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魔王と約束

「…どうして、殺したのよ」


 再度、少女が問いかける。


「食べ物は必要ないって言っていたじゃない」


 お腹がすいていたから、と言われたら、まだ許せるような気がした。

 彼女達は中庭のいちばん日当りのいいところで、穴を掘っている最中だ。正確には、彼女が土を堀り、魔王は土の上でしゃがみこんでいる。その足はしっかり土についていた。

 こうやって、土をいじるのも幼い頃以来ね。

 少女の頬は、久しぶりの力仕事に土まみれになる。

 緑色のワンピースも跳ねた土でシミができている。

 体だってくたくただ。

 陽が昇りかけているというのに、一睡もしていない。

 それでも、動いている方がマシなような気がしたのだった。


「分からない。ただ、あのネコがなんで生きているのか、知りたくなったんだ」


 これじゃあ、わたしとの約束もいつ一方的に放棄されるか分からないわね。土にシャベルを突き立てながら、少女はため息をつく。


「あなた、まるで神様みたいよ。なんでも、自分の思い通りになるワケじゃないんだからね」

「うん、そうだね」


 汗が額をつたい、流れ落ちた。

 ぽっかりと開いた空間に、布で包んだテガミネコの死骸を入れる。

 それだけでは足りないような気がして、好きだった魚の缶詰と、小さく枯れかけた野花を添えた。


「ごめんね」


 守ってあげられなくて。

 意味もなく、命を散らせてしまって。

 掘り返した土を上に乗せる。土の重さで苦しくないように、できるだけ優しく被せた。

 このネコが土に還って、またどこかで、巡り会えますように。

 少女は膝をついて、祈りを捧げる。神を持たない少女が祈る相手は誰でもない。強いていうなら世界に、だった。もっとも、この荒れた大地ではそれも不毛なことかもしれなかったが。

 やがて、顔を上げた少女が宣言する。


「約束は、守ってもらうわよ」


 西に昇る太陽がその赤い髪を、そのまるっこい顔を、緑色の瞳をやさしく照らしていた。




 *


 わたしやその周囲にいる生き物をどんな意味でも傷つけないこと。

 わたしと一緒にいるのに飽きた場合、殺さずに城から追い出すこと。

 …それから、いっしょに、畑をたがやして、いっしょに、ごはんを食べること。



 そのみっつを、約束してちょうだい。


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