡してあげる。
恨みがましい視線、あの噛み殺すような表情。顔半分がティッシュの包まれているので迫力が足りないが。
とりあえず追い討ち。
「本当、お肌も綺麗だし髪も綺麗にまとまっているわ。どんな手入れをしているの? 体のラインも綺麗で、胸なんてなくても――」
ものすごい勢いで美辞麗句を羅列羅列羅列。本音70パーセント混入(当社比)
その度に三好は赤くなってはびっくりし、なんというかやっぱり可愛い。美人なだけじゃなくてこんな顔も出来るんじゃないか。なんかもう、やっぱり反則だ。
ふと、獣の中でもイヌ科っぽいよなぁ、なんて思ってしまった。
凶悪凶暴で噛み付く時には噛み付くけど、一度慣れてしまえば気安く簡単に触れ合える。そんなイヌ科。
でもそれだけじゃなくて、どこか鋭い美しさがあって……そうだ、狼だ。
今も真っ赤になっている三好。獣の中でも、特に狼に似ている。カッコイイもんな、三好。
「狼のオヒメサマ」
三好を褒め称える言葉の中に、さりげなく一言添えてみた。多分、褒め言葉。
三好は少ししか聞き取れなかったようで、首を傾げている。まぁその後も怒涛の褒め殺しで考える暇を与えなかったのだが。
そして約2分後、語彙も尽きてきたので終了。
「お、お前な……なんであんなイキナリ、あんな事、色々と……その、」
まだまだ赤い顔で獲物を品定めするように睨んでくる三好に、嫌みったらしい笑顔を返してやる。
「ふふふ。私に弱味を教えるからいけないのよ」
そういうと三好は少しポカンとして、しまいにはクスクス笑い出した。笑われる要素なんてなかったはずだが、何だろう?
笑いながら三好は立ち上がり、「ジュース買ってくる」と言ってクルリとこちらを向いた。
注文すればいいのか、と解釈し「なんでもいい」と返す。
そう言うと三好は自販機へと走って行くかと思われたが、むしろ今までのが雑談と言わんばかりにこちらを凝視する。
そして、あの口の端を一杯にあげる噛み付くような笑顔で言ってきた。
「お前、その笑い方って嫌味っぽいつもりなんだろうがな。思いっきり大好物を楽しみに待ってる子供みたいだぞ」
がーん。
ショックだ、今まで散々使ってきたのにそんな風に見られていたなんて。
ていうか、意外と可愛い表現だな三好。可愛いな三好。からかってやろう。
なんて、ちょっと言われた分はプラマイゼロになるように返そうと、言い返す。
「君、大好物を楽しみに待ってる子供って――」
言い返す。そう思って三好を見ていた。
でも、気づけなかった。あとから思ってもあれには気付けなかったと思う。
だって、茂みから岩をを持った男達が出てくるなんて、誰が思うよ。
よしんばそれに対応できたとしても――その岩、人の頭を殴るための物だって誰が思うよ。
しかも、その的が三好だなんて、誰が思うよ。
ガン、でもドン、でもない形容しがたい音が鳴った。
何だこの急展開。え? 何だこれ?
「え?」
口に出してみても何も変わらない。
三好は頭から血を流して倒れている。男達の半分は下卑た笑い声を上げて三好に近づいた。
そして、もう半分――二人の男が私に近づいてくる。
「よ、ふーくい」
ヤニ臭い汚い口から、妙にテンションが高い言葉が繰られる。
私は演技でも何でもなく、心の底から不機嫌な顔になった。
「誰?」
「あぁ? 先輩だよ、せーんーぱーい。口の利き方には気ィつけろや」
先輩、私服だから分からなかったが同じ学校の生徒って事か。
いやそんな事より――何だコイツラ? 何でいきなり三好の頭を殴って……そうだ三好!
