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少女と家族

「アンタっ!」


 女性としてはハスキーな声。

 ある国の首都の隅っこにある、ローハウスのうちの一つから、細身で背の高い女性が出てきて、少女の姿を認めた瞬間、あげたものだ。手に抱えていた花を放り投げて、少女に駆け寄ってくる。

 少女も駆け寄ると、その女性に向かって、思い切り抱きついた。


「ただいま!」


 勢いのいい少女をしっかりと抱きとめると、


「まったく。あんたは人に心配ばかりかけて…」


 と、ぶつくさいう。

 その割にその顔は嬉しそうに綻んでいるのであった。

 背が高い割に丸い顔は少女にそっくりだ。いや、少女が母親の丸顔をうけついだというべきか。


「母さん、客人を連れてきたの」


 少女がここまで連れてきてくれた一家を紹介する。一家はちょうど、空いているスペースに荷車を停車させたところだった。御者台から男が降りてくる。母親は、男に目を向けると、おやおや、と呟いた。


「久しぶりじゃないか。元気かい?」

「ああ、あんたもな」


 男がにやりと笑みを浮かべる。


「その様子を見ると、ついに国を抜けたってところかい?」

「そうだ。妻子もいる」

「あいかわらず綺麗な奥さんだこと。おや、あんたたちははじめまして、だね」


 少女の母親はそう言って、一人一人と握手をした。兄妹がもごもごと口を動かす。

 再度、片手で少女のことを抱きしめ、少女の母親は手招きをした。


「よかったら、中に入りなよ。話をきかせておくれ」




 家の中に入ると、懐かしい匂いがする。香水の甘ったるい匂いではないが、とても、落ち着く香りだ。

 母親がリビングで接客をしている間に、少女は家族に挨拶をして回る。

 周辺の家と大して変わらない家だが、そこが彼女の家だというだけで少女は落ち着くことができる。


「ただいま」

「ねえちゃん!」


 舌足らずな下の弟が驚いた声をあげる。


「ただいま」

「放蕩者のねえちゃんがやっと帰ってきた」


 こ憎たらしい口を聞くのは上の弟だ。


「ただいま」

「おやおや、小枝ちゃん。おかえり」


 魔王城と比べると格段に小さい、隣の家のと隣接している庭。そこで、薪割りをしていた父親がほほえんで、斧を立てかけると、少女の額にキスをした。

 少女は木でできた階段をどたどたと駆け上ると、自分の部屋のドアを開ける。

 小さい頃から収集した不思議な小石のコレクション。

 弟たちが自作して、誕生日に贈ってくれたヌイグルミ。

 母さんが作った特性のオーディオ。

 そして、自分がだいすきな本たち。

 どれもこれも、大事な物だ。

 度重なる転居の際も捨てる事はけしてなかった。

 それだけじゃない。

 大きな窓。

 自分の寝床。

 そして、出て行った時と寸分変わらぬ部屋を見て、ほっと息をついた。

 やっぱり、ここは落ち着くわね。

 …魔王はどうしているのかな。

 胸中をよぎった考えを、頭を振る事で振り払った。

 向こうが願い下げだと言ったのだ。

 これ以上、少女にどうできるというのだろう。

 ベットにぼすんと寝転がる。

 …このまま寝てしまおうかしら。

 瞳を閉じる。

 しかし、すぐに、階下から母親の呼び出しがかかった。


「ねえ、ちょっと。アンタ、帰ってきたんなら手伝いなさいよ!」


 ちっとできるだけ可愛らしく舌打ちすると、少女も叫び返した。


「わかってるって! もう少ししたらいく!」

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