タイクーン城、予感
城の中はシャルロットの想像を絶するものだった。広い、豪華、きれい……初めて見る城に興奮を抑えきれない。さすがに勝手に歩き回るのは控えて、応接室までの道のりを目で楽しんでいた。
「ありがとうノエル。おかげで助かったわ。後、こんな夜中にごめんなさい……」
恐る恐る反応を伺いながら話しかける。
「いいさ。外が騒がしくて見てみたらシャルロットがいたから驚いたよ」
ノエルは迷惑そうな素振りは見せず、逆に快く迎えてくれているようだった。シャルロットはやっと安堵の表情を浮かべる。
「それで、こんな時間に家出少女は何をしに来たのかな?」
子ども扱いするようにシャルロットの顔を覗き込む。
「ば、ばかにしないでよね!ちょっと……親と喧嘩しただけよ……」
頬を赤らめながら俯く。
「なるほど。ってことは自分の意志でここまで来たんだ。すごいな、シャルロット」
「え……?」
怒られるとばかり思っていたので逆に褒められて不意をつかれた。
出会ったばかりだが、ノエルになら事情を話してもいいような気がして家出のことを詳しく話そうと思った。
「実は……」
ノエルはしっかり相槌をつきながら最後までしっかり聞いてくれた。話し終わったところで今日はもう遅いということで一晩城で過ごすことになった。
応接室に1人のメイドが入ってくる。丁寧なお辞儀をしながらシャルロットににこやかに微笑んだ。
「俺の客人だ。よろしく頼むよ」
「かしこまりました」
「明日、また詳しく話を聞くから今日はゆっくり休んで。メイドに身の回りの世話を頼んだから。……じゃあおやすみ」
ノエルはシャルロットに優しく微笑むと応接室から出て行った。
「あ……」
ノエルの姿が見えなくなると急に不安感が増してくる。そんなシャルロットを見越してか、メイドは優しい声色で話しかけた。
「シャルロット様……ですね?お部屋をご用意しております。ご案内致しますわ」
「ありがとうございます……」
緊張しながらメイドの後をついて行く。城内が広いせいか2人の足音がやけに響いている。そんな中、不意にメイドが後ろを振り返る。
「いきなりこんな事を申し上げるのはどうかと思ったのですが……一瞬どこかの姫君かと思ってしまいました」
「えっ、そんなそんな!私はただの平民で城に上がるなんてめっそうもない身分です!!」
慌てて否定するシャルロットを見て、メイドはクスッと笑う。
「申し訳ございません。私様々な国の王子や姫を見てきまして、同じような雰囲気を感じまして。……ただの戯言だと思って忘れて下さいませ」
「はぁ……分かりました」
何を根拠にそう思ったのか現実味のない話をされて、でも何か引っかかるのだった。
部屋に案内されるとようやく1人になれた開放感から一気に緊張が解かれ、ベッドにダイブした。
天蓋付きのベッドで、とても1人用とは思えない大きさのベッドだ。
「(何だか急展開すぎて頭が追いつかない。……だめ、もう寝よう)」
きっと疲れているんだと自分に言い聞かせて目を閉じる。程なくして眠気はやってくると同時に、シャルロットはある夢を見る……。
柔らかな木漏れ日が降り注ぐ室内。
シャルロットは昼寝をしているのかゆりかごに乗せられてうとうとしていた。
「シャル……ト……私の小さな小さなお……さま」
所々聞こえない。
話しかけてくるのは母親のようだ。
しかし声は母親の声ではない。
部屋の様子も自分の家ではない。
ただ、母親に抱かれている時の温もりは温かくて、どこか懐かしい。
その温もりに包まれるように夢は段々と遠のいていったのだった。




