旅立ちの時
朝。
いつものようにカーテンを開けると晴天の青空が広がっていた。窓を開けて朝日を浴びながら深呼吸する。
いつも通りの朝だが、いつもと違う。
簡単にまとめられた荷物がそれを物語っている。
「(よし、そろそろ行かないと……)」
荷物を手に持ち、自分の部屋を見回す。
幼い頃の写真、ぬいぐるみ、思い出の品々……
それを自分の中に忘れずに焼き付ける。
部屋を出て階段を降りた。
既に両親は玄関でシャルロットを待っていた。
「おはよう。旅立ちの朝にはぴったりの天気ね」
「こうゆう日はしっかり起きられるんだからなぁ。いつもそうだったら感心なのに」
両親はにこやかな笑顔を浮かべていた。最後くらい笑顔でいたくてシャルロットもつられて笑顔になる。
「大事な用事がある時はちゃんと起きられるんだからしっかりしてるでしょ?私」
階段を駆け足で降りながらそう言う。
一通り談笑し、シャルロットは一息つく。この後タイクーン城に行くことになっているのでもう長居はしていられない。
「じゃあ……私、行くね」
「……ああ。道中気をつけてな」
「身体には充分気をつけてね。いってらっしゃい」
「うん、いってきます!」
泣きそうになるのを我慢しながら声を震わせ、精一杯の笑顔を見せて家を出た。
シャルロットが背を向け、町へ向けて歩き出す。段々と遠くなるその背中に両親は思わず涙をこぼす。
「……シャルロットっ!血の繋がりがなくても私たちは家族よ!忘れないで……!」
「辛くなったらいつでも帰って来なさい!お前の家はここなんだからな!」
「(パパ……ママ……!)」
両親の言葉に堪えていた涙が流れた。
しかし振り返らずに、手を大きく振って返事をする。
育ての親の元を離れ、生みの親へ会いに行く……その大きな1歩を踏み出したのだった。
シャルロットが育った森。
幼い頃走り回った広場、そこにある父が作ったブランコ。
母がいつも手入れしている花畑。
一歩一歩歩く度に思い出があふれては遠ざかっていく。でも決して立ち止まりはしなかった。思い出は胸に、シャルロットは新たなことに立ち向かう覚悟があるからだ。
町へ向かうシャルロットに小鳥たちが近くに寄ってさえずってきた。
「みんな元気でね。私も頑張るから」
まるで小鳥たちもシャルロットとの別れを惜しむように鳴いて、しばらく近くを飛んで名残惜しそうに去っていった。
そして町を抜け、タイクーン城にたどり着いた。入口の大きな門にはシャルロットを待つ1人の人物がいた。
「ノエル……!」
ノエルの姿を確認すると思わず駆け寄る。
「ご両親とはちゃんと話せた?」
「ええ。やっぱり寂しい気持ちはあるけどね。……ところで私、お城に呼ばれたのはいいけどどういった用件なの?」
「あぁ、それは……」
「それは?」
首を傾げるシャルロットにノエルは手を差し伸べる。
「俺もお供させてもらってもいいですか?お姫様?」
シャルロットは一瞬驚いたが、すぐ嬉しさがこみ上げてきた。1人で旅するよりもずっと心強いし、何よりノエルと一緒なら……と思った。
「もちろん!」
シャルロットは快くノエルの手を握り返す。
「でも、一国の王子が城を開けるなんて大丈夫なの?王様は許してくれた?」
「心配ないよ、シャルロット姫」
いきなりの王の登場に周りの兵士たちが一斉に頭を下げる。
「父上……来なくていいと言ったのに」
ノエルは困り顔でやれやれと肩を落とした。
「何を言うか!ノエルのためではなく、姫のために来たのだ」
シャルロットはそんな父子のやり取りにクスッと笑った。
「……そうだ姫よ、1つ言い忘れていたことがある。今、オーフェリア王国には姫より1つ年下の双子の王子がいる。会うことができたら良いな」
「私の……弟……!」
弟が2人いるということは自分の姉弟がいるということ。実の両親に会うのも楽しみだが、弟に会うのにも楽しみになってきた。
「王様、色々とありがとうございます。無事にオーフェリア王国にたどり着いてみせます!」
「うむ。気を付けてな。……ノエル、姫を頼んだぞ」
「言われなくとも」
ノエルは王に向かって跪いた。
「では、いってきます!」
2人はタイクーン城に背を向けて歩き出した。
「────神よ、どうかオーフェリアの姫にご加護があらんことを……」
晴天広がる空に王は祈る。
一国の王子と忘れ去られた一国の姫が、長い冒険へと旅立ったのだった。