「オイオイ連れねぇなぁ。ま、ちょっとゆっくりしてけ」
立ち上がりかけた私の肩を、先輩が強引に押し留めた。
「俺らぁなぁ、ちょいとあのオンナに借り返しに来ただけなんだよ」
借りを返しに……って
――女だって思われてても、オッサンはいきなりホテルに誘ってくるわ不良は路地裏に連れ込もうとするわ
つまりは、そういう事。
フられた野郎共が集団で襲って、そんでやっちまおうって話か。
「先輩方、恥ずかしくないんですか?」
ついと、思っていた事を口に出してしまった。やべ。
先輩二人が私に向かって眼を向ける。ジロリと、嫌な濁った目。
「何偉そうなクチ聞いてんだよコラ。下級生が偉そうに言ってんじゃねぇ!」
この人馬鹿だ。同じような事二回言いやがった。
いや、そんな事より大変だ。これ、ものすごいピンチだ。
「兄貴、手錠の準備が出来ました!」
三好の近くに居る先輩が声を張り上げる。手錠まで付けるのかよ、よっぽど手ひどくやられたんだろうなぁ、前回。
あー、どうしよう。
「おう、とりあえず両手と両足ふさいどけ。オイ福井、テメェ誰にも言うんじゃねぇぞ」
でも、三好って今日会ったばっかりなんだよな。
友達、って言ったって大した事もしてないんだよな。
大体、何だよ。一緒にいても怒られたり睨まれたりしただけじゃん。私にとってそんなに利益のある奴か?
ホラ、別にいいじゃんかよ。先輩達と何かあると面倒くさいし、痛いし、怖いし、良い事ないじゃん。
だから別に三好なんて放っていっても……
良いわけないだろ、私の馬鹿。
あぁ、何か嫌だ。こんな汚い奴らに三好が好きにされるのかと思ったら何か嫌だ。
目の前にあるこんなコレに、あんな綺麗な獣が汚されるのかと思うと吐き気がする。
それはもう――コレを阻止できるのなら、他の何かを捨てていいと思えるぐらいに。
「なぁ、先輩」
意を決して、先輩に話しかける。
「あぁ?」
かなり怪訝そうにだが、リーダー格であろう先輩は立ち止まった。
息を吸って、一言。
「三好よりも私のほうが暴れないわよ」
これは賭けだった。先輩が私の事を男だと知っているかどうか。
実際、学校にセーラー服で通っているので私の事を女と思っている生徒も少なくない。私を性別:不明として研究する天使ちゃん同好会とかいう駄目人間の組織も……って、これはどうでもいい。
つまり、学年の違う先輩の間では私は女として通っている可能性も高いのだ。
「ほぉ」
作戦は成功、らしい。
リーダー格の先輩は品定めをするように私を見つめる。
ここでもう一押し。ウィズ妖艶な瞳。
「寝てる人間なんか相手にしてもつまらないんじゃないですか? 私なら――多少は巧く出来ますけど」
もちろん嘘、男の転がし方なんて微塵も知るか。
しかし先輩は食いついてくれたようで、鼻息も荒く私の腕を掴む。
「そうだな……お前なら三好の代わりに十分だ」
周りからも「俺、コッチのが好みー!」なんて声が笑い声と共に起こる。
悔しい。悔しくて怖い。男だってバレたらどうなるだろう?
それでも、コイツラに腹が立った。もし殺されそうになったとしても、一発ぐらいは殴ってやろう。
「おい、手錠もういいわ。コイツ連れて例ん所行くぞ」
「うぃーす」
男に無理矢理半ば立たされ、歩かされる。
あーあ、ここで私も終わりかな。でも殴られて終わりって事もあるし……ていうか、男だってばれる前に服脱がされたりするのかなぁ。やだなぁ。
なんて、やけにリアルに想像している所に予想外の言葉が来た。
「つーか兄貴ぃ、コイツ顔はいいけど男なんスから、何やらせるんすか?」
「馬鹿かオメェは。服着せたままだったら一緒だっての」
…………は?
何? この人たち、もしかして男でも良いやって事で私を連れてきたの?
急に、背筋にぞわっと寒気がはしった。
何だよコイツラ、同性愛者って訳でもないのに私でいいって。
それならまだ女だと思われていたほうがマシだ。
何だよ、なんなんだよ、みんなして珍しいものでも見るみたいに。
みんなして、笑いやがって。変だって思いやがって。
私はこんな奴らに、話の種程度の気持ちで消費されるのか?
何だよそれ、気持ち悪い。嫌だよそんなの。
そうこう思う内にも段々と私は引きずられていく。
目の前に車があった。キャンプにでもいけそうな大きな車。この中でか、別の場所に行くのかは知らないけど……タイムリミットはもうすぐだ。
どうしよう? 逃げる……のは駄目だ。逃げ切っても近くに三好が居るから意味がない。
男の下卑た笑いとか、気持ち悪い香水とタバコの混ざった匂いとか、妙な熱を持った荒い息とか、イヤナモノを一杯感じる。
あぁ、同意するよ、三好。
確かにこんな奴らばっかりじゃ、男嫌いにもなるよな。
「待てよお前ら」
三好の事を考えてたら三好の声が聞こえてきた。
幻聴かな、なんて思うのはベタでお約束で面白くないので、私はゆっくりと後ろを振り返る。
そこには狼がいた。
黒曜石の瞳は光を照り返して、獲物を見定めるように視線を巡らせている。犬歯が見えるくらい歯を噛み締めて。噛み殺すみたいな表情を浮かべて。
そこには三好 葵が居た。
「お、オイ! テメェ、確かに気絶してたはずじゃ――」
「殴り方が甘すぎんだよ。騙し討ちはするくせに、まともに人殴る度胸もねぇのか」
言って、三好はいとも簡単に距離を詰める。
私にはよく見えないぐらいの速度、10秒ほどで先輩方4人は叩きのめされた。
圧倒的も圧倒的、反撃なんて頭の片隅にも浮かばない圧倒差だった。私の見える限りを細かく説明する事も出来るのだが、そこは先輩の名誉の為に黙っておいてあげよう。
なにはともあれ、先輩は三好にやられて、泣きながら車で去っていったとさ。
「あ、ありがと、三好」
再びベンチに腰を落ち着けた私と三好。
とりあえず一通り話した所で(あの不良は何だとか、三好の実家は道場をやっているから三好は強いんだとか)、私はとにかくお礼を言った。
「何言ってんだよ、お前が居なきゃ目ぇ覚ます前に連れ去られてたからな。礼を言うのはこっちだっての」
ふぅと溜め息をついて、三好は格好良く、噛み付くみたいに笑った。
やっぱり傍から見ると性別が逆だよなぁ、なんて思うと憂鬱になる私だった。
そして、礼はいらないと言われても納得がいかないのも私だった。
「でも、三好に助けられたのは事実だから。ありがとう」
「だからっ! オレに礼を言わせろよ!」
お礼をしたのに、三好は怒るように立ち上がって喋りだした。
「今日のはお前が居なきゃ危なかったし、後から聞くと身代わりになってくれたみたいだし――」
改めて色々と言われると照れるなぁ。
「綺麗だって言ってくれたし、可愛いし――」
……え?
ちょっと待ってくださいよ三好さん。感謝とは方向性がずれてきてやせんかね?
「あぁもう!」
三好は吹っ切るように空に叫んでから、赤い顔で私の両肩を掴んで、まっすぐと見つめてきた。
「惚れた!」
すごいストレートな告白だった。
ていうか、そんな事じゃなくて。
「あ、あのー……三好? 私達ってまだ会って一日も経ってないし……」
「きっと運命だ!」
安い運命だった。
「でも私は三好の事あんまり知らないし三好も私の事知らないしえとそれに何より時間って大切だと思うのよだってそれでほらあの」
早口にまくし立てる。ていうか、私も混乱しているっぽい。
でも止まらない。頭の中でどこか冷静に分析している私がいるのに、口は止まってくれない。
そんな私を、隣に座った三好が抱きしめた。口から洪水のごとく流れ出ていた言葉が止まる。
ていうか、うわ。役得。
「なぁ福井、別に彼女居ないんだろ?」
問いかけてくる三好にコクコクと首で答えながらも、脳の半分ぐらいはショートしていた。
遠目で見るとほっそりとしっかりとした体つきだが、触れ合ってみるとコレが中々に柔らかい。
腕が背中に回されて、なんだかとっても気持ちいい。
しかも! 私と三好の身長差はかなりのもの! これが何を意味するかというと……ほぼ顔の位置に胸があります!
コレが一番やばかった。色々と。
この部分もやっぱり触れると柔らかくて……しかも、それが他の部位よりもより一層アレなわけで。
ショートして色々トんだ頭が半分、欲望と本能を押さえつける為にもう半分使う。
「じゃあ、しばらくお試し期間ってことで……その、な。うん、お前が嫌なら、嫌って言ってくれれば、その……うん、だからな」
抱きしめたままの姿勢で、私の思考がおぼつかないままに、三好は顔を下げて耳元で囁いてきた。
「オレと付き合ってくれないか」
こんなの反則だ。首を縦に振るしかないじゃないか。
***
次の日。
あのまま三好の言葉に応じた私は、疲れ果てて家に帰った途端にベッドへと倒れた。
しかしそれでも興奮して中々眠れず、結局やっぱり寝不足。
という訳で、クマさんの目覚まし時計(もちろん母が買ってきた)が鳴り続けても中々起きる気がしない。
……まー、いっか。まだゴールデンウィーク中だし。学校休みだし。
私は丸めた布団に抱きつきながら、再び夢の世界へと旅立とうとしていた。
「起きろ」
うるさいなー、母さんも今日ぐらいは寝かしてくれてもいいじゃないか。
大体、そんな耳元で……
「起きろ、福井」
福井、なんて母さんが言うはずなかった。
何故か、とても、嫌な予感がした。
目を開けると、そこにあったのは丸めた布団じゃなくて三好葵だった。
もちろん等身大抱き枕なんかじゃない。正真正銘、生身の三好。
「み、三好っ!?」
「そんなに驚くなよ……あ、そうだ。さすがに恋人に名字はないと思ったんだけど、どう呼べばいいんだ? アキラでいいか?」
知らねぇよ、そんな事!
今まで抱きついていたのが三好だと気づき、私は慌てて距離をとった。
「な、何でここに!?」
「友達だって言ったらアキラのお母さんが通してくれた。警戒心ゼロだな、お前の母親」
母さーん!
「でも、何でベッドにまで入ってくるのよ! 普通に起こしてくれれば……」
「いやいや、寝顔を近くで堪能しようと思ったら、アキラに押し倒されてあんな状態になったわけだ。オレのせいじゃない」
私の寝相は悪いんだ、仕方ない。むしろ寝顔を覗き込もうとしたのが悪い。
「いやいやしかし……」
そして三好は、あの笑いを浮かべながら視線を下にずらした。
「そんな顔をしてても、やっぱり男なんだな」
視線の先を追いかけて、そして顔が熱くなるのを感じた。
私は寝る時、パンツとシャツだけで寝る。楽だし男っぽいし、何より母さんのハンドメイドウサギさんパジャマを着たくないからだ。
で、まぁ。下って事は下って事で。つまりは下を凝視されている訳で。
「み、見るなぁっ! 出てけー! 私の部屋から出てってよー!」
そんな私の調子に、三好はさらに盛り上がってきたのか、膝立ちになってジリジリと近づいてくる。
ちなみに、顔が危ない。
「おやおやアキラはそんな格好で女を部屋に招いて、何をしようとしてるんだぁ? そんだけお膳立てされてりゃ、オレに何されても、文句は言えねぇよなぁ」
「ひ……」
私はベッドから飛び降りようとする。
三好はそんな私の足首を掴もうとする。
「イヤアアアアァァァァァ!!」
誰か助けて下さい。
私の彼女は狼です!
***
そうそう、一つ話し忘れていたことがあった。
話の発端となった私のあの服、あれは三好からきっちり返してもらえた。
返してもらえたのは返してもらえたんだけど……三好はなにやらあれが気に入っていたようで。
結局三好もあの服を買い、今ではペアルックみたいになっていたりなっていなかったり。
まぁ、とにかく私が狼に食べられそうになっている所で、幕を引いておこう。
おしまい。
楽しんで頂けたでしょうか?
僕のラブコメは短編一作目(幽霊と片想いと)でもそうでしたが、何かが変則的(笑)
コレを書いて思ったのは、自分ってやっぱり連載派なんだなぁ、って事です。
いやもう一話にまとめるのが中々大変で、すごい文字数になっちゃいました。もはや短編と呼んでいいのか不明です。
それに連載用に色々とアイデアも出てきて……一応、連載作品があるから今の所は連載する気ないんですけどねー。
ていうか、連載読みたい人っています?(笑)
では、ここいらで後書きを終わらせて頂きます。
皆様、また機会があれば別の小説でお会いしましょう。